到着時、ドアマンに愛想よく迎えられたまではよかったが、フロントでは行列させられた。渋々並んでいると、チェックアウトの客が列を無視して割り込んでカウンターへと進んだ。それを見て何もしないベルアテンダントや、そのまま手続きするフロント係にはあきれ果てた。

当然のように文句が口から飛び出したが、係の言葉は「少々お待ち下さい」オンリーだった。その言葉は聞き飽きた。だいたい、到着してからドアマン以外から聞いたセリフは、それ一種類だけである。

どいつもこいつもそれしか言えないのか。「いらっしゃいませ」とか「お待たせして申し訳ありません」とか、他にも言うことがあるだろうに。そこに出てきた馴染みの係は平謝り。ペコペコするより、まともな仕事をしてくれと頼み、ルームキーを受け取った。

その部屋には不備があり、新しい部屋に移る必要が生じた。改めて用意されたのは、バルコニーのある広い部屋ではあったが、いつもリクエストしているタオルの追加や延長コードは、もう一度頼むまでセットされることはなかった。そしてコーヒーメーカーを用意してくれたのはいいが、カップ&ソーサーを持ってこないなど、気持ちと実行力に差が見受けられる。

21:00ごろ、何やら上の階から騒音が響いてきた。ガンガン、ドンドンと、何かをどこかにぶつけて打ち鳴らしているかのようだった。窓を閉めていても聞こえてくる大声はどうやら英語の様子。

バルコニーに出て、庭園を散策する人をナンパしているのか、口笛を吹き、「ヘイ、こっちを見て！」「きみ、英語話せる？」と叫んでいる。おかしな外国人が酔っぱらって騒いでいるに違いないと思い、たしなめるつもりでバルコニーに出てみた。

見上げると、ふたつ上の階に若い外国人の男がいた。何事かと問いかけると、「ドアが閉まってバルコニーに締め出された」とのこと。それは大変。すぐにフロントに連絡するからそのまま待てと伝え、室内で受話器を取った。

状況を説明すると、すぐに対処するとの返事。またバルコニーに出て、上の男たちにそれを伝えた。数分後、フロントマネジャーより電話があって、無事に「救出」したとの報告。何故締め出されたのかは謎だが、とにもかくにも無事に解決して何よりである。

だが、ルームチェンジがなかったら、場合によっては彼らはバルコニーで一夜を過ごすか、もしくはアクション映画さながらに、外壁から脱出しなければならなかったかもしれない。バルコニーに出る時は、窓を開け放っておく方がいいようだ。