その後チェックインが無事に済み、一服しようとラウンジ「バンブー」に向かった。席へはすぐに案内されたが、なかなか注文を取りに来てくれなかった。見たところ、スタッフは十分に揃っており、あたふたするほど忙しい状況には見えない。空いたトレーを片手に何人ものスタッフが近くを通るのに、なぜか気付いてくれないのだった。ここのスタッフもまたお疲れなのか。なにかホテル全体が空回りしているように思えた。

部屋に入って、デスクに向かって作業をしていたら、隣室がにわかに騒々しくなった。最近このホテルは頻繁に利用しており、部屋の静けさには十分に注意して欲しいと頼んであるので、今回もそれなりの配慮があったものと思っていた。具体的には、数室まとまってのグループ客や、子供連れなどが、両隣と上の部屋にならないように調整してもらっている。グループ客も子供連れも、隣に音に敏感な客がいるとなれば落ち着かないだろうから、接近しないようにすれば双方がハッピーだし、ホテルにとっても後々に問題が生じるというリスクがなくなってみんなハッピーなのである。

というわけで、今、隣室から聞こえている騒ぎは、たまたま一時的に湧き上がったものと考え、しばらく様子を見ることにした。だが、夕食が済んでも、まだ大声が聞こえており、ドタンバタンと走り回る音も響いている。静まるどころかエスカレートしているように感じられる。時計を見ると23時を過ぎていた。堪りかねてフロントに電話をすると、状況を調べて対処するとのことだった。

しばらくしてアシスタントマネジャーから電話が入った。グループで数室にわかれて滞在している客が、隣の部屋に集まっているという状況で、その中には子供も含まれるらしい。そして、この賑わいは収まりそうもないので、部屋を移って欲しいと言って来たのである。このような事態にならないように、みんながハッピーに過ごせるようにと考え、あらかじめ頼みごとをしたのに、その意図が伝わっていなかったのは残念だ。

だが、ここで折れるつもりはない。別の部屋を用意したというのなら、隣室の方々にそちらに移ってもらえばいいではないかと言い返した。狭い部屋に大勢が集まれば、フツウに振舞っているつもりでも、知らず知らずのうちに周囲に迷惑が掛かる賑わいになってしまうことくらい、ホテルのマネジャーなら容易に想像できなければならない。そもそも、数室にわたって部屋を取っているのなら、何も隣室でなくて、中央の部屋にでも集まればいい。

こうした時、隣室のグループにやんわりと注意を促し、角を立てずに静かにしてもらう言い方など、いくらでもあると思うのだが、マネジャーはそれが思いつかないのか、躊躇するばかり。「何なら、私が言いましょうか」と切り出すと、やっと行動に移す決心が付いたようだった。

またしばらくの後、マネジャーから、隣室に別の部屋へ移ってもらったとの報告があったので、それに対して礼を述べると、「今後はこのようなことのないようにしますので、ぜひ期待してください」と言われた。この「期待」というコトバにちょっとした違和感をおぼえたが、せっかくなので次回は大いに期待するとしよう。

こうして部屋に静寂が戻った。まるで居心地が違うではないか。静けさの価値は、息を呑むような景観にも匹敵すると実感した。