このホテルは、世界的な建築家ミノル・ヤマサキ設計による外観デザインが素晴らしい。金属の質感を活かしたシンプルなデザインでありながら、縦に連なった黒い窓枠と張り出したパーティションが、全体に適度なリズム感を与えている。そして、2箇所で大きく分節された美しいフォルムが、全体の存在感を際立たせている。さすが、世界のモダニズムの頂点に立った大御所の設計だけのことはある。
ミノル・ヤマサキの代表作といえば、ニューヨークのワールドトレードセンタービルだろう。テロ攻撃で倒壊したあの超高層ビルである。このホテルもワールドトレードセンターも完成したのは70年代、ヤマサキの円熟期の作品だ。ヤマサキの著名な作品には、他にロサンゼルスのセンチュリープラザホテル&タワーや、プリンストン大学校舎、セントルイス空港ターミナルビルなどがある。ゆるく弧を描いたホテル建築という点では、センチュリープラザの本館に少し似ているかもしれない。
ヤマサキはアメリカの建築賞を何度も受賞し、作品数の多いことでも知られているが、日本での作品はほとんどない。現在日本で見られるヤマサキ作品は、このホテルぐらいではなかろうか。貴重な存在だ。
ところで、このホテルは、外観はミノル・ヤマサキだが、内装は村野藤吾の設計である。村野は日本の建築界の大御所だが、京都の都ホテルの一部や新都ホテル、都ホテル大阪、志摩観光ホテルなどを設計しているので、都ホテルにとってはなじみの建築家だったのだろう。しかし、村野といえば、曲線的・有機的デザインを特徴とする「反モダニズム」の建築家だ。モダニズムの大御所ミノル・ヤマサキと、反モダニズムの大御所村野藤吾を組み合わせるというのも、なかなかすごいことだ。
ただ2001年の改装で、村野の内装デザインが失われつつあるのは残念なことだ。未改装の低層階部分の客室と、地下の宴会場フロアには、まだ村野のデザインが残っている。
このホテルの周辺には、洒落た店や美術館などもあり、散策するには恵まれた環境を持っている。それに加え、館内には興味深いインテリアや建築美が随所に見られるし、敷地内の庭園ものんびりと過ごす時間をより豊かにしてくれる。この日は最上階の客室から、木立ちの上の乱舞する、夥しい数の蝶の姿が見られた。あまり目立たないが、意外と非日常に近いところに存在するホテルだ。
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