ほぼ全面的に改装された8階以上の客室に対し、2階から7階に位置する部屋は、かつてからの雰囲気をそのまま残していて懐かしい。特にモダンなロビーから、これまた改装されたエレベータを使って古いフロアに降り立つと、エレベータの扉が「どこでもドア」に思えるくらい、別世界へと空気が変わるのが面白い。こうした対照的なテイストの共存は客室のみならず、レストランやパブリックスペースにも見られ、独特の変化を感じさせてくれる。
今回の客室は36平米のスーペリアタイプ。(このホテルの客室のカテゴリー分けは、すこしややこしい。スタンダードは29平米の未改装室を指すようだが、スーペリアは36平米の未改装室と29平米の改装済室両方を、デラックスは40平米ベランダつき未改装室と36平米改装済室両方を指すようだ。)室内は広くゆったりとしていて、どこにも圧迫感がない。まだ30平米程度でも広さを自慢できる時代に、36平米もの面積と、3メートルに迫る天井高を確保したことは、今思い返せば随分と贅沢なことだった。
窓際のシッティングスペースには、5人が座れるだけの用意があってなお余裕がある。村野藤吾らしさが光るテーブルの上には冷水が用意され、どことなく旅館的なテイストが感じられる。家具類はいずれも質の良い品物だから、長く使うほどに味がでるだろう。ベッドは全館に導入された、このホテル自慢のスーパーベッドだから、眠りの快適さは言うまでもない。
バスルームはまったくもって以前のままに使われている。照明がベイシン上にしかないので全体的に薄暗く、特にバスタブのあたりはかなり暗い。ただ、昔ながらの壁紙やタイル張りはそれでよしとしても、目地にカビらしきものが目立ったり、バスタブに湯を張るだけで、付着していたアカや汚れが浮き上がってくるような清掃状況というのは困ったものだ。また、室内のテーブル上のそこかしこにも、汚れの拭き残しやベトつきが残っていた。古いことと不潔なこととは次元が違う。清掃には一層の注意を払って欲しい。
夕食はルームサービスで軽く済ませたのだが、メニューががらりと変わって良くなっていた。種類が増えただけでなく、楽しみながら迷える内容になった。各レストランからの人気メニューもそろっており、値段も手ごろだし、24時間営業しているのもありがたい。更に驚いたのは朝食セットメニューの充実ぶりだ。アメリカンやコンチネンタル、和朝食だけでなく、なんと12種類ものセットが用意されている。値段はやや高めだが、チャイニーズ、エッグベネディクト、ニューヨークベーグルなど、それぞれ魅力的な内容だ。
フロントやベルなどのサービスは快適だった。リニューアルオープン当時と比較すると、格段に落ち着いたサービスができるようになった。研修中のバッジをつけた新人たちの溌剌とした姿勢にも好感が持てた。また、ロビーの五月飾りやエレベータホールの生花など、ふと和ませてくれるものが、館内のいたるところで目に入るのは、なんともうれしいものだ。
|