混雑する環境でこうした対応をしてくれるのは、ガラガラの状態でされるよりも一層嬉しく感じられる。「いつもご利用いただき、ありがとうございます。」とか「ごゆっくりお過ごしください。」など、ありふれた言葉であっても、その効果は大きい。

そんなわけで機嫌よくラウンジへ行くと、すでにマネジャーから到着の連絡が入っており、レセプションカウンターにはルームキーが用意されていた。レジストレーションカードにサインをし、チェックインは終了。部屋に向かう前に、人が少なく落ち着いたラウンジで喉を潤した。

部屋はいつも通りだが、ウェルカムアメニティが変更になった。毎年のように段々とショボくなっているが、また少し貧弱になった。変化が少しずつだとその都度「まぁ仕方がないか」と思うだけだが、チョコレートや山盛りフルーツが用意された数年前のウェルカムアメニティを思い出して比較すると、雲泥の差を感じる。でも、今回もまた「まぁ仕方がないか」と思うしかない。

そして、ミネラルウォーターはペットボトルからガラス瓶に変更になった。毎日大量に破棄されるペットボトルよりガラス瓶の方がエコ的によいという発想らしい。確かにそうだろうけれど、用意されるサントリーの瓶入り水は、バーで水割りなどで利用するというイメージが強く、エコでクリーンなイメージとは合致しないような気がする。

加えて、ミニバー冷蔵庫のアイテムも大幅に見直された。冷蔵庫アイテムが減るのは、自腹でなく泊まる客が減少していることを意味する。自腹で払う人は、割高なミニバーはあまり利用しない。使うのは、自分で払わない人か、ここ一番、誰かを連れ込んでいる客が大半だ。

まして、エグゼクティブフロアならラウンジまで行けば無料で飲めるし、ヒルトン東京に限ってはラウンジの冷蔵庫から客室への持ち出しを認めているので、ミニバーを使う必要がほとんどない。とにかく、冷蔵庫内がスカスカになっているのを見たら、ホテルに元気がないような気がして心配になった。

部屋でしばらく過ごした後、気分転換のためラウンジに行った。そこにはチェックイン時には顔を見れなかったエグゼクティブフロアのマネジャーがいた。今回ヒルトン東京を予約したのは、そのマネジャーが夢に出てきたのがキッカケだった。夢なので大半は支離滅裂なのだが、この夜の夢のことをよく覚えてる。

場面はヒルトン東京のエグゼクティブラウンジで、目の前にはマネジャーが立っている。まさにこの日と同様のシチュエーションだ。そして彼女はこういった。実は今度、モルジブのホテルに赴任することになった。そこで、神田様にお願いがある。私の飼っている猫をしばらく預かってもらえないか、と。

この旅ガラスに猫の世話が出来るだろうかと思いつつ、実家なら犬猫もいるし、そこで仲間入りさせればいいだろうと考え快諾した。すると彼女は喜んで見事なチンチラを抱き上げて差し出した。いかに気品あふれる猫とはいえ、ラウンジ内ではまずいだろうとうろたえる、というのが筋だった。

というわけで、リアルな世界で彼女に会って、とっさに「猫、飼ってる？」と尋ねた。当然、彼女は「は？」と驚きを隠せない様子。「いいえ、神田様、猫は飼っておりませんが・・・」と言うので、実は、と経緯を聞いてもらった。これには周囲にいたゲストリレーションズオフィサーたちも大笑い。だが、笑い話だけでは済まなかった。

彼女は今月でヒルトンを退社し、沖縄のリゾートホテルへと移るのだと言う。猫は余計だったが、夢の半分はあながちデタラメではなかった。そして、彼女は最後にご挨拶が出来てよかったと言ってくれた。翌日、チェックアウト前に、もう一度彼女に会えれば伝えたいことがあった。イヤな客だっただろうが、頼りにしていたということを言いたかったのだ。

彼女の着任は、エグゼクティブフロアが改装され、ラウンジが拡張したのと同時期だった。以前より料金が釣り上がったのに、フロアの規模が拡大したことでサービスも散漫になっていた頃で、以来、何かにおいて彼女には厳しく接してきた。それは仕方がない。彼女は責任者であったのだから。だが、彼女は最後には信頼を勝ち取った。沖縄でも充実した仕事ができるよう願いたい。