チェックインを済ませると、「何かお飲み物でもいかがですか？」と勧めてくれたが、混み合うラウンジに割り入ってまで喉を潤したいわけではなかったので、辞退して部屋へ向かった。部屋までは馴染みの係が案内してくれた。どうもいつもより元気がないように見受けられ、心底心配になったので、どうかしたのか尋ねてみた。だが、いつも通りだとの返答。そう言われてしまうと、逆に心配が増すものだ。無論、本当に何事もないのならいいのだが。

部屋はいつも通りのデラックスルーム。前回は少しだけリフレッシュした客室が用意されたが、今回はその隣の部屋ではあっても未改装だ。フィットネスルームはとうとうホテルゲストの利用は出来なくなったものと思っていたが、係の方から「今日もご利用になりますか？」と尋ねられた。利用する場合は、フィットネスルームエントランス用のキーを作成してもらう必要がある。「もう使えないのでは？」と尋ねると、テナントによる営業が始まっているが、貸切の時を除けばホテルゲストもこれまで同様に利用できることになったという。それならばとキーを作ってもらった。

フィットネスルームはマシンが入れ替わり、これまでのスッキリしたホテルジムらしさから一転して、パーソナルトレーナージムらしい雰囲気になった。これまでより本格的な機材や細かいアイテムが導入されている。テナントに入ったのはパーソナルトレーニングで評価の高いチームなので、もっと頻繁に立ち寄れる場所ならば正規の会員になりたいくらいである。

翌日は久しぶりに「ラ・プロヴァンス」でランチをとることにした。クラブラウンジのアテンダントにレストランの予約を頼んだのだが、またしても店に電話を回すだけだった。ベテランならば、予約を取ると同時に、席や味付けの好みを始めとした留意点の情報をきちんと伝えてくれる。実際、ここでもかつては必ずそうしてくれていたので、レストランでも安心して食事を楽しめたし、店側もスムーズなサービスがし易かったはずだ。だが、電話を回すだけでは、十分なサービスを提供するチャンスを逃すことにもつながってしまう。これは、お互いにとって不幸である。

とうわけで、情報が伝わらないままにレストランへと向かうことになった。ある意味、「通常の状態」を観察できる機会でもあるわけだ。店内は思いの外賑わっていた。結構なことである。客の多くは何かを祝うためなどの特別な食事の場としてこの店を選んだ様子。一方、こちらは通常の食事である。晴れの席と日常の食卓ではサービスの手法がまったく違うはずだが、この店の従業員はむしろ後者には慣れていないようだった。

ランチは2種類のコースがある他、アラカルトも用意してある。だが、アラカルトのメニューを見ると、なんとすべての品が、コースにある一品を個別に記載して値段を付けているだけというもの。それだけアラカルトの需要は皆無だということだろう。これも頻繁にこの店を訪れる客がいかに少ないかを示している。給仕たちは、2種類しかないコースの内容も把握しておらず、運んできた料理の説明もろくにできない。まぁ、皿の向きすら正しく置けないのだから、多くを望むのは難しそうだ。

だが、料理の間隔が著しく空いてしまった時、空になったパン皿を見たら「もう少しお持ちしましょうか」とか「お待たせして申し訳ございません」と声を掛ける程度のことは、サービス料を取る店ならば出来て当然である。それすらしないとなれば、もうファインダイニングを名乗る資格はないのではないか。

だが、若い給仕たちは知識がないだけで、熱意を失っているようには見えなかった。適切で有用な教育を受けられずにいるのだろう。先輩たちはもっと気持ちを引き締めて、若者の手本となるよう振舞ってもらいたいものだ。