1995.09.21
ポリシー
インターコンチネンタル東京ベイ Club Superior Room Bay View
怒-4連泊中の出来事だった。これまで数回滞在して、このホテルは室内温度の調節が難しいと実感していた。最新のホテルにも関わらず、ここは4管式の空調を採用しなかった。4管なら常に冷房と暖房が使えるので、どんな季節でも客室ごとに好みの室温に設定できる。しかし、ここは2管式なので、全館を通じて冷房か暖房かのどちらかしか使えない。冷房の時期に、室温を気温よりも高くすることは事実上できない。
この時期はまだ冷房のモードだった。客室にはデジタル表示の温度設定パネルがあり、一応室温がセットできる。そして、空調の強さを3段階にコントロールできるようになっている。日中は日差しが入るので冷房を強く掛けなければ過ごせないが、夜は高めの温度設定に直さないと寒くなってしまう。
今回利用した客室は、その温度設定パネルの調子がおかしかった。夜は25度に設定して休むのだが、朝方寒いと感じて起きると、設定が20度になっていた。初日は、これは気のせいで、自分がうっかり設定を直さず眠ってしまったものだと思っていた。
ところが翌日の晩、今度はきちんと25度にしたのを確認して休んだのに、朝方にはなんと18度の設定に変わっており、冷房がガンガンに効き過ぎて、とうとう風邪をひいてしまった。みるみる上がる熱にあせって、氷枕を借りたりして安静にしていたが、それでもどうにも寒くて耐え難かった。
連れが電話で温風ヒーターを借りられないかと尋ねてくれたが、用意がないとのこと。2管空調しかないのに、ヒーターを用意していないとはどういうことか。とにかく、空調の様子もおかしいので部屋に来て調べてもらうことになった。
アシスタントマネージャーがエンジニアを引き連れて部屋にやってきた。その間も、起き上がることができずに、連れに任せて横になっていた。空調には特段不調は見当たらないという。なぜ夜に設定した温度が朝方に変わってしまうのかと尋ねても、そんなはずはないという返事。とにかく、寒くて仕方がないと言っているので、ヒーターとか予備の寝具とかは用意できないのかと言えば、ヒーターは危険なのでおかないのだとか。いまどき、倒れても危険のないセラミックヒーターなど、廉価でいくらでもあるだろうにと指摘すると、
「そういうものは置かないポリシーです」
という返答。しかも、なんとも憎たらしい言い方だ。それまで黙って聞いていたが、我慢ができなくなったので、起き上がって反撃した。
「具合が悪いから黙って聞いていればいい気になって、なに訳のわからないこと言っているわけ?ヒーターを置かないのにポリシーとはどういうこと?とにかく、この部屋の空調はおかしいって言ってるじゃない。つべこべ言わないでまともな部屋を用意しなさい。それに、あなたもマネージャーの端くれなら、ポリシーだのなんだの並べる前に、『お加減はいかがですか?』とか『温かいお飲み物でもご用意しましょうか?』とか言えないのかなぁ?もう一回よく考えて出直してきなさい!」
彼らは一度部屋を後にし、程なくして新しい部屋を用意して戻ってきた。バスローブのまま、ふらつきながらも向かった客室は少し広めのデラックスルームだった。いずれにしてもすぐに寝るので、広さはどうでもよかったが、日当たりがとてもよく、部屋の中はぽかぽかと暖かかった。そして、ミルクたっぷりのココアを差し入れしてくれた。お陰で翌日にはほぼ回復。チェックアウトにはすっかり元気になっていた。
この一件以来、長い付き合いが始まった。また、直後に空調には大きな欠陥が見つかり、工事をしていた。
Y.K.