16時。タクシーで到着すると、モデル並に目鼻立ちの整った男のドアマンに出迎えられ、ややぎこちなさの残る見習いベルへと引き継がれた後、フロントでは顔馴染みの責任者がスムーズなチェックインを担当してくれた。

まるでホテルを舞台にした芝居か映画を見るような配役である。それぞれの持ち場に相応しいキャラが揃い、しっくりと溶け込んでいる様子は、にくいほどにキマっていた。

今回は10時チェックアウトのプランで予約をしてあった。12時までのチェックアウト延長は3,000円だと聞いていたので、チェックイン時に延長を頼んでおいた。部屋までは、ベテランのベルが案内してくれた。途中、他のプリンスホテルもよく利用するのかなど、明るく話題を投げかけてくる。

こうした積極的なコミュニケーションには他のホテルでもしばしば遭遇するが、不慣れな者に無理強いしているケースが少なくない。すると、話題を振られても、どうにもギクシャクしてしまって、かえって気まずいムードになることがある。その点、今日のベルは天性の何かを持ち合わせており、振舞いも自然で心地よかった。

エレベータを降り、ためらいもなく廊下を進むと、ベルが後ろから呼び止めた。「あの、こちらです」とニッコリしながら反対方向を指し示している。それに従うと、「説明が足りずに失礼しました」と言った。案内不足ではなく、我物顔の客が勝手に進んだだけなのに、なんと腰の低いことか。現世には貴重な若者である。

用意された客室はガーデンを見渡す高層階のツインルーム。部屋に入ると、ベルから空調について説明があった。この時期は暖房運転なので、もし室内が暑いようなら、空調を止めて窓を開けるようにとのこと。すでに暑かったので、言われた通りに空調を止めたが、むしろ室温は高くなるばかりで驚いた。

窓から見下ろす庭園は、クリスマスの装飾が施されている。だが、昨年と比べると勢いも華やぎも控えめだ。やはり、高輪プリンスは、桜まつりとクリスマスだけでも、盛大にやってもらわないと調子が出ない。

夕食はロビー階にある「パティオ」へ。営業時間が延長され午前0時までになったが、代わりにルームサービス営業が短縮され、朝食のみとなってしまった。

「パティオ」のメニューは、来る度に品数が少なくなっているような気がする。改装以前は、ホテルコーヒーショップならではのバラエティ豊富なスタンダード料理が揃っていたが、改装後にはにわかに健康志向を打ち出したかと思えば、たちまちしぼんでしまって、まるでやる気のない公共施設のレストランのように落ちぶれてしまった。せめて、従業員から涙ぐましさでも感じれば同情するところだが、横柄で気が利かないと来れば、救いようがない。

限られたメニューから料理を選び、閑散とした寂しい店内でそれを食べたが、お腹も気分もまったく満たされない。では食後の甘いものでもと思い、係にデザートは何があるのかと尋ねると、ブッフェ台の一部を使って行っているデザートブッフェ1,500円か、アイスクリーム500円のみとのこと。

食事の後にデザートブッフェで盛り上がる元気はないし、そもそも盛り上がれるほどのアイテムが並んでいるわけでもない。第一、なんで夜遅くにデザートブッフェなのか。誰も注文していないのに。不思議な感覚である。

だが、ショーケースを見ると、美味しそうなケーキが並んでいる。キッチンで作るデザートがないのなら、ケーキで我慢しよう。係にケーキを注文したら、「あれはランチに出すケーキの見本だから、夜は出せない」と答えた。まともな品揃えもできないくせに、これみよがしにケーキを並べて置いて、注文されたら出せませんだなんて、どこまで愚かなのか。

この期に及んでケーキを食べずして帰ることはないと宣言すると、ロビーラウンジから運んできてくれた。するとよそのテーブルからもケーキの注文が入った様子。そちらは断られて納得していたようだが、このように需要があるのだから、品揃えを考えるべきである。

この店の失敗は個性を打ち出そうとしたこと。珍しいことを求める客は、そもそもプリンスになど来ない。ここですべきは、オーソドックスで安心できる品揃えと味の提供である。

土曜日のランチは「若竹」のカウンターで天ぷらを。どの店も混雑してるようだったが、ここだけはすんなりと予約できた。注文したのは5,500円の東山コース。天ぷら職人は熟練しており、下ごしらえから揚げ方まで、よく心得ていた。テーブルに対してもよく気を配っていてプロらしさを感じさせるが、フロア係はまったく気が利かない。

また、手仕上げのランドリーがとても上手くて感心した。スーツプレスも丁寧。近頃は高級ホテルでも、立派な値段を取る割には仕上げが下手なところが多いだけに、このクオリティを維持し続けてもらいたい。