フロントで向き合ったのは、きつくて勝気で冷たい人だった。相手にそのつもりがあるかないか知らないが、口の利き方や振る舞いが好戦的だと受け取られても仕方がなかった。テキパキと手続きをするのは結構だが、何かにつけて客を抑えつけようとするのはよろしくないし、少なくとも、相手をよく見た方がいい。

最初はだまって様子を伺っていたが、デポをよこせと言われた時点で反撃にでることにした。だが、ケンカを売るつもりはないので、「いつも会計は出発の時にしてもらっている」という表現で、まずはやんわりと断わった。それで向こうが引き下がることはなく、更に何か言ってくるだろうというのは予測していた。

彼女の次のセリフは「インターネット予約の方からは皆様必ず頂戴していますので」だった。いつもインターネットで予約するが、ここのところは預かり金など取られたことはない。そう返答したら、今度は「信用のチェックをしたいので」などと言い出した。それはまさに「信用していない」と言っているのと同じこと。このホテルではデポを取れば昇給するのかと思いたくなるほど、彼女は執拗だった。

だが、このような態度の係に服するつもりはない。そこに顔見知りのマネジャーが駆け寄って来た。事の次第は勝気な彼女から説明させ、それを受けてマネジャーがどのような判断をするのかに興味があった。マネジャーは彼女への教育不足を詫びた。

確かにそれは間違っていない。だが、それよりも彼女への教育の仕方に誤りがあったのではないかと思う。言われたことを頑なに守っていた彼女の非を責めるより、くだらない決まりを意地でも客に押し付けるように教育したことを反省してもらいたい。

デポをおとなしく払う客からはもらえばいい。だが、何かの理由があってそれを拒む、素性のわかったリピーターから、意地でも取ろうなどとは思わないことだ。デポをもらわなければ、客が逃げると決まったわけではない。それどころか、デポなど当てにならないこともある。

あるホテルで現実にあった話。外国人が2名でチェックインし、少し多めのデポを払って部屋に入った。宿泊客を訪ねるふりをして、次々に外国人が部屋に入っては出てゆく。彼らは客室から次々に国際電話を掛けていた。電話代金は十万円以上。だが、翌日、部屋はもぬけのカラだったというのである。

客に逃げられないようにするには、デポを取るより、客を見る目を養う方が有効だ。実際、勝気な彼女は、正しく教育すれば実に優秀なサービスをするようになるだろう。せっかくの潜在能力を十分に生かせないのは上司の責任である。

客室はこのホテルで最も狭いタワービューダブル。窮屈だが、小回りの利く環境は執筆に打って付けであり、密かに気に入っている。勝手につけた呼び名は「独房」だ。比較的高層階だったので、眺めがいいことに加え、バスアメニティがワンランク高級であった。

この日、夕食には「パティオ」を利用した。もともとはコーヒーショップで、バラエティ豊かなインターナショナルメニューが揃っていたが、改装を機に色気づいたコンセプトを掲げたがために、傾きつつある店である。広い店内、平日とはいえ19時半に客が2組だけとは異常事態。空気がかたまり、息苦しいような雰囲気は、まるで深夜2時のような印象だ。

係もまただらけている。2組しかいない客にも十分なサービスをせず、閉店作業ばかりに気がいったり、レジで台帳かなにかに見入っていたり、ファミレス以下である。これでは客足が途絶えて当然。大いに反省して出直してもらいたい。