東京にいながら北海道のことを考えていると、札幌と小樽などわずかな距離ではないかと思えてしまう。実際、快速エアポートに乗ってしまえば30分と掛からない。なのに、仕事が終わった時の気分ときたら、最悪に重っ苦しく、すぐにでもひとりになって部屋にこもりたかった。古い友人から難題を投げかけられ、それを解決に導けない自分が情けなかったのだ。

だが、嘆くよりは考えよう。しっかり前を見据えよう。そんな風に自分を鼓舞しながら、気が付けば中島公園から札幌駅まで小雨降る道を歩き切っていた。それから家路についた人々で混み合う電車に乗り込み、イスが一杯だったからデッキに寄り掛かり、暗くて何も見えない車窓の向こうに希望は見えないかとぼんやり目を向けていた。もう鮨には遅いし、食欲もないし。とりあえずチェックインしてシャワーを浴びよう。

ヒルトン小樽のロビーには、スタッフ以外誰一人いなかった。まだ21時なのに、珍しい静けさだ。フロントの対応は明るく気持ちがよかった。名前を告げるまでもなく、3人のスタッフからそれぞれに「いつもありがとうございます」と声を掛けられた。そして、総支配人までもが挨拶に出てきた。4月のディナーショーの時には一緒に食卓を囲んだこともあったが、この時間まで到着を待ってくれていたのはありがたい。これだけでも小樽まで来てよかったように感じられた。

部屋はいつものマリーナ側禁煙室。清掃はよく行き届いており、窓の外側も最近清掃したらしく、とてもきれなことが夜でもわかるほどだった。タオルもフカフカのものが用意されている。気弱な夜は、気持ちのいいタオルだけでも、泣けるほどありがたい。静かな部屋で静かに過ごし静かに眠った。

朝は7時に朝食。レストランに行って驚いたのは、なんと修学旅行生で満席だったことだ。そういえば、チェックインの際、団体が泊まっているため、朝食は早い時間が混み合うと思われるので、ゆっくり目をオススメすると言っていたっけ。でも、こちらにも習慣というものがある。ゆっくりの朝食は苦手なのだ。

それにしても、修学旅行生がこんなに大勢泊まっているのなら、宴会場でも使って一般客と分離すべきではないだろうか。学生は頑張ったって学生。どうしてもマナーの心得が足りないし、第一、彼らが並んだ後に料理なんて残っていない。こりゃだめだと思い、テーブルにコーヒーとオレンジジュースを運んでもらって終了。その後、部屋まで戻る際にも修学旅行生たちがエレベータでふざけて遊んでいて迷惑だった。

チェックアウト後は、やっぱり鮨を食べに運河沿いまで行った。しかも歩いて。結構いい運動になったし、考え事をするには一人で歩くのが一番である。鮨を食べながら、大将に悩み事を聞いてもらった。するとなかなかの名案を示してくれたではないか。悩んでばかりいないで、人に相談するものだとつくずく思った。だいたい、普段から人にはそう言っているのに、いざ自分が悩みを抱えると人には言えないとは。お腹も満足したし、気分も軽くなって、やっぱり小樽に来てよかったと思いつつ、タクシーで空港まで向かった。

空港ラウンジを出て搭乗口に向かう途中、人だかりが出来ているのが見えた。何かな？と思っていると、オバちゃんが「ジャイアント馬場さんがいるのよ！写真撮ってもらっちゃった！」とはしゃいでる。え〜っ、んなわけないし。前世紀にお亡くなりになったはずなのに。キャピトル東急ホテルでよくお見かけしたので、亡くなったと聞いた時は残念に思ったのをよく記憶している。

でも、そのオバちゃんの友人も「あたしも馬場さんの写真撮りたい！」と携帯片手に人だかりの方へと急いでいた。いやぁ、ありえないけど。でも、いったい誰なのか。思いっきり気になって後を追った。そこには、集まった人に笑顔を向け、写真や握手に快く応じているアントニオ猪木さんがいた。まぁ、でかいっちゃ二人ともでかいけど。猪木さんは機内でも人気者。CAまでミーハーしていたし。でもお陰で楽しい気分を分けてもらったようだった。