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ヒルトン大阪 Executive Room | |
Hilton Osaka | 2010.03.11(金) |
大阪市北区 | 怒-4 |
ARCHIVES ・ 1992 |
またも停電、しかもこんな時に この日、日本は大きく揺さぶられ、波にのまれた。これからどうなるのか何の確信も持てないまま、とにかく平静を保とうと必死だった。翌日に組まれている京都でのスケジュールが果たして実施されるのかどうか、確認をしようにも連絡がつかない。中止でない以上、何としても行かなければ。その一心で舞浜から羽田空港に向かった。 通話や携帯メールは繋がりにくいが、インターネットは通じていた。航空会社の情報では、予約してある便は運行するとのこと。とにかく急ぐしかない。 首都高は通行止めで、激しく渋滞する湾岸道路を、ハラハラしながら進んでいく。もう間に合わないかと思ったが、どうにか15分前に空港へ駆け込んだ。長蛇の列ができているカウンターで、人の波を押し分けて最前列に。並んでいる人は搭乗手続きではなく、払い戻しや空席待ちに違いないと踏んでの荒業である。 「次のに乗ります!」と威勢よく宣言したが、係は疲れ果てた表情で「あいにく、たったいま欠航が決まりました」と返す。今日だけで、何度そのセリフを口にしたのだろうかと気の毒に思ったが、こちらも必死。第一、ここで大阪行きを諦めても、もう都心に戻る手立てがない。同時に、すべての交通は遮断されているのだから、これ以上客が増えることもない。 係が説明するには、その次の便が運航予定だとのこと。今度の便を欠航にして、その次を運行とは妙ではないか。とはいえ、ここでひとりがゴネても仕方がない。空席待ちの手続きの後、ゲートインして待つことにした。 約2時間後、結局、その日全便の欠航が決まった。もう諦めて空港で一夜を明かすしかないのだろうか。その時、ひとつの情報が耳に入った。すでに客を乗せていながら、滑走路閉鎖のため飛び立てずにいる飛行機が駐機場で待機しており、まもなく出発するという。 カウンターに行き、その飛行機は満席なのかと尋ねると、ほとんどが空席だという。予約を持っていながら、空港に来ることができず、多くの客が搭乗していないというのだ。本来、この便は2時間以上前に出発しているはず。予約を持っている人もそう思っているだろう。 であれば、ここで列をなして待っている人を乗せたらいいではないか。そうは出来ないのかと頼んでも、「すでに搭乗手続きを締め切りましたので」と申し訳なさそうに断る係。だが、今日のような非常時だからか、いつも以上に粘り強さが生じていた。ひたすら頼み続けたら、とうとう根負けして手続きをしてくれたのだった。 機内では、乗ったまま2時間以上も動かないことに疲れ切った客たちが、ドア付近まで出て電話を掛けたり、新鮮な空気を求めたりしていた。だが、確かに空席が多い。その後も1時間近く飛ばなかったが、次第に客が増え、最終的にはほぼ満席になって出発。地震後に飛んだ、この日最後の飛行機となった。 ヒルトン大阪に到着したのは、予定よりも3時間遅れの午後10時過ぎ。フロントで手続きをした顔馴染みの係は「今日はお見えになれないかと思っていました」と、心配と労いを込めた言葉を掛けてくれた。 心身ともに疲れ切って部屋に入ると、デスクの上に一枚のプリントが置かれているのが目に入った。すぐさま手に取って読むと、13日の夜は点検のため全館停電とのこと。昨年も滞在が予告なしの停電に重なったことがあり、散々苦情を言ってあるというのに、何ということだろう。 電気点検による停電は仕方がないにしても、それを宿泊客があらかじめ知る手立てがないのは迷惑。ホテルは予約客に知らせる必要があるのに、何ら努力をしていない。それにも腹が立ったが、次回はあらかじめ必ず知らせると約束していたマネジャーが、それをしなかったことには心底ガッカリした。 ましてや、誰もが心配で胸が張り裂けそうになっている時に、情報源であるテレビすら見られない状態にする作業を決行するという神経も許し難い。 停電の日、まっ暗になり、すべての音が消えた部屋から、大阪の街並みを眺めてみると、いつもと変わらぬ煌めきがそこにあった。疲れているのに、目を閉じるのが怖い。東京にいる家族が心配でたまらなかった。 チェックアウト日、家族から電話を電池を買ってくるよう頼まれた。すでにタイミングが遅く、大型量販店の棚からは電池が消えていた。ふだんまったく立ち入ることのないコンビニエンスストアを何軒も回り、やっと頼まれた分量の電池が揃った。驚くほど重くなったスーツケース。でも、沈んだ気持ちの重さに比べたら、羽の生えたヴェールのようなもの。まだ先は長い。 |
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