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ザ・ナハテラス Executive Suite | |
The Naha Terrace | 2010.04.30(金) |
沖縄県那覇市 | 喜-5 |
ARCHIVES ・ 1992 |
GARDEN 伊丹から那覇へのフライトは30分遅れて到着した。ターンテーブル前で荷物を待つ間がなんともじれったい。次第に人が多くなり、バケーションに向かう浮かれた賑わいの波に呑まれそうになる。だが、ここさえ抜け出せば、あとは人を気にせず過ごせるはずだ。 出てきた荷物を奪うように引き寄せ、ゲートから到着ロビーへと出た。そこには出迎える人の群れが出来ていたが、中にひときわ姿勢よく立つ男がいた。ホワイトとサンドカラーのコスチュームを着たその男が、テラスカーのショーファーである。 男の方向にまっすぐ近寄ると、向こうもそれに気づいて微笑んだ。テラスからの迎えの車はメルセデスだった。混雑する国道から折れ、次いで細い通りに入ると、ナハテラスはもうすぐそこだ。坂に差し掛かる時にはいつも、リージェント沖縄を初めて訪ねた日を思い出す。そして、その時と同じ気持ちで丘の上にあるホテルを見上げるのだ。 教会の脇の急坂を抜ければ、ホテルの正面玄関が見える。車は正面玄関前の植栽をぐるりと迂回して、車寄せへと静かに滑り込んだ。 扉を開けたのは見知らぬ若い男だったが、すぐさま「お帰りなさいませ、神田様」と名を呼んだ。客の顔を認識しているのではなく、テラスカーに乗っている客の名前は把握しているということなのだろうが、それでも十分に効果的である。 正面のエントランスは、扉がすべて解放されており、自然な風が通り抜けるようになっている。ロビー脇にはリビングルーム「マロード」があり、こちらもまた滝のあるテラスに向けて窓を全開にし、リゾート風の開放感を創り出している。 ロビーの美しくも心地よい空気を肌で感じながら、エレベータを使わずにエレガントな階段で2階へと上がった。扉で仕切られた先には、クラブラウンジとリフレッシングスクエアがある。 広々としたクラブラウンジは、かつてリージェント時代には従業員食堂だった。内装は異なるにせよ、ハイレベルなサービスを提供するスタッフに対しても、心安らぐ環境を提供していたのは素晴らしい。クラブラウンジに姿を変えた今も、テラスの向こうに南国の木々が茂り、目をくつろがせてくれる。 チェックインはこのラウンジで行われる。テーブル席も明るくていいが、奥のソファが落ち着く。脇には書棚があって、沖縄に関する書物を中心に揃えている。ウェルカムドリンクと共に、滞在の説明があった。緊張しているのか、ややぎこちない対応だった。他の客への接し方を見ると、素人っぽさも滲んでいる。ここには高度な洗練がよく似合う。一層奮起してもらいたい。 爽やかな気候の時は、クラブラウンジのテラスで過ごすのもいい。塀に囲まれた空間のため、特に眺めがあるわけではないが、プライベートガーデンのような趣きがある。朝食から夜のカクテルまで、希望すればいつでもテーブルをセットしてくれるが、雨や強風で使えないこともある。 クラブラウンジでの楽しみのひとつがケーキ。ペイストリーブティックで売られているものと同じケーキが用意されるが、中でも気に入っているのがシンプルなガトーフレーズ。懐かしい味わいに、ついつい2個、3個と食べたくなってしまうので、ブレーキを掛けるのが容易でない。 クラブラウンジでひと時を過ごした後、部屋へと向かった。客室へのエレベータは2基。開業以来のデザインだが、石造りの濃い色合いのエレベータから、オフホワイトのフロアに降り立つ時の、絶妙な雰囲気の変化も計算されている。エレベータホールにはオーキッドの鉢植えが飾られ、イスやテーブル、飾棚などが置かれている。 客室階廊下は塗り壁の落ち着いた感じが漂う。ボウル状の照明器具から天井に向けて放たれる灯りが、廊下を優しく照らす。各客室の番号表示は真鍮のプレートで掲げられ、それもまた上品だ。 今回利用するのは、廊下の先端に2室並ぶエグゼクティブスイートのひとつ。横向きにもうひとつのエグゼクティブスイートがあり、いずれも料金は同じだが、室内のレイアウトや形状が若干異なる。全145室中、20室がスイートであり、かなり高い割合だ。 入口からL字に進むと、途中にウォークインクローゼットと、バスルームへの引き戸があって、その先にワンルームタイプの居室が広がっている。 大きく三角形に張り出した部分にはライティングデスクを置き、可能な限りワイドな窓を設置。丘の上からのパノラマが楽しめる。海は近くないが、エメラルドグリーンの海面や、行き交う船を眺めることもできる。 リビングは居室のコーナー部分に設け、開放感よりも包まれるような居心地のよさを演出している。リゾート風のソファセットとローテーブルを置き、ウェルカムフルーツやフラワーアレンジが彩りを添える。 脇のミニバーはすべて無料。オリジナルの泡盛もある。かつてはウェットのミニバーシンクがあったが、残念ながら今は埋められている。一時期はここにテレビを置くという無粋な策に出たこともあったが、ミニバーとして復活したのは喜ばしい。 ティーアメニティには、オリジナルの紅茶や月桃茶、緑茶、インスタントコーヒーが用意され、無料のミネラルウォーターとともに、いつでも楽しめる。そして、ティーポットの存在がとても役に立つ。 窓際のライティングデスクは、ふたつのイスを対面させており、場合によってはダイニングテーブルとしても利用できるだけの奥行きを持っている。 テレビはベッド脇の壁に備え付けられており、角度を変えることはできない。テレビ下のコンソールテーブルには、DVDプレイヤーを備えている。 ベッドはキングサイズだが、ベッドボードはツイン用のものを使っている。見た目にもバランスが悪いので、ベッドサイズにぴったりあったものを調達すべき。また、ベッド位置が片寄っていることも気になる。ナイトテーブルの脇にはまだスペースが残っているので、ベッドをもっとリビング側に寄せることは可能なはずだ。そうすれば、せっかくオープンになっているバスルームとの間を、ベッドボードで隠さずに済むだろう。 バスルームは20年を経た今でも十分にゴージャスで魅力的だ。総大理石造りの重厚感と、大胆なレイアウトによる開放感が見事に調和し、この上なく心地よい空間に仕上がっている。 ベイシンはひとつだが、十分に広いトップや棚を備えているので、とても使い勝手がいい。スツールも添えられている。 ベイシン脇にあるバスルーム扉は、引き戸なので全開にすることも可能。段差もないので、居室との連続性が感じられる。 バスタブは斜めに設置されている。周囲は大理石のステージのように高いままに保たれており、これが独特の雰囲気を生み出している。このデザインのよさは、バスタブに浸かっている時が最も実感できる。左右に圧迫感につながるものがなく、周囲のどこにでもグラスや本を置くことができて便利だ。 シャワースペースはバスタブに隣接しており、扉のないオープンスペースになっている。一部にはガラスの仕切りがあるが、開放感たっぷりのシャワースペースだ。床も壁も同じ大理石を使っているところもいい。 バスタブ脇には居室に向いたルーバーの折戸があり、居室越しに窓の向こうまで見渡すことができる。バスタブの給湯は猛烈な勢いで、あっという間にバスタブが満たされる。バブルバスを入れようものなら、あまりの勢いで、泡が数十センチも盛り上がってしまうだろう。 トイレはベイシンの後ろにあり、扉によって完全な個室になっている。中は塗り壁で、開業当時からの鳥のアートワークが下がっている。 2泊の滞在中、宴会場とエステティックサロンを除くすべての施設を利用した。レストランでは行き届いたサービスと丁寧に仕上げられた料理を楽しむことができ、値段も手ごろで大満足だった。とりわけ「真南風」の日本料理が素晴らしい。朝、昼、夜と利用したが、連続で訪れても、また行きたいと思わせるものがある。 夕食後にもなると、館内は静けさに包まれる。「マロード」からは軽やかなピアノ演奏が響き、美しい照明がロビー全体を包む大理石を照らし出す。館内を彩る花々からも、甘い芳香が立ちのぼるようだ。 夜になってもロビーの扉は開放されたままで、常時、スタッフたちが控えている。天井のファンが回転する様子も、南国の夜にはぴったりだ。 時間帯によっては団体客が到着し、ロビーが慌しくなることがあるが、それ以外は実に静か。今はテラスホテルズのデザインに変わったフロントレセプションだが、リージェントの時は大理石のカウンターがあった。深夜に大理石を磨くベルボーイたちがいて、ルームキーの真鍮も、暇さえあればピカピカに磨きあげられていた。その光景が脳裡をよぎる。 プールはいつでもすいていた。水は冷たいが、ひとたび入ってしまえばキリッとして心地よい。泳がなくとも、プールサイドでのんびり過ごすにもいい。 プールサイドでは、ドリンクやスナックを注文できる。特にメニューはないようだが、言えば大抵のものは用意してくれる。誰もいないプールサイドで、冷たいドリンクでのどを潤すのは最高の気分だ。 ホテル内には小さいながらガーデンがあり、いつでも手入れが行き届いていて感心する。小さな植物が多いが、種類は豊富。雨上がりも美しい。 ガーデンを別の角度から見ると、さまざまな木が植わっていることがよくわかる。勢いよく伸びた枝や葉からは、シンガポールやマレーシアの都市部にあるホテルのような雰囲気が伝わってくる。日本には珍しいタイプのガーデンホテルだ。 クラブラウンジのテラスからはデイゴの木が見える。かろうじて花が残ってるが、今年は花が少なく、早くに終わってしまったらしい。そういう年は台風が少ないのだそうだ。よい夏になるといいのだが。 |
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