ザ・ナハテラス Club Deluxe Room |
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The Naha Terrace |
2008.11.29(土)
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沖縄県那覇市 |
喜-4
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ラストデイ | 与論島からの短いフライトで降り立った那覇は、しばらく都会を離れて過ごしていた身には刺激が強かった。大きな飛行機も久しぶりに見たような気がして、その姿は威圧的に感じられた。
ホテルまでの車中でも、ビルに次ぐビル、そして車、車、車が途切れることなく目に入り、都市とは存在そのものがストレスであると、改めて思い知らされた。那覇でさえこうなのだから、よくもまあ東京で何十年も生きて来られたものだと、我ながら関心する。だが、人間の適応能力もまたあなどれない。ナハテラスが見えるころには、すっかりいつもの都会人に戻っていたのである。 ホテルへと続く坂を登る度に、初めて訪れた日のことを思い出す。あの日は確か夜遅くなってからの到着だった。都市ホテルというのは、賑やかな街の中心にあるものと思っていたのに、静かな住宅街の丘の上というロケーションが新鮮に感じられ、小さなホテルなのに、実に多くのスタッフが働いており、その全員がプロフェッショナルであることに感銘を受けた。何もかもが美しい舞台のように進んでいき、客はただそこにいて望むだけで、すべてが叶えられる、まるで魔法の空間であった。 死ぬ前にもう一度好きな場所へ行けるのなら、あの日のリージェント沖縄を訪ねたい。そして、今でもその血統は受け継がれており、この丘を見上げる度に、期待に胸が膨らむ。 前回は到着でつまずいたが、今回はパーフェクトだった。タクシーの扉が開くなり、「お帰りなさいませ、神田様。お待ちしておりました。」と声が掛かる。そのままラウンジへ案内され、馴染みの係に温かく出迎えられた。ウェルカムドリンクは黒糖生姜茶。少々空腹だと告げると、スコーンやケーキ、小菓子盛り合わせにコーヒーなどが賑やかに振舞われた。そこにマネジャーたちも次々と顔を見せてくれ、近況を尋ねたり、最近の沖縄事情を聞いたりして、しばしの時間を過ごした。 客室は9階の禁煙クラブツインルーム。見慣れた部屋だったが、何に一番感動したかというと、それはトイレットペーパーの感触である。エコノミークラスのホテルばかりが続いたので、ラグジュアリーホテルらしさを文字通り肌で感じたのだった。アメニティがロクシタンになったこと以外、特に変わった様子はない。 だが、その変わらないということが素晴らしい。開業当時のままとはいかないし、部分的に改装されたところもあるが、基本的には開業当時のものを大切にメンテナンスして使っていて、20年以上を経たインテリアに風合いは増したが劣化は感じない。それには手間も掛かるし、コストも掛かるだろうが、だからこそ歴史が刻まれ、風格が備わるのである。安易な改装を繰り返す愚かなホテルに見習わせたいものだ。 パブリックスペースもまた、よく手入れが行き届いてる。かつてベルボーイたちが深夜に汗を流しながら磨き上げた大理石の床や真鍮の手すりは、今もなお美しく輝いている。この1ヶ月、初めてのホテルばかりに次々と宿泊してきた。その多くは、特別な縁がなければ生涯行くこともないような土地の、名も知れないホテルだったが、それでも、見かけによらず人情味に溢れるサービスに触れられたり、息を呑むような景観に出会えたりして、新鮮な驚きの連続であった。 そして、使い慣れたこのホテルに戻ってきた時、なぜここが心地いいのかがよくわかった。建物も、人も、このホテルにあるものすべてが美しいのである。その源は高品質を貫く精神性にある。独自のスタイルを持ち、ここにしかない時間を提供し続けているところが素晴らしい。 「ファヌアン」で、開業当時からいるスタッフと夕食を共にした。彼女とは音楽が縁でホテル外でも親交が続いているが、ホテルでは営業のセクションにいるので、滞在中もなかなか館内で会う機会はない。この日もお得意様のアテンドがあり、夕食中に何度も中座しなければならず、それを申し訳なさそうにしていたが、向こうはビジネス、こちらはプライベートなのだから、遠慮なくお客様をアテンドしてもらった方がこちらも気が楽である。食事中はあまりホテルのことは話題にしなかった。 翌朝は出発が早かった。6時50分にチェックアウト手続きをしてから、ラウンジで急いで朝食をとった。紅芋のポタージュ、ゴーヤや青パパイヤのサラダ、海ぶどう、もずくなど、沖縄らしさの感じられる料理が並んでいる。朝食を済ませ、7時20分にホテルカーで出発。始発便で東京へ飛び、そのまま中標津への便に乗り継ぐ予定だ。今日もまた忙しくなる。でも、16時間のナハテラス滞在で、十分にリフレッシュすることができた。このまま月まででも行けそうな気分。やっぱり遠回りしてでも立ち寄ってよかったと思った。 後日、食事を共にしたスタッフから手紙が届いた。実はホテルを退社したとのこと。あの日が最後の出勤日だったので、大切にして来たお客様方と過ごすことができて光栄だったと書かれていた。これからは一友人として、ホテルに気兼ねなく親交が持てる。 |
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ザ・ナハテラス(公式サイト) | |
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