沖縄に出掛けるときは、いつもピークを外して、できるだけ人の少ない時期を狙うことが多いのだが、今回は早いうちから計画を立てピークの真っ只中に予約を入れた。混雑期のブッキングには苦労するのではないかと思っていたが、1ヶ月ほど前の段階では、フライトもホテルも難なく確保できた。
夏の盛りを迎えた東京を午前中に出発し、午後の早い時間に沖縄に到着。東京も暑かったが、本当の夏は沖縄にあった。気温は大差なくても、夏らしさはまったく違っている。眩しすぎる日差しと夏の匂いは、空港を出た瞬間から感じられた。混雑する那覇市内を横切り、閑静な住宅街に入り、坂を上がりきるとナハテラスがある。空港から20分ほどのドライブだった。教会を横目に、ナハテラスの車寄せにつけると、にこやかなスタッフが扉を開けて出迎えてくれた。「こんにちは、神田様。おひさしぶりでございます。」
このホテルで自ら名前を名乗る必要があったのは開業時だけだ。すこしはにかんだ感じの若いスタッフに導かれ、2階にあるクラブラウンジへと進む。ラウンジでは顔見知りのスタッフたちによる更に親しみのこもった出迎えを受けた。外国人の総支配人も積極的にゲストに挨拶をして回っている。さすがに暑いからだろう、テラスと館内を仕切る扉は閉じられているが、テラスへは自由に出ることができ、暑さに耐えられるならば、テラス席でチェックインをすることも可能だ。
その暑さに耐える自信がなかったので、奥のゆったりとしたソファにてチェックインを済ませ、しばらくラウンジでくつろぐことにした。このラウンジではフルサービスの朝食から、午後のケーキやクッキー、夕方のカクテルなど、きままにリビングルーム代わりに利用できる。ちょっとお腹が空いた時にはリクエストすればデニッシュペストリーなども用意してくれるなど、可能な限り要望に応えようとする姿勢を感じられるが、そのどれもが実務的ではなく、思いやりによって紡ぎ出されている印象があって非常に心地よい。
客室に入ると、荷物はあらかじめ客室に上げてあり、テーブルにはウェルカムフルーツが用意されている。彩豊かな南国らしいフルーツはあらかじめカットしてあるので、すぐに気軽につまめるのがうれしい。今回の客室はエグゼクティブスイート。このエグゼクティブスイートには、形とレイアウトの異なる2種類のタイプがあるが、50平米という広さや室内の設備はほとんど同じだ。
一番の違いは窓の形状で、三角形に大きく張り出したタイプと、雁行しているタイプとに分かれる。今回は後者のタイプで、窓からは那覇の町並みやプールを見下ろすことができる。扉を開けると正面にコンソールがあり、室内の様子は見えないようになっている。室内はベッドスペース、リビングスペース、バスルームと大きく3つのスペースに分かれているが、続き部屋にはなっておらず、ワンルームタイプのスイートだ。
リビングスペースには大きなソファセットと窓際に配置された対面式のデスク、そしてミニバーやテレビを収納したキャビネットがある。ベッドスペースには120センチ幅のベッドが窓の方を向いて2台並び、窓のルーバーを開け放っておけば、一日中どの時間帯でもベッドにいながらにして素晴らしい景色を眺めることができる。特に晴天の日に見上げる青空は格別だ。
そして総大理石仕上げの特徴あるバスルームは、扉のない開放的なシャワーブースを備え、斜めに配置されたバスタブ、扉で仕切られた個室のトイレ、シングルながら広々としたベイシンなど、バスタイムをゆっくりと楽しむための特別なデザインが施されている。入口の引き戸とバスタブ脇のルーバーを共に開放すれば、室内と一体化したような開放感が得られ、好みのドリンクを用意してバスタブに浸かりながら本を読んだりと、長い時間過ごすには最適なレイアウトだ。
一時期水圧が低下していたバスタブのカランも、開業当時の勢いに戻り、凄まじい勢いで湯を張ることが可能だ。その所要時間は2分と掛からない。バブルバスを投入してお湯を張ると、まるでクリームソーダのように細かい泡がバスタブの上に白い山を作るほど。アメニティは洒落たキルティングのポーチにまとめられており、もちろんバスローブも備えるので、バスタイム後の余韻も十分に楽しめる。
今回は混雑する海沿いのリゾートは敢えて避け、ナハテラスにだけ4泊した。滞在中は無料のシャトルバスでブセナテラスに行って、ブセナのビーチやスパを利用することも可能だが、それさえもしなかった。しかし、さすがに5日間も小さなホテル内だけで過ごすのは退屈してしまう。夜に涼しくなってから、国際通り付近まで出て辺りを散策してみたり、レンタカーを借りてそれほど遠くないところを廻ってみたりして過ごした。
クラブラウンジには沖縄の地元情報誌が揃っているが、ゲストリレーションズのスタッフにオフの日はどの辺で遊んでいるのかとオススメを尋ね、それを参考にいくつかのスポットに出掛けた。みんなはコザ、砂辺のほか、最近は知念によく行くという。そこには美しい海と、のどかな風景、そして小さなカフェがあった。車の数も多くなく、のんびりとドライブをするにはピッタリの環境だった。
そして、外出から戻りクラブラウンジに出向くと、ちょっと心配そうに「いかがでしたか?」と尋ねるスタッフ。どんな風に楽しかったかを報告すると、表情をやわらげ自分のことのように喜んでくれる、そんな自然で気取りのないふれあいが、このホテルを象徴している。4日間ともほぼ満室だったが、清掃、サービスともにいつでもきちんとしたものを提供してくれた。それらすべてに気持ちがこもっていることが、何よりも素晴らしい。
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