ザ・ナハテラス Club Room | |
The Naha Terrace |
2009.05.15(金)
|
沖縄県那覇市 |
楽-4
|
|
|
月桃の花 | 思い立って沖縄へ向かった。特に用事があるわけでなく、にわかに自由な時間ができたからである。那覇空港は初夏というより真夏の空気だった。沖縄はあと1週間を待たずして梅雨入りするだろうから、今日が最後の晴天かもしれない。
タクシーに飛び乗ろうかと思ったが、ゆいレールを選んだ。今回もホテルを一歩たりとも出ず、空港とホテルの往復だけで沖縄を完結するつもりだったので、タクシーでは人とふれあう機会が足りないような気がしたからである。かといって、ホテルで過ごす時間を中断して外出するなど、とても考えられないことなので、沖縄の風土を感じるにはゆいレールの車内以外になかった。 のんびりと遠回りして走るモノレールでは、だれと会話を交わすわけではないが、地元の人たちに囲まれるだけで感じ取れるものが確かにあった。 おもろまち駅で降り、照りつける日差しの中を歩く。これほど太陽が高いなら、UV対策くらいしてくればよかった。滝のような汗をかき、今日のサウナはもう十分と思いつつ、ナハテラスの新都心側エントランスに到着した。この裏口のようなエントランスにはホテルスタッフは常駐していない。素朴な見た目をした警備員がひとり立っているだけだ。 彼とホテルサービスは無縁だろうと思い、通り過ぎようとしたその時、警備員から声を掛けられた。「お泊まりですか?」と尋ねる沖縄の控えめなイントネーションが、瞬時にして沖縄の地にいる実感を際立たせた。脱水症状寸前の風体で、精一杯にっこりとほほ笑みながらうなずき返すと、「今、係、呼びましょうね〜」と受話器を取った。 艶を消した木目と、反対に見事な艶の大理石、そして寄せ植えされた蘭の花を軽く揺らすナチュラルな風。余計な音など一切聞こえない。これがナハテラスの空気であり、この裏口にさえ満ちているのだった。勧められた籐椅子に腰かけていると、スッと汗が引いてくる。 気持ちも体もふたたび軽くなったところで、淡いベージュのユニフォームを着た若いスタッフが迎えにきた。「神田様、お帰りなさいませ」と自然な笑顔を向ける係にいざなわれてクラブラウンジへ向かう。だが、ラウンジでの出迎えは、期待に反してさっぱりとしたものだった。 ふたりいる係はどちらも見覚えのない顔だった。どうやら期待が大きすぎたようだ。その過分な期待を脱ぎ棄てれば、彼女らの対応は決して悪くなどないが、同時にラウンジでいつも感じる立ち去りがたい気分を目覚めさせることもなかった。ウェルカムドリンクを飲み干し、キーを受け取ってすぐさま部屋へと向かった。 すると係が追いかけてきて、部屋まで案内するというので、それは辞退し、代わりに「ファヌアン」の予約を頼んだ。部屋に荷物を置き次第向かいたいと言うと、すぐに確認して連絡すると返事があり、ちょうどエレベータの扉が閉じた。部屋はいつものタイプ。見慣れた雰囲気のまま、特段変わった様子はないようだ。荷物を広げる間もなく電話が鳴り、席の用意が整ったと告げられたので、手だけを洗って店に向かった。 店内とテラス両方に席を取ってくれてあったが、やはりここはテラスが魅力的。芝がまぶしいガーデンに面したテラスには4卓のテーブルが並び、どのテーブルでも和やかに食事を楽しんでいる。ランチのスペシャルはブッフェ。2,500円でオードブルとデザートのブッフェに加え、チョイスできるメインディッシュがつく。メインディッシュをグレードアップすることも可能だが、たちまち5,000円に値が張る。 ここのブッフェは結構充実していて、メインはいらないくらいなので、2,500円のセットからアグー豚のメインディッシュをチョイスした。そのアグー豚料理は、しゃぶしゃぶ3切れくらいのささやかさで、添えられた色鮮やかな紅芋の方が目立っていた。 テラスの卓上には、昼間っからキャンドルが点っている。なにゆえかと思ったら、虫よけ効果のある蝋燭らしい。虫だけでなく、猫や鳥たちも料理を虎視眈々と狙っており、テーブルの主がブッフェ台に行っている隙を狙って、料理をさらっていくらしい。なんともグルメな動物たちである。 食事の後は、少しだけ部屋で休んでから、ジムに向かった。マシンは旧式で使いにくいので、ストレッチや腕立て伏せなどを繰り返してから、まだ今季オープンしたばかりの屋外プールへ。プールサイドのチェアでは、数人がのんびりとシエスタを楽しんでおり、空いているイスはひとつしかなかった。だが、イスには用がなく、水に入りたかった。いくら気温が高くても、5月のプールはひんやりしているだろうと思いきや、意外にもぬるいほどだった。 小さなプールでひたすら往復して3キロ泳いだあと、貸切状態のサウナに入ってもう一度汗を流し、心底さっぱりとしてから、クラブラウンジに寄って冷たい飲み物を出してもらった。一緒に勧められたマンゴームースをスプーンですくっていると、馴染みのゲストリレーションズや支配人が次々と顔を見せてくれ、その度に近況を知らせ合ったり、会話に花が咲く。まるで久しぶりに同窓会に出ているような気分である。 会話の中で「月桃の花を見たことがない」と打ち明けると、「見に行きましょうね」とホテルの裏手に通じる路地に案内された。そこには房状に連なった淡いピンクのつぼみが多数垂れ下っており、一部が鮮やかな黄色い内部をあらわにして咲いている。蘭のようにも見えるが、ミョウガに近いのだそうだ。花はこの時期が盛りで、秋には赤い実を結ぶらしい。他にバナナの花も咲いており、ホテル敷地内で思いがけず熱帯植物園を見せてもらった。 引き続きラウンジで話しこんでいるとカクテルアワーが始まった。フードカウンターには美味しそうなオードブルが並んだが、一向に客はやってこない。もったいないので、少々味見をさせてもらった。次の客人がやってきても、一番乗りの気分で楽しく取り分けられるよう、料理の見た目を崩さない努力も惜しまなかった。 部屋に戻ると19時を過ぎていた。すでに丁寧にターンダウンされており、日没の遅い沖縄の風景も淡いブルーに染まっていた。それからパソコンを抱えて、プールサイドのデッキチェアに寝そべって、メールのチェックと返信をし、そのまましばらく夜空とホテルを見上げて過ごした。夜風が感じられる頃になって部屋に戻り、ルームサービスで軽めの食事を済ませた。 バスアメニティは今もロクシタンだが、これまで外国製のコスメティックを揃えていたのに資生堂製品に変わっていた。品質はよくても、これまでのイメージとは合わない気がする。翌日係に尋ねてみると、ちょうどアイテムの入れ替えがあり、臨時で導入しているものだとのことだった。 朝食は7:00にクラブラウンジで。今朝もテラスの席を選んだ。料理は野菜が充実しているが、シリアルや卵料理のチョイスが少ない。もずくや島豆腐など、沖縄を感じさせる料理も並んでいるので、どれも味見してみたくなる。 午前中にまたプールで泳いだが、まだ日差しが十分に注がず、さすがにひんやり冷たかった。それでも気分は壮快。スッキリと目覚めた気分になる。その後、部屋で入浴して身支度していると、レイトアウトしても構わないとの電話が入った。それはありがたい申し出だが、すでに荷物もまとめ、あとは出発するだけという状況だったので、「今回はお気持ちだけ」と辞退した。 その代わり、またもラウンジに立ち寄り、お菓子やらフルーツヨーグルトやらでもてなされのんびり。もう竜宮城の浦島太郎と同じ状態である。意を決してラウンジを後にし、ロビー階のブティックで買い物を済ませてから、皆に見送られながらホテルカーで那覇空港へと向かった。 およそ25時間の竜宮城滞在。幸い、浮世に戻ってからも急に白髪の老人に様変わりすることはなかったが、名残惜しさを込めて、たった一度だけ溜息をついた。 |
|
|
ザ・ナハテラス(公式サイト) | |
以前のレビューはこちら→ | 930130 950906 990306 000303 000820 000923 001101 020129 020813 021226 021227 050119 070512 070513 071031 081129 |
公開中リスト
| 1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 |
| ホテル別リスト | レストラン別リスト | 「楽5」「喜5」ベストコレクション |