1995.09.06
名店うえのやの屋号
パレスオンザヒル沖縄 Executive Suite
楽-3

実際に用事があったのは宮古島だったが、宿泊は那覇にした。やはりこのホテルを抜きにしての行程は考えにくい。全日空ホテルズになってから、いろいろな点で変わってしまった。というか、変わってしまったところばかりが目に付いていた。しかし、リージェントだったあの頃と変わっていない部分もたくさんある。そちらに目を向けることにしよう。その方が滞在も楽しくなるだろう。

空港にはリムジンを手配していた。到着ロビーに出迎えてくれたのは、馴染みのドライバーだった。無口で誠実そうな雰囲気が、いかにも沖縄の人という印象だ。古いメルセデスの後部座席に身をゆだねると、沖縄で過ごした時間が甦ってくる。9月の沖縄は太陽が元気だ。まだまだ夏が続くぞと余裕しゃくしゃくだった。

パレスオンザヒルのロビーは冷房が効いて涼しかった。太陽がまぶしい外に比べると、ロビーはいささか暗いようにも思えたが、一面の大理石が上質な空間に感じさせている。フロントカウンターも大理石でできており、ひんやりとした感触が心地よかった。リージェントの時は、インルームチェックインだったので、フロントカウンターをしみじみと見る機会がなかった。

客室に着くとフルーツが入っていた。ガラスの皿に盛られたカットフルーツはさっぱりと酸味がきいて、喉にも心地よかった。時計はなく、余計なものは一切目に入らない設計。テレビはアーモアに収められており、バスタブからも見られる位置にあるが、ここではテレビを見ることもない。

ベッドサイドにはラジオのスイッチがあり、チャンネルも限られているが、せめて何か音を流すとすればこのラジオだ。地元の放送や英語放送を、古びたラジオスピーカーの鈍い音で聞く。空調も温度調節という気の利いたものではなく、大雑把にOFF、L、M、Hの選択だけ。窓はルーバーなので完全に遮光することはできない。このアバウトさがかえって魅力なのだ。デスクの電話機さえも、ゴツゴツとした品で、プッシュボタンの手ごたえがなんともいえない。

サービスは、ややそっけなく、地方の一般的なシティホテルという印象もある。特にフロントがそうだった。だが、全日空ホテルズになって変わった部分がいかに多くても、なおこのホテルは魅力がある。

「うえのや」

元従業員食堂だった場所を鉄板焼店に改装し、メインバー「パレス」とともにオープンさせた。しかし、それらのデザインは、既存部分とは融合せずに浮いており、全日空ホテルズの安易な発想がうかがえる。これらの店に一歩足を踏み入れれば、ここが沖縄であることを忘れてしまいそうだ。

しかし、魅力は料金にあった。本土よりも数割は手頃な価格で、それなりのきちんとした料理が食べられる。店は空いており、オールバックのいかにも全日空ホテルから参りましたという感じのスタッフがサービスに当たる。活気がないからか、サービスにも元気がない。クールに決めているなら、沖縄というのはそういう場所じゃない。土地柄を考えてから出直してくるべきだ。

それにしても一番不愉快なのは、こんな安易な鉄板焼店に、名店「うえのや」の名を冠してしまったこと。「うえのや」は沖縄随一の日本料理を出す店として、非常に高い評価を受け、リージェント沖縄に入居していた。元は料亭だったらしい。リージェントの「うえのや」で腕を振るった板前たちは、今も「雲海」の板場を守っている。彼らに失礼な気がしてならない。

Y.K.