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ザ・プリンス さくらタワー東京 Twin Room | |
The Prince Sakura Tower Tokyo | 2010.04.02(金) |
東京都港区 | 哀-2 |
ARCHIVES ・ 1992 |
捨てられたアイデンティティ いよいよ東京の桜は最盛期を迎えた。高輪にある3軒のプリンスホテルで開催されている「桜まつり」も、この週末が最も賑わうことだろう。 正面玄関車寄せに立つ美しいドア係に先導されながら、草木に囲まれた緩やかな階段を上ってロビーへ向かった。ドア係は見た目とは裏腹に、荷物の扱いが大変乱暴。せっかくの美人の株は台無しである。 ロビーに入ると、なぜかフロントカウンターに行列ができているのが目に入った。もうチェックインタイムは過ぎており、チェックアウトの行列には遅い。一体何事だろうか。でも、チェックインはレセプションラウンジで行われるのだから、この行列とは無関係なはずだ。 レセプションラウンジへ行こうとしたら、美人で乱暴なドア係が呼びとめ、チェックインはフロントでしろという。ラウンジでするのではないのかと尋ねても、フロントでと繰り返すだけ。いつからそうなったのかと聞くと、1週間くらい前だとか。 何ということだろう。さくらタワーが開業以来実施してきた「旅館のように座ったままでウェルカムドリンクを飲みながらのチェックイン」を廃止してしまったとは。他のホテルと一線を画すための数少ないアイデンティティを捨てるなんて。これには少なからずショックを受けた。 呆然としていると、「今日のところは」とラウンジに案内され、これまで通りのスタイルでチェックインが行われた。今まではチェックインが混雑していても、ラウンジでコーヒーでも飲みながらなら穏やかに待っていられたが、これからは立ったまま行列させられる。これをサービス低下といわず、何といおう。 案内は断り、微妙な気分で長い廊下を進み、客室階へ向かうエレベータホールへ。ちょうど、建物の隅から隅まで、結構長い距離を歩く。エレベータホールは立派な大理石造りで、天井からはシャンデリアが下がる。それでも、雰囲気はどこか日本的なのが不思議。 客室階でエレベータを降り、また廊下をずんずんと進んで、一番奥から2番目の部屋へ。結局、ロビーからエレベータホールへと歩いた分だけ、再度無駄に逆戻りした感じである。 用意されたのは46平米のツインルーム。標準客室にこれだけの面積を割いていることからも、さくらタワーがラグジュアリークラスのホテルを意識して造られたことがわかる。室内の設備も、趣味の良し悪しはさておき、かなりの充実度を誇ってる。高級感があるかと問われれば返答に窮するが、家具や備品が高級であることに間違いはない。 居室で最も魅力的なのは、大きな窓。窓台はさほど低くないが、天井いっぱいの高さまで窓が迫るので、空がとても広く感じられる。窓台には大理石を敷き、そこに腰かければ、今の時期、桜のじゅうたんを眺めることができる。 また、東京タワー側の部屋からは、タワーのほぼ全景を望み、それを眺めるためなのか、ソファはまるでそれ同士が恋人であるかのように仲良く寄り添って、外向きに並べられている。 通常ならライティングデスクがある場所には、三面鏡を備えたドレッサーを置いている。その両脇にはバゲージ台、テレビキャビネットを据えている。収納ラックも手の込んだ造りで立派だ。 では、ライティングデスクがどこにあるかというと、窓際にひっそりと置いてある。イスがなければ、単なるカウンターかと思ってしまうほどシンプルだが、LANのケーブルはここに備わっているので、やはりデスクなのだろう。せめてスタンド照明が欲しいところ。 ベッドは今でも高さをおさえたフラットタイプ。寝具だけは白いデュベカバーメイクで仕上げている。マットレスが古いので寝心地はいまひとつ。マスタード色のベッドボードは窓際までを覆っており、エキストラベッドの使用を最初から想定しているらしい。こういうところが高級ホテルになりきれない理由のひとつだ。 入口から居室までの間には、独立したトイレの扉、バスルームへの引き戸、そしてクローゼットがある。この広さなら居室との間に内扉があってもよさそうだが、この部屋には設けられていない。 バスルームは広々としており、機能的にも充実している。壁はタイルだが、ベイシントップや、床、バスタブの周囲は大理石仕上げ。タイルもいいものを使っているのだが、どうも高級感はいまひとつだ。ベイシンには丸いミラー、そしてスツールを添えたカウンターにはより大きなミラーを取りつけてある。 バスタブは全室ブロアバス付き。湯は設定量で自動的に給湯が止まる仕組み。ブロアの作動音がかなり大きいのが気になるが、室外には影響ない。 立派な設備なのに、高級に見えない理由のひとつは照明。そしてタイルの色合いだろうか。金具類にも色気がない。 シャワーブースは3方向を壁に囲まれているため、やや薄暗いのが難点。また、シャンプーなどのボトルを置くラックが小さくて不便だ。 タオルはバスタオルが4枚、フェイスとハンドは2枚ずつ用意されている。バスローブも備えるが、タオルもローブも生地の傷みは著しい。 バスアメニティはかなりレベルダウンした。シェーバーや歯ブラシはザ・プリンス用の高級品を用意してあったのだが、今ではふつうのプリンスと同じ。さくらタワーならではのポーチもなくなってしまった。 トイレは完全に独立しており、内部に小さなベイシンとタオルを1枚用意している。個室なのはいいが、かなり狭いので閉所恐怖症の人は無理かもしれない。 桜は昼夜を問わず目を楽しませてくれる。特に夜桜を心置きなく満喫できるのはステイならでは。夜も早い時間は外来客が多くて賑やかだが、遅くなればなるほど人が減って、景色を独り占めできるようになる。だが、ライトアップは例年に比べて控えめな印象を受けた。 昼間も見事だが、明るいうちなら早朝がいい。やはり人の少なさがその理由であるが、朝食前に散策して、レストランに一番乗りすれば、気持ちの良く一日のスタートを切ることができる。 客室からの眺めもまた素晴らしい。音もなく、風に揺られる桜の枝を愛でられるのは、客室ならでは。いつまでも見飽きない風景である。 それにしても、さくらタワーはどこへ向かっているのだろう。短絡的で愚かな策を講じ過ぎて、後で後悔しなければいいのだが。類稀な個性を授かったのだから、それを武器にできるよう、より個性を光らせるアイデアを生み出して欲しいものだ。今更ふつうなことをしようとしても、むしろふつうなホテルの陰に霞むだけではないのか。 |
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