ゴールデンウィークが始まる4月の末では、さすがに桜の見ごろは過ぎているかと思いきや、八重紅枝垂や普賢象などの八重桜が見事だった。その他にも高輪プリンスホテルの広大な敷地内では様々な木々が花をつけ、風に乗って新緑の香りも伝わってくる。この時期、都心で最も季節を感じさせてくれるホテルは高輪プリンスだ。
さくらタワーのエントランスは、高輪口からさくら坂を上がる途中にある。こぢんまりとした車寄せにはドアマンが立ち、荷物があればベルへと引き継いでくれる。以前はパソコンやシャンパンは運べないから自分で持ってくれと突き返されるし、クロークに預けるにも何やら面倒だったと記憶しているが、今回はそのようなこともなく、他のホテル同様に快く荷物を運んでくれた。
館内にはそれほど人の気配はなかった。大理石をふんだんに使ったロビーフロアは、その石のもつ質感と全体の配色の相乗効果で、いささか冷やかな空気を感じさせる。チェックインはレセプションラウンジにて、ソファに腰掛け、ウェルカムドリンクを飲みながらゆったりと行なう。ラウンジは広く、天井のカラフルなシャンデリアが印象的だ。そして、大きな窓の外に目をやれば、せせらぎと新緑が和ませてくれる。
だが、サービスの感じも悪くないのに、どうしても心からくつろげる開放感や安堵感に達しないから不思議だ。ちょうど、季節外れで商売っ気が萎えた観光地の土産物屋のような、たるんだ雰囲気が漂っている。それが石の冷やかさと共鳴して、居心地のよさを半減させているような気がしてならなかった。
そのたるんだ空気は客室にも漂っていた。設備はそれなりに充実しているし、広々としたいい部屋なのだが、なにしろ落ち着かない。窓は大きく眺めもよし。村野藤吾の家具も素晴らしい。バスルームは広くてとてもよくできている。清掃状態もよかった。しかし、これからのホテルはこれだけでは十分でないのかもしれない。ある意味特色があるホテルではあるが、数あるホテルの中からここを選ぶだけの魅力が果たして備わっているか疑問だ。
様々な表情を見せる庭園の散策はこのホテルの最大の魅力だが、宿泊客でなくても楽しめるものでは宿泊の決定打にはならないだろう。この環境と設備を活かして他を引き離すには、サービスをいかに工夫するかが鍵になるような気がする。まぁ、端から心配しなくても、プリンスなんだから、わが道を行くのみだと思うけれど。
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