本来ならチェックインはレセプションラウンジでソファに掛けながら行なわれ、、その際にウエルカムドリンクが振舞われることになっているが、夜遅いチェックインだったので、すでにラウンジは終了しており、フロントカウンターにて手続きを行なった。手続きが終わると、ウエルカムドリンクが提供できない代わりに、他のラウンジで使えるワンドリンクチケットがルームキーとともに渡された。
正面の車寄せにも、もう係は不在だったので、長いアプローチを歩いて、フロントまで荷物運びの手伝いを頼みに来る必要があった。フロント係は愛想もよく親切な印象だった。後に、フロント脇のコンビニエンスストアに飲物を買いに来た時も、同じ係がフロントからコンビニエンスストアにするりと移動して、レジ係を担当していた。このホテルのナイトシフトは結構忙しいようだ。
今回利用した客室は標準的なタイプで、46平米の広さがある。部屋に入ってみると確かに広々としているが、同時にごちゃごちゃとした印象を受ける。これは、配置というよりも、さまざまな色調や柄のファブリックを一度に使っているからだと思われる。特にヘッドボードから連続したカラシ色の腰板は、淡い色が似合いそうなインテリアの中でひときわどぎつい感じがした。
しかし、家具はどれも相当に手の込んだ品々で、決して安くないはずだ。ガラス製のスタンドなども、ホテルの客室備品としては高価なものにちがいない。にもかかわらず、一見するとそうは見えないところに、哀しいかなコーディネートに対する感性のズレを感じてしまう。
天井高は270センチあり、窓はワイドで高さもあり、高輪の緑豊かな景色を存分に楽しむことができるし、日中は陽光が差し込みとても明るい。ベッドは125×200センチとゆとりのサイズだが、高さが35センチと低めだ。大きなテレビ、ソファセット、独立したドレッサー、ライティングデスクなど、有用な設備は整っているものの、それほど使い勝手のよさを感じることはなかった。
この客室で一番の魅力は、やはりバスルームだろう。完全に独立したトイレを除いて、バスルームだけの面積で6平米弱を確保している。天井高は230センチあり、壁にはタイルを、床には大理石を使い、高級感を持たせた。ベイシンも一見天然石のように見えるが、肌で触った感じは人造石を思わせるものがある。ホンモノを使っているのかもしれないが、もしやニセモノかと疑わせてしまうところも、プリンスホテルならでは。バスタブはパワフルなブロアバス。もちろんシャワーブースが独立しており、アメニティは男女別にポーチに入って用意されているなど、プリンスホテルでは他に例を見ないグレードの高いバスルームだ。
全体的にサービスにはギスギスした感じがなく、明るく丁寧でのびのびとした印象があった。しかし、ホテルとしての考え方には驚くべきところがある。出発の際、バゲージダウンのためベルを呼んだ。すると、若く溌剌としたベルガールがやってきた。荷物をワゴンに載せながら、壊れ物や貴重品はないかと尋ねられた。それはどこのホテルでも通常尋ねられることだが、これにはパソコンが入っていて、この袋にはシャンパンが入っているというと、それらは自分で持って降りるようにと言われた。
なんでだろうと疑問に思ったが、指示どおり自分で運んで降りた。チェックアウトの手続きを済ませてから、ちょっとラウンジ休憩してから出発しようと思い、先ほどベルガールに運んでもらった荷物を一旦預かってもらおうとしたら、「壊れ物は含まれていない」とか、「生鮮品は賞味期限内に引き取る」というような条件を記した書面に署名を求められた。後で因縁をつけられてはたまらないとのホテル側の防御策なのだろうが、そのようにゲスト性悪説に則った考え方をするとは、なんとも心淋しいホテルだ。よほど高価な品ならいざしらず、慎重さを持って扱いさえすれば、何ら問題が生じることはない品を預かることさえ憚るようでは、職務能力そのものに自信も責任も持っていないことを露呈するようなもの。次元の低いホテルだ。
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