それに必要なものと言えばストレスのない環境の一言に尽きるが、行動に便利な立地条件や、自由に使えるフィットネス施設、気軽に一息入れられるクラブラウンジ、そして心地よい客室など、様々な要素が重なり合ってこそ理想の環境が成立する。だが、今回センチュリーハイアットを選んだことは、やや失敗であった。こんなことならケチケチせずにパークハイアットにしておけばよかった。後悔先に立たず。けれど、この先のいい教訓になった。本当に快適に過ごしたい時には、客室で過ごす時間が少ないからなどと、ケチなことを考えてはいけない。

チェックインは少々待たされたものの好印象だった。用意されたのは20階の公園側ビュールーム。改装を終えたばかりで、コンフォートタイプと呼ばれ、既存の客室とは分類されている。この改装によりセンチュリーハイアットは客室の実勢価格を引き上げた。それも思い切り。見違えるほどに立派になったのならそれもよかろうが、大々的に工事をしていた割にはそれほど変化していないので、今回の値上げには説得力がない。

主に改装された点は、ファブリック、空調設備、ベッドマットレス、シャワーとカランの交換だ。臭いを分解するパワーを持った壁紙を使っているらしいが、柄や色がシンプルすぎて退屈。カーペットも同様だ。ベッドは確かによくなった。リージェンシークラブルームのベッドよりも寝心地がいいという逆転現象が生じている。しかし、家具とそのファブリックにはまったく手を加えていない。テレビも以前のままだ。

バスルームのカランにはサーモスタット機能を備えるが、温度調節幅が狭い上に湯量が乏しく、これなら前の方がマシだった。また、これまでセンチュリーハイアットのシンボルでもあった、互い違いになったエレガントなレースカーテンは廃止され、ありきたりなスタイルになってしまった。これだけで高く売ろうとしても、利用客はそれほどバカじゃない。

清掃も不十分だ。いくら臭いを分解する壁紙でも、落ちたゴミまで分解する能力はないのだから、しっかり掃除機を掛けてもらいたいが、あちこちに細かいゴミが落ちたままだった。そして、新しい空調は季節を問わず好みの温度に設定できることになっているはずだが、30度に設定しても冷たい風が出るばかり。寒くてたまらなかった。

そして、リサイタル当日、会場までタクシーで向かおうと正面玄関に出た時のこと。衣装やら何やらで、結構な大荷物だった。玄関の前にいたドアマンに手伝いを求めたら、「タクシーはあちらです」と少し離れた乗り場を指し示すだけで、手伝うでもなければ、車をこちらに招くこともしてくれない。なんという不親切だろうか。だが、ここでモタモタしているわけにいかないので、とりあえずタクシーに乗って出発した。

後でマネジャーに苦情を言ったのだが、「それがどうかしましたか」というような反応だった。タクシー乗り場が設けてあるのだから、そこに行って乗るのが当然であり、ドアマンの対応に間違いはなかったと主張し、反省する様子はまったくない。センチュリーハイアットは小田急電鉄が運営するホテルである。なるほどさすが電車会社の発想だ。彼らにとってハイアットの正面玄関は、駅のホームと同等なのだろう。

だが、それは間違っている。インターナショナルホテルは公共施設ではない。公共施設とは次元の違った高度なサービスを提供するからこそ、高い料金を取れるのではないか。大荷物を抱えて正面玄関から出発する宿泊客がいても、タクシーを目の前まで回すのを断わることが適当なサービスだと考えるようなマネジャーは、即刻、駅での業務に移るべきだと思う。

後日、他のホテルのドアマンに、センチュリーハイアットのドアマンはこんなことをしていると話して聞かせたら、驚くというより嘲笑していた。センチュリーハイアットは、そうして物笑いになるのがお似合いのホテルに落ちぶれていいのか。よく考え直して欲しい。