この日、ホテルはやけに静まり返っていた。26階の客室が用意されたが、高層階パシフィックフロアに滞在客はほとんどいない。巨大ホテルがガランとしているのは、寂しいというより気味が悪い。客室は以前にも利用したタイプで、仕様は27階とほぼ同じだが、テレビに付帯するシアターシステムがちょっと違う。

チェックインをしてから、館内の様子を一通り見て回ったが、もうイベントの類はすっかり終わっていて、正月らしさはロビーの一部がそれらしく装飾されている程度だった。何か楽しい場所はないかと思案していたら、ちょうどセラーバー「エルベンセドール」の看板が目に入った。

ロビー階のエレベータホールの奥にある階段を降り、洞窟を思わせる仄暗いエントランスを進むと、奥にはホールが広がっている。壁やアーチ状の天井は煉瓦で出来ており、中世を彷彿とさせるデザインのレザーシートに囲まれたテーブルが並ぶ。照明は赤く揺らめくキャンドルが頼りだ。

夕方はすべてのドリンクが半額になるハッピーアワーの他、1,700円の菜食セットを用意。フード1皿とドリンク1杯にカバーチャージがフリーになるお値打ちセットだ。フードも本格的なメニューからチョイスできるし、ドリンクもカクテルならシャンパンベース以外どれでもOK。そして、ホテルバーらしさの光る優雅でカッコいいサービスも魅力だ。都ホテルの「チューダー」がなくなってからというもの、ここは残り少ないクラシックバーの貴重な穴場である。

「エルベンセドール」を出た後は、「T.G.I.フライデーズ」へ。ホテル内がどこも閑散としているのに、ここだけは満席ウェイティングの賑わいだ。待つのなら他へ行こうと思ったが、カウンターならすぐに入れるとのことなので、案内してもらった。ケイジャンサラダとモヒートを注文。ボリュームがあるので、これで十分だ。カウンター内にはバーテンを務める若い男性が数名いて、誰もが礼儀正しく対応も早い。次々と入るカクテルのオーダーに、鮮やかなスピードで応じている様子は、見飽きることがなかった。

食後はロビーラウンジでコーヒーを。いつもなら混雑しているのに、閉店間際のようにガラガラだった。だが、このラウンジに限っては、人が少ない方が心地よいように思う。

部屋に戻ると窓が少し曇っていた。駅の向こうにある高層ビルは、まるで廃墟のように真っ暗。直前まで滞在していたストリングスホテルだけが明るく浮き上がって見える。そのストリングスホテルは、窓がとても結露しやすかった。水受けが大きいので溢れることはなかったが、せっかくの夜景は曇った窓の向こうでほとんど見えなかった。

パシフィックの窓は、ストリングスに比べると少しは結露しにくいようだが、それでも気温が下がってくれば、たちまち曇りだす。やがて水滴が筋を引いて流れ落ち、朝目覚める頃には、水受けに溜まった水が溢れ出している。ここの水受けは細くて容量に乏しいので溢れやすい。乾燥しやすい季節に、室内が潤っているのは結構なことだが、連日この調子ではカビが茂りはしないのかと気になってしまう。

パシフィックでは、新年の滞在客に対し、毎年特別なアメニティを用意している。昨年は干支の石鹸だったが、今年は初入浴用の入浴剤だ。「新玉の年を寿ぐ初湯寿」と書いてあって、甘草、生姜、陳皮などが配合されているらしい。残念ながら初入浴はストリングスで済ませているので、もう何回目かの入浴だが、就寝前のあったまりタイムに使わせてもらった。

朝食は「ピコロモンド」で。ここもまた、いつになく静かだった。やはり朝は落ち着いた雰囲気の方が気分よく過ごせるのだと痛感した。