続いて支払い方法の確認があった。今回は現金で支払うと答えると、ほぼ2倍額のデポジットを要求された。この、デポジット、どうも馴染めない。初めて利用するホテルなら仕方ないとも思えるが、長い期間に渡る付き合いのあるホテルともなれば、一律に前受け金を要求するという「決まり｣に対して抵抗を感じずにはいられない。ますます気分が下降するが、求められた額を差し出した。

すると、今度は、レストランやマッサージを利用する予定はあるかと尋ねられた。今のところ決まった予定はないが、利用するかもしれないと答えると、なんと更に倍額のデポジットを要求。宿泊レートの4倍とは、ちょっとがめつすぎやしないか。そこまで言われると、黙っていられない。しかし、係は「決まりですので」の一点張り。そんな度を越した決まりに付き合ってまでこのホテルに泊まりたいとも思わないが、帰る前にマネージャーの釈明を聞きたかった。

出て来たのは、これまで話をしたことのない若いマネージャーだった。彼の態度は、客に理解を求めようとするよりも、決まりに背く客はお呼びでないと言わんばかりだった。このようなかつてない「決まり」をなぜ客に押し付けるのかと尋ねると、多額の部屋付け利用をして逃げてしまう、いわゆる「スキッパー」対策だとのこと。要するに、このホテルでは「客を見たらドロボーと思え」とでも考えているかと聞けば、信じられないことに「まぁ、そういうことですね」と答えた。

だが、ホテル側は、到着早々から客に対して多額の前受け金を要求することが、ホテルの利益に繋がっていると本気で思っているのだろうか。それが不思議でならない。確かにスキッパー対策にはプラスかもしれないが、結局スキッパーになるような客は、たとえ4倍のデポジットを取っても、10倍の飲み食いをして密かに立ち去るだけのことだろう。それより、善良な客の気分を萎えさせ、館内利用の意欲が低下してしまうことこそ、ホテルの不利益ではないだろうか。多額の前受け金を取って、気分がよくなる客も、財布の紐が緩む客もいやしないのに。

かつても書いたが、このホテルでは随分と散財して来た。とりわけバブルの頃は、友人達とセラを飲み干す勢いで足繁くメインダイニングに通い、連日ラックレートでスイートに泊まっていた。今思えば、なんとも恥ずかしいような振舞いではあったが、時代そのものが踊っていたあの頃には、若かった自分も、そしてこのホテルも、現在にはない独特の熱気に包まれていた。若いマネージャーはそれを知る由もなかろうが、こちらとしては長年の利用実績があるだけに、法外なデポジットを預ける気になれない。結局はマネージャーの方が折れて、デポジットは不要になった。その頃には、もうとっくに19時を回っていた。

用意された客室は改装されたスタンダードルーム。1名利用だったが、ツインルームだった。以前の明るい雰囲気とは対照的に、落ち着いたブラウンを基調とした都会的なインテリアになった。ベッドは110センチ幅で、シモンズのマットレスが心地よく、赤いアクセントクッションが印象を華やかにしている。以前よりも広く使えるようになったデスクには、回転脚の付いたオフィスチェアが添えられる。全体で26平米と、面積には余裕が少ないが、ベッドサイドに大きなミラー張り部分を設け、圧迫感を軽減させている。

PC機能も備えたTVシステムは便利だが、PCの起動中は思いのほか騒々しい。また、デラックスルーム同様に、照明がほぼ一括してON/OFFされてしまい、個々にON/OFFできないのが不便だった。せめてデスクのライトは独立させて欲しい。バスルームは約4平米と、このクラスにしてはゆったりしている。以前はリンスインシャンプーしかなかったが、やっとシャンプーとコンディショナーが別々になった。シャワーの勢いは申し分ないが、十分に熱い湯や冷たい水が出ない。

しかし、家具はどれも安物。改装されて1年程度なのに、すでにボロボロ。これまで15年間使われて引退した家具の方が傷みは感じなかった。清掃のレベル低下も著しい。最近、最も質が低下したホテルのひとつ。