1999.08.08
陽だまりの中で
ロイヤルパークホテル Tower Suite
喜-3数年ぶりでこのホテルのタワースイートに宿泊した。その間に改装工事が行われ、主にファブリックが一新された。オープン当初のアイボリーで統一されたシンプルな雰囲気と比較すれば、かなりくっきりとした色使いになり引き締まった印象になった。家具やスタンドなどは以前のまま使用しているが、高品質なものを大切に使っていたので、むしろ味わいが加わって落ち着きを醸し出すようになっている。
ところが、電動のカーテンやシャワーヘッドなど、長い目で見れば消耗品に近く修繕が必要になる可能性は高い部分についてはまったく手を加えておらず、幾つかの箇所に不具合があったのは残念だった。見た目ばかりを大切にして、設備がきちんと機能しているかのチェックを怠っているかのような印象を受けた。
正常に機能していない部分を客室係に指摘したところ、とても真摯に受け止めてくれた。更に、重ねて不愉快なことがらが生じないよう配慮してくれたばかりか、出発時にも丁重な挨拶があり、「これに懲りずにまたお越しください」と見えなくなるまで見送ってくれた。何か問題が生じても、責任者が逃げ隠れするようなホテルが大半だが、このホテルは違った。こうした責任者が先頭に立っての行動からは、十分に誠意が伝わってきて、このホテルに対する信頼がかえって増す結果になった。
数年前は800人の正社員が支えていたこのホテルだが、今年度中には500名体制に持っていく方針だそうだ。いままでひとりひとりが担って来た分の、ほぼ2倍の努力が必要になってきて、それまでの万全なサービスにかげりが出てきたようだ。完璧だった客室清掃にも不行届きな点が散見されたし、レストランでも手落ちが目立つ。だが、これからが大変だというのではなく、今までが楽すぎたのだから、気を引き締めて乗り切って欲しいものだ。
それにしても、タワースイートの居心地は素晴らしい。ユニークなレイアウトなので実際よりも広々と感じるし、コーナールームなのでとても静かだ。それに、何といってもリビングは採光に優れ、ポカポカと気持ちがいい。以前はよくこの客室で穏やかな曲をたくさん作ったものだ。眼下には首都高速が走り、相当な交通量なのだが、その騒音はほとんど気にならない。ステレオを完備しているので、お気に入りのCDを持ち込むのも手だ。
一方、寝室には120センチ幅のベッドが2台入り、高級な羽毛布団が掛かっている。遮光カーテンを閉じれば静寂そのもので、昼寝も気持ちがいいだろう。バスルームには、ふたりで入るのに十分な大型バスタブと、水圧の高いシャワーブースがある。シャワーブースの扉は重く、とても立派な感じがする。アメニティこそ、一般客室と共通になってしまったが、その他の部分はすべてに渡って高品質を極めている。レストランも良質で、すべてのサービスは水準を軽くクリアしている、非常に高いレベルで安定したホテルだ。
知った顔の従業員がほとんどいなくなってしまうと、レストランはこうも寂しくなってしまうのかということを実感させられる食事だった。いつもなら、マネージャーかそれに代わる人がにこやかに出迎えてくれるが、この日は今日初めてきた客と同じ扱いだった。それに不満はないのだが、気分が盛り上がらないのでお財布の紐もあまり緩まない。というわけで、ホテルにとっても損なのだ。
日曜日といえども、ホテルのレストランではランチサービスメニューを設けており、都心のホテルでは平日よりも割安な設定にしている店も少なくない。ここ「ラバンチュール」は週を通じて同じ料金設定でランチが用意されており、パスタやオリエンタル料理など、かなりのバリエーションから選択することができる。値段的には魅力なのだが、せっかくタイ料理フェアを開催中なので、フェアメニューやグランドメニューからいろいろと注文して皆で取り分けるという、いつものスタイルにした。
バンコクのランドマークホテルよりシェフとサービススタッフを招いてのフェアだが、彼らがいるのは期間中の前半だけで、すでに帰国しているとのことだった。フェア開催直後の料理は現地の味にとても近く、かなりのインパクトがあるが、徐々に日本人好みの味付けに落ち着いてきて、ついには帰化してしまう。今回の料理もややその傾向にあったが、エキゾチックな食材をふんだんに使い、ざっくりと料理してある点などは本場の雰囲気たっぷりで十分に楽しめる
。1品だけ、ランチメニューから仔牛のカツレツを注文したが、その他の料理との差があまりにもあり過ぎて、やはり値段の差は顕著に表れるものだと再認識した。サービスについては、目が行き届かない点が幾つかあったものの、昨今のホテルレストランのレベルからすれば非常に高いレベルにある。おいしさ、雰囲気ともにバランスの取れた秀逸なレストランだ。
Y.K.