1999.03.27
ホテルらしいホテル
ロイヤルパークホテル Standard Room
喜-3オープンして10年。多少の改装はしたものの、大方の部分は開業当時のままだ。くたびれた感じのところもあるが、とても大事に使われているらしく、とても10年経っているようには感じさせない。オープン3〜4年だというのに、ここよりもくたびれているホテルはたくさん見てきた。結局メンテナンスが悪いところが多いようだ。
例えばメンテナンスのよい例を挙げると、フォーシーズンズと帝国ホテルが群を抜いている。元々そうやすやすと壊れるような陳腐なものを使っていないからかもしれないが、その他にも、客室の補修や染みのついたカーペットのクリーニングに対する敏感さなど、ホテル内をいい状態に保とうとする感覚が磨かれている。
一方、残念ながらメンテナンスの悪い代表選手は第一ホテル東京とホテル阪急インターナショナル。せっかくのインテリアがだいなしの荒れ果てた状態は、見るも無惨だとさえ言える。年月と共に使い込まれ、徐々にガタが来ているというのならまだ味わいを見出せないこともないが、明らかに手入れが悪かったり、清掃が行き届いていないというのは、ハウスキーピングのよほどの人員不足か、意識が低いとしか考えられない。このご時勢、改装費用を捻出するのは大変なのだから、むしろ普段のメンテナンスに力を入れた方が得策だろう。
ロイヤルパークホテルがオープンしてから2年くらいは常宿にしていた。特別、割引をしてもらったことはない。ほぼ定価で泊まっていた。ホテルに定価で泊まるなど、今では考えられないことだ。レストランを含めれば何千万円使ったか知れない。レストランも1回行けば10万は下らない食事をしていた。別にバブル期だったからではない。それだけの価値があったからだ。
ロイヤルパークホテルは当時としてはユニークなホテルだった。使い捨てスリッパやブランドもののソープ(グッチやゲランの大きいのがトワレと一緒にドンと置いてあった)など充実したアメニティや4管式の空調、CATVの充実ぶりも当時としては目を見張るものがあった。
しかし、更に新しいホテルが次々とオープンし、目新しさだったものが、当たり前になって、とりわけユニークだという感じではなくなってしまった。広いと思っていた客室も、フォーシーズンズやパークハイアットを前にしては勝負にならない。また、開業以来お世話になっていた従業員が次々と辞めてゆき、見知らぬ人に冷たいサービスを受ける機会が多くなり、自然と足が遠のいていった。
レストランはその後も事ある度に利用しているが、宿泊する機会は年に一度あるかないか。今回の宿泊も久しぶりだったので、懐かしいというよりも新鮮だった。前出のとおり、客室の清掃状態はパーフェクト。バスタブに垢が付いていないのは、本来当たり前のはずだが、最近のホテル事情では奇跡的なことだ。どんなに安い宿泊プランで泊まろうとも、全室ターンダウンを行い、枕元にはキャンディーが置かれる。シャワーの水圧は高く、10年前と同じシャワーヘッドからのお湯はきめが細かく、肌に心地よい。
少しも豪華でなく変わったところのない客室だが、思いのほか快適だった。ルームサービスメニューもとても充実している。特に軽食がいい。各種のどんぶりや種類豊富なサンドイッチなど、ちょっとした食事に適した品揃えだ。しかも低価格。また、ハーフポーションも設けられている。しかし、深夜になると、飲物だけしか注文できない。これで24時間ルームサービスというのはちょっと・・・
日本料理「源氏香」
以前はフレンチレストランでマネージャーを務め、開業以来のお付き合いがある高橋さんが源氏香のマネージャー。予約無しでフラっと行ったが、庭園の見えるよい席に座れた。お昼の定食は3,800円から。この日は10,000円の懐石をご馳走になった。周りを見ると、結構この懐石が出ている。昼間っから10,000円とは皆さん景気がいいものだ。スーツのオジサン3人組みと、ひとりできているオバサンが食べていた。
料理は春と桜をイメージしたもので、さすが目にも美しく盛りつけられ、かといって量も多くなく、とてもおいしくいただいた。昼間の方が日本庭園がよく眺められ、雰囲気がいいかもしれない。庭園内の桜も徐々に咲き始めていた。着物を着た女性陣のサービスも素晴らしく、このホテル内でフレンチレストランをはるかに凌ぐ良質のサービスだ。
店を出て、ロビーに降りて行くと、地下1階にあるラバンチュールの藤田マネージャーとすれ違い、「今日は源氏香でお食事だったそうですね。」と声を掛けられた。大きなホテルなのに、情報の早いこと。「じゃぁ、後で寄りますよ」と思わず約束をしてしまった。
ロビーラウンジ「フォンテーヌ」
このロビーラウンジは結構落ち着ける。外国人客が多いせいか、ホテルらしい空気が流れている。コーヒーはガストの飲み放題コーヒーとさして変わらない品質で800円だが、もちろんおかわり自由で積極的に勧めてくれるし、ロイヤルドルトンの器でソファに腰掛けて飲めば800円の価値は十分にあるので、食後に席を移してくつろぐのが好きだ。エグゼクティブラウンジはやや息苦しい感じで、第一コーヒーが余りおいしくない。
「フォンテーヌ」にはピアノがあり、昨年までは生演奏が入っていた。やはり生身の人間が演奏する音楽はいいものだが、経費削減でピアニストはリストラの対称になってしまったようだ。ピアノ自体はまだ健在で、蓋を小さく開け、オブジェと化しながら誰かが演奏してくれるのを待っているようだ。
レストラン「ラバンチュール」
あまりおなかが空かないまま、でも約束なので食事に出掛けた。夜は5,000円からコースがある。といっても2種類だけ。アラカルトは以前ほど力が入っていない。その分5,000円のコースに力を入れているようだ。内容はエイジアンメニュー。エイジアンフードが結構好きなので、迷わずこのコースを注文。ひとつひとつの品はポーションが少なく、女性向きかもしれないが、お昼にたくさん食べた後だったのでちょうどよかった。
ベトナムの生春巻きやタイのトムヤンクンなど、一通り楽しめるし、おいしかった。ワインを頼もうと、フレンチレストランからソムリエを呼んでもらって、このエイジアンフードにどう合わせるかを相談したが、結局、ワインはワインでということになり、先日インターコンチネンタルで味わい損ねたブルネッロディモンタルチーノを頼んだ。先日楽しんだロッソディモンタルチーノをひとまわり拡大した感じだが、作り手が違うせいか、むしろロッソよりもぼやけた感じがした。
ラバンチュールにソムリエが来て、なぜか源氏香の高橋マネージャーもヘルプに来、お客さんの入りもよく、レストランらしい活気ある雰囲気だった。総料理長の嶋村さんにもお目にかかり、料理の鉄人の話題でしばし雑談。
この店はランチタイムもコストパフォーマンスに優れている。しかしいつも閑古鳥。近隣のOLさんたちにとっては、昼食は毎日のことだから、せいぜい千円台で済ませたいそうだ。
コーヒーショップ「シンフォニー」
この店はなんといってもブッフェ。しかも落合シェフのいる時に限る。彼がブッフェカウンターに立って「さぁ、どんどん食べてください」とお客に声を掛けているのを見ているだけでも気持ちがいい。なにかお願いをすると職人らしく「ハイッ!」と返事をしてくれ、見事な手さばきで調理してくれる。今時職人芸を見られるだけでもありがたいものだ。
パンパシフィックのトスカでも、オムレツを焼いたりしてくれるが、素人のオネエさんが作るのとは訳が違う本物がここでは味わえる。夜は早めに出掛ければ割り引きタイムがある。以前は黒服は何もせず、ただただみんなの監督をしていただけだが、最近はきちんと仕事の戦力になっているようで結構。ただ、コーヒーデカンタを鷲づかみに持って歩く従業員がいたが、感心しない。
今回の滞在で一番強く感じたのは、このホテルには本当のホテルマンが比較的多くいるということだ。もちろん、人によって出来不出来はあるし、心構えも差があると思う。しかし、最近のホテルで多くなってしまった「制服を着たサラリーマン」でなく、本当のサービス人や本当の料理人がいて、それらの人は自分のペースをきちんと築いて楽しそうに仕事をしている。
そういう意味ではこのホテルは新型のホテルというよりは、帝国やオークラに近いテイストを持っているのかもしれない。本物のホテルマンが優勢だからこそ、ロイヤルパークホテルは真にホテルらしい空間が保てているのだと実感した。
日本のホテルには例えばパリやロンドンの高級ホテルが持っているような格式は皆無だ。だれしもが気軽に利用でき、オープン化されたホテルしかない。ヨーロッパの格式あるホテルはみな、人材が素晴らしい。また、仕事に誇りを持っている。客を選ぶくらいの意気込みがある。だから、こちらも格式を重んじ襟を正して出掛ける。そういうホテルが日本にも一つくらいあってもいいと思う。
Y.K.