コンラッド 東京 Executive Bay View Room |
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Conrad Tokyo |
2009.02.28(土)
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東京都港区 |
怒-4
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ランチを舐めるべからず | 気が付けばかなりご無沙汰していたコンラッド東京。ラグジュアリーホテルとしてもっと頑張ってもらわなければ、つまり行き届かず不満な点も少なくないのだが、だめだこりゃと切り捨てるには惜しい魅力があり、訪れる度に満足と落胆が入り混じった複雑な気分にさせられる。
開業当時は気取っていて生意気な印象だったスタッフも、年月を経てひとりひとりの人柄が見えてくると、案外人間くさい人たちであることが理解できてきて、今では特別な親しみすら感るようになった。このホテルもまた、一番の魅力は人である。あの人がいるから、あの人の顔を見たいから、そんな気持ちで予約を入れることも少なくない。 かといって、トモダチに会いにきているわけではないので、看板と料金通りのものを提供してくれなければ、サービスの切れ目が縁の切れ目になりかねない。すべきことはしてもらう。払うものは払う。当然ながら、このけじめがなければ、人の魅力は価値を発揮しない。 今回は2泊だったが、またしても、素晴らしいと感じる部分と、いい加減にしてくれとブチ切れそうになる部分とが、絶妙なバランスで散りばめられた滞在となった。 1階エントランスでの対応は悪くなかった。ベルデスクにいた係は遠くから気付いて駆け寄り、28階のロビーを経由して37階のエグゼクティブラウンジまで案内してくれた。エントランスホールを通る際、ベルアテンダントに気付いてもらえないことが多いのだが、今回は合格だった。 ラウンジに見覚えのある係は不在だったが、初めて見る係たちも「おかえりなさいませ」とにこやかに出迎えてくれた。ベルから引き継がれたのか、名前を尋ねられることはなかった。チェックインはカウンターデスクではなく、ラウンジの席でコーヒーを飲みながら。到着したのは13時過ぎだったが、部屋の準備が整うのは14時とのことで、遅めのランチに「ゴードン・ラムゼイ」の予約を頼んだ。 28階の「ゴードン・ラムゼイ」に行くと、入口で少し待たされたが、店の奥にある、よく通される席が用意されていた。周囲を見ると、カジュアルな雰囲気の客が多い。一角には調理師学校の生徒たちと見受けられる団体が、少々緊張した面持ちで会食をしている。将来一流店で働くことを目指して日々学んでいる若者達だろうか。この日の経験がそのプラスになることを願いたい。 週末のランチはプリフィクススタイルで、料理は前菜とメインディッシュ、デザートの3皿が基本。料理だけなら6,800円で、それぞれに合わせたワイン付きにすると8,800円、ルイ・ロデレールのフリーフローを加えると9,800円という価格構成になっている。アラカルトはなく、夜のコースを注文することもできないので、必然的に3皿構成のコースを注文することになり、まず選択肢の少なさに落胆した。 料理を選ぼうとメニューに目を通すが、ファインダイニングというより、ブラッセリーで出すようなものばかりが並んでいる。以前からこうした傾向があったわけではないが、それでもゴードン・ラムゼイらしさが枯れ果てることはなかった。しかしアラカルトなしのメニューは、これはいくらなんでも手抜きしすぎではないのかと思いたくなるような内容だ。 係に尋ねると、ごく最近にスタイルを変更し、ランチタイムはブラッセリー「セリーズ」の流れで営業し、ディナータイムに集中する体制を取っているとのこと。それって「ランチは捨てました」というようにしか聞こえないのだが。テーブルセッティングも、クロスをやめランチョンマット。これで値段も手頃になったのなら仕方がないが、そこは昔ながらというのでは納得いかない。 まあ、判断するのは料理を食べてからだ。このブラッセリーというよりもカフェテリアかと思うようなメニューからチョイスしたのは、カボチャのサラダとポークグリル。やがて運ばれてきた料理は、どれも味にこそ不満はないが、量が少なく、皿に盛られた出来栄えにも美しさやインパクトはなく、ラグジュアリーホテルのダイニングの名に恥じるものでしかない。 そしてデザート。改めてメニューからチョイスするのかと思いきや、喫茶店のようにケーキのサンプルが出てきて、そこから選べとのこと。それを聞いて、何かの間違いかと思った。6,800円のコースとは別に、3,000円くらいの激安メニューでもあって、それと取り違えたのかと真面目に疑った。 それくらいの値段なら納得だが、6,800円も取られて、調理場でその客のために仕上げられたのではない料理を食べさせられることになるなんて、思いも寄らなかったのである。 値段と実際の価値に大きな差を感じる要因は他にもあった。サービスにチームワークやスキルがなく、高級ホテルのダイニングとしてあってはならないレベルという現状。料理がなかなか出てこないとか、ホールにスタッフがひとりもいなくなることが多く、その時間がやたらと長い。 更には、皿を下げる際、卓上で皿を重ねるという基本的なタブーまで、あれやこれやとやらかしてくれるのである。このような実体で、ディナーになったら別世界のように何もかもが素晴らしくなるというのか。少なくともランチの状態を見る限り、ディナーに大きな期待はできないが、このような印象をもたれてしまうことの怖さを、このホテルは理解していないのだろう。 この程度のものをこの値段で売れば、ぼろ儲けに違いない。確かに2,000円増しで提供される4種のワインはお値打ちだった。3,000円増しでのシャンパン飲み放題は、酒好きにはたまらないだろう。だが、これには単純にコストが掛かり、酔っ払いだけが得をするようになっている。世界的に名の知れた料理人の店である。もっと本質で勝負することを強く要望する。 ラウンジへ戻ると、ルームキーが用意されていた。荷物はすでに部屋に運んでいるという。スタッフから早めの誕生日祝いをプレゼントされ、そこにマネジャーも顔をだしてくれた。こういうサプライズには大きく心を動かされる。 向かった客室はいつものタイプ。最上階のベイビュールームだ。だが、部屋の様子は違って見えた。まずベッドからアクセントのスローケットがなくなり、真っ白のデュベカバーがむき出しになっている。そういうセッティングのホテルも少なくはないが、ここではベイビューとシティビューとでカラースキームに変化を持たせ、その色調を最も強く意識させるアイテムがスローケットであった。それゆえに、是非とも必要なのである。 なのに、なぜ取り払ったのか。聞けば、最近は汚れが目立つようになり、それが苦情にもなったからだという。汚れているならクリーニングすればいいだけなのに、なんと的外れな考え方だろうか。また、枕の数も減らされ、ターンダウンの方法も簡略化された。加えて、目立つのが高い部分の清掃不足。レインシャワーのヘッドやミラー、バスルーム扉など、見逃されがちなところではあるが、行き届いていないのはまずい。 客室備え付けの便箋も、以前はゴールドでロゴが入っていたが、今では黒の一色刷りとなり、見栄えが悪くなった。清掃不備については、ステイ清掃の際に具体的な場所を知らせて対応を頼んだのだが、結局解決してもらえなかった。もしや見た目には落ちそうでも、落とせない汚れなのかと思い、自分で拭いてみたが、どれも簡単に落とすことができた。やはり手抜きと目のやり場の悪さが重なっているようである。 ラウンジの営業時間は、以前は7:00から22:00だったが、現在は6:30から23:00に延長されている。ティータイムやカクテルアワーも時間が変更になった。また、これまではシャンパーニュを出していたが、それもスパークリングワインとなり、週末のオードブルは、ブッフェカウンターではなく、ワンプレートをテーブルサービスするようになった。れは、ラウンジに腰を据えて長居を決め込む客が多過ぎることへの対策のようだ。 これまでも何度か指摘してきたが、混み合うラウンジで長居をするのは無粋である。デパートの試食コーナーにゴザを広げて食べ続けるのに近しい行為だ。軽く一杯。そして、そのツマミとして一口のオードブル。食欲が出たところでレストランへと向かう。ラウンジはそのためのプレリュードに過ぎない。ここで腹を満たそうなどという下品な考えは捨ててもらいたいものだ。現実問題として、ここのラウンジは客層が悪すぎる。 同様な状態にあるのが、スパのロッカールームだった。床もドレッシングコーナーも散らかり放題。素っ裸でベイシン台の上に体育座りしているおかしな人までいる。この荒れようは、一体何なのか。ホテルとしても面を食らっているようだが、ラグジュアリーホテルの品位は守り通してもらわなければならない。 そんな中、夜間にちょっとした事件があった。35階で火災が発生したとかで、客室内にも大音量で警報と警告が鳴り響いた。客の中にもパニックを起こした人がいて、廊下で激しく泣き叫んでいる。館内はにわかに騒然とし、異様な空気に包まれた。本当に火災なのか、誤報なのか。この判断は難しい。火の元が見えるわけではなく、煙も感じない。詳しいことがわからず、とりあえず廊下に出て様子を見るが、他の客も同様にしていて逃げようとはしていない。 この騒ぎで消防車も出動したが、結局のところ大事には至らなかった。翌日、スタッフはこの騒ぎのことを何度も詫びた。ビックリしたのは確かだが、この件で怒りは感じていないので、頭を下げられても困惑するばかりだった。逆に何事もなくてよかったと思っている。 それよりも、日常のサービスレベルをどうにかして欲しい。「セリーズ」での朝食は、いつもと変わった様子はない。気品を感じないのもこれまで通りだ。つまり進歩がないのであった。これまで以上によくなかったのは、フレンチトーストの仕上がり。片面は黒こげで、全体的にパサパサだったため、ちっとも美味しくなかった。 翌日、再度フレンチトーストを注文。前の日は美味しくなかったことを告げると、今度は素晴らしい出来栄えのが運ばれてきた。やれば出来るということならば、前日の手抜きは何だったのか。しっかり気を引き締めて欲しい。 「ゴードン・ラムゼイ」で懲りたランチだが、「風花」はどうだろうかと思い、鉄板焼カウンターを利用してみたところ、思っていたよりも満足度が高く、値段的にも手頃だと感じた。 このホテルは今でも迷走を続けている。ラグジュアリーを極めるのか、中高級あたりに落ち着くのか。「絶世の美学」「インスピレーションがふりそそぐ」「サイレントシンフォニー」。これらキャッチコピーからは、高度な洗練を連想させられる。だが、実際に訪れて目にするのは荒れて乱れた光景である。一日も早く、絶世の美学により紡ぎだされた時間と空間に酔わせてもらいたいものだ。 |
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コンラッド東京(公式サイト) | |
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