散々だった前回の滞在から1ヶ月が経ったが、そのわずかな間にも様々な試行錯誤が行われたことが伺え、今回は充実したいい滞在となった。
タクシーでコンラッドに到着したのは昼過ぎだった。チェックインには早すぎるとわかっていたが、まずは荷物を預けて身軽になりたかった。少々入り組んだホテルアプローチは、タクシーの運転手にもわかりにくいようだったが、要所に係が立っており、適切に案内している。その仕草にも凛々しさが感じられた。
正面玄関では素晴らしい出迎えがあった。背の高いドアマンがタクシーの扉に手を添えると、「お帰りなさいませ、神田様」とすかさず声を掛ける。そのドアマンの顔に見覚えがあり、記憶をたどったが思い出せない。後にアシスタントマネージャーに、見事な出迎えの感想を伝えると共に、ドアマンについて尋ねたところ、かつてはオークラにいたと言う。そのドアマン自らが28階まで荷物を持って案内。颯爽とした振舞いにはパワーがみなぎり、つられてこちらも元気が沸いてくるほどだ。
28階ロビーではアシスタントマネージャーが待ち構えており、そのまま37階のエグゼクティブラウンジへと案内してくれた。ラウンジでは、まだ一度しか会ったことがないというのに、スタッフは最大限の親しみを込めた歓迎をしてくれる。とりわけ、台湾出身の小柄な女性が元気ハツラツで、まるで親友に10年ぶりに再会するような表情を見せてくれ、なんだかうれしくなってしまう。他のスタッフは、彼女と比較すると奥ゆかしく感じてしまうが、擦れたところがなく感じのよいサービスをする。
客室はまだ仕上がっていなかった。12時過ぎなのだから仕方がない。コーヒーを飲んでいるところに、アシスタントマネージャー自ら、清掃状況の説明をしに来た。あと1時間程度要するとのことだったので、外出してくることに。14時頃にラウンジに戻ったが、部屋は最終チェック中で、更に待つことになった。係は申し訳なさそうにしていたが、予定時間よりも早く到着したのはこちらの都合だし、規定のチェックイン時間よりもまだ早いので構わないと返答した。だが、そうして客を待たせることを申し訳なく思う気持ちは大切だと思う。
準備万端整った今回の客室は、ラウンジと同じ37階にあるシティスイート。37階は喫煙可能フロアだが、敢えて最上階を指定してあった。タバコの臭いを嫌うことを承知してか、念入りに消臭を行ったとのことで、臭いはまったく気にならなかった。なぜ37階を希望したかというと、天井高にかなりの差があり、その差から生じる開放感がどの程度のものなのか、実際に客室で実感してみたかったからだ。その他のフロアの天井高が3メートルなのに対し、37階は3メートル50センチ程度の高さがある。窓際に人が立つと、その上部に人の身長ほどの空間が見られ、相当天井が高いのだということがよくわかる。
客室の仕様は、最初に利用したガーデンスイートと同じだが、若干ホワイエ部分やベッドルームの幅が広いように感じられる。また、アクセントに添えられたクッションやベッドのスローケットなどが暖色系で、寒色系を用いたガーデンルームよりも室内配色のバランスがいい印象だ。ソファに囲まれたローテーブルには、桃とマカロンが用意されていたが、このマカロンはとてもいい味だった。
夜には東京に非常に激しい雨が降った。汐留周辺はさほどでもなかったが、窓から新宿方面を眺めると、まるで霧にかすんだように何も見えず、真っ白な靄全体が時折稲妻でストロボのように鮮烈な光を放っていた。打って変わって翌朝は見事に晴れ渡った。冬空のように澄んだ空気が都心を覆い、どのビルにも手が届きそうなくらい鮮明に見えていた。
朝食はエグゼクティブラウンジで。前回、ナプキンの上にカトラリーが載せられていて扱いに困ったことをマネージャーに伝えて帰ったが、今回は席に着くなり別のナプキンが運ばれてきて、すぐにコーヒーとオレンジジュースが出された。さわやかでいい雰囲気ではあったが、ブッフェ台に並ぶサラダの葉っぱがかなり傷んでいるのがとても残念だった。
滞在中、ほとんど問題には直面しなかったが、サービス体制が万全であることや、ゲストをサポートしようという積極的な意識が感じられたことで、安心して滞在することができた。宿泊料金が5万円を超えるような超高級ホテルでは、及第点をとればいいというような意識でサービスされては料金に見合わない。倍の料金を取るためには、3倍の価値を持たせるくらいの意気込みと実力が求められる。そういう意味では、コンラッドにも更に頑張ってもらいたいところだが、今回感じたきめ細やかさには、十分に心動かされるものがあった。
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