客室は最も多い標準客室で42平米。400室弱の総客室数のうち300室以上はこのタイプだ。特別階グランドクラブの標準客室もこの中に含まれ、部屋の仕様はまったく同等である。だが、どの部屋も同じ条件とはいいがたい。それどころか、階層や向きによって、その印象は大きく違う。

仮に、高層階の富士山側でも、いわゆる「眺め代」を加算できるほどの絶景が拝めるわけではないが、低層階の森タワー側の圧迫感を思えば、高層階チャージとして1000円や2000円くらいなら余計に払ってもいいと思う人もいるだろう。特に、遠くからはるばる東京に初めて来た人には、どこまでも広がるビルの景色が楽しめる高層階は魅力的に違いない。森タワー側には東京タワーの全景が見える部屋が多くあるので、それを希望する人も少なくないと思われる。

だが、3階から9階の低層階では、どちらの側でも視界が狭い場合が多く、目の前が壁という部屋もある。あえてこの閉塞感を好む人もいないわけではないだろうが、一般的にはこの部屋に案内されれば、眺めとしてはガッカリだろう。それでも客室の広さや設備は同じということで、料金カテゴリーも同じである。

では、富士山ビューになるか、東京タワービューになるか、はたまた眺めなしになるかは、どのように決まるのだろう。単なる運なのだろうか。少なくとも言えるのは、希望がある場合は、遠慮せずにリクエストをした方がいいということだ。予約時にメッセージを添えてもいいし、後日予約課宛に電話してもいい。必ず希望が受け入れられるわけではないが、リクエストが無視されることはないはずである。

今回用意された部屋も、高層階の富士山側だった。しかし、隣室の客が大音量でオーディオを聞いており、激しいリズムと低音が絶えず響いていた。隣室の騒音はあらゆるホテルで苦情のトップにあがる事柄だが、特に音が響きやすい構造になっているこのホテルでは大きな問題である。これまでも、何度となく迷惑し、その度に対応してもらってきた。

おそらく隣室の客は、これほど音が洩れ響いているとは思ってもいないに違いない。部屋にある設備を気分よく活用しているに過ぎないのかもしれない。だが、どのホテルにもあるテレビでさえ、最大音量で見るような無神経者はいないわけで、どの程度の音量が適切かは、コモンセンスがあれば判断できるはずだ。今回の隣人は、音が響きやすいというこのホテルの欠点を考慮してもなお、度が過ぎていた。

隣室にはホテルスタッフが何度も注意を促したが、一向に効果がない。ズンチャカスチャラカと、クラブの控室にいるような状態にさらされるうちに、客も客だがホテルもホテルだという気分になって来た。

部屋については、とにかく静かに過ごせることが第一優先だと伝えてあるが、それは高層階がいいとか東京タワーが見たいという希望ほど単純には実現できないだろう。だが、そこが高級ホテルの腕の見せ所である。これほどのホテルであれば、リピーターも多く、人物像を把握している客も少なくないはずだ。この客なら騒音の苦情に発展することはないと思える客と隣り合わせにすることも可能ではないのか。空室に余裕があるなら、ギリギリまで両隣を空けておくこともできる。

他にもあらかじめできる配慮はいくつもあるが、このホテルはその中のひとつさえ行なわなかった。もし、配慮をしたにはしたが、残念ながら実現できなかったという経緯があるのなら、あえてそのような表現がされなかったとしても、コミュニケーションのプロセスで伝わるものである。

今回、彼らは騒音に対して、何ら配慮をしなかった。その結果が隣室の「インルームクラブ」状態である。今、このホテルには、禁煙フロアだけでなく、クワイエットフロアが必要だ。静寂を好む人だけのための、落ち着いた空気が漂うフロア。意外とニーズはあるような気がしてならないのだが。