パレスホテル Deluxe Room |
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Palace Hotel |
2009.01.24(土)
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東京都千代田区 |
楽-4
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さらばパレス | 皇居お堀端で47年に渡り日本のホテルをリードして来たパレスホテルが、全面改装のために2009年1月末で一時閉鎖されることになった。その一足先を行ったのはキャピトル東急ホテルだったが、昭和のホテル発展期に重要な役割を果たしたホテルが、一時とはいえ閉じてしまうのは寂しいものだ。
両ホテルともに、いずれは新築のラグジュアリーホテルとして再オープンする予定だが、長年積み上げてきた風格をそのままそっくり引き継ぐことは難しく、ある意味、また別のホテルとしてスタートすると考えた方がいい。 ホテルは基本的に新しい方が快適だが、古いことに価値があるホテルも存在する。富士屋ホテルや奈良ホテルがいい例だが、40年程度の歴史では、時代を超えた建物とは認識されないのかもしれない。 しかし、新しいホテルの新鮮さなど、ものの数年で風化する。むしろ、ホテルは10年目から味が出はめ、味わい深さが感じられるのは20年目以降。老舗の風格が伴うには最低30年だろう。それは結婚や芸暦にも通ずる時間感覚であり、その日その日の良し悪しを超越した、ひとつの人生の総評のような視点で考えるものである。 キャピトルもパレスも、これから真価を発揮しようという時に取り壊し、世の中が新しいホテルを求めないだろうと思われる時に再オープンする。なんとタイミングの悪いことか。建物の構造に致命的な欠陥があるならばしかたがないが、風格を保ちながら部分的に改装すれば、新しいホテルにはない熟成した時間を提供できたに違いないと思うと、なんとももったいなく残念だ。 この日は小雪の舞う、寒い一日だった。閉鎖を知った長年のパレスファンがこぞって押し寄せたのか、ロビーは想像をはるかに超えた賑わいだった。イスというイスには人が腰掛けており、その周囲にも立ったまま何かを待っている客が大勢いる。おそらく昼食を予約して訪れ、そのオープン時間を待っているのだろう。 ロビーの一角にはパレスホテルの歴史を紹介したパネルや展示物があり、さながら博物館のようである。往時を偲ばせるモノクロームの写真、開業当時のタリフやメニュー、前身だったホテルテートの資料もあり、なかなか興味深い。これらをくまなく見物するだけでも、数時間は費やせそうだ。 だが、それは後からのお楽しみ。まずは予約してある、最上階の「クラウンレストラン」へと向かう。エレベータホール前には金屏風を思わせる華やかなウォールアートを背景に見事なフラワーアレンジメントが置かれ、パレスホテルらしい、和とも洋とも、またその折衷とも違う独特のセンスが伺える。 レストランはもちろん予約で満席。すでに多くの客が席に着いていた。店内は三方に窓があり、中央のセクションが一段高くなっていて、どの席からも皇居周辺の風景が見えるように工夫されている。最も眺めがよいと思われるのは、入口から一番近い窓際の列だろう。広場の向こうに建ち並ぶ高層ビル。それは東京を象徴する景観のひとつであり、パレスホテルならではの特等席だ。 店内の天井は低いが、赤や青の鮮やかな椅子、磨き込まれた真鍮の手摺り、天井を彩るクリスタルの照明器具など、インテリアはフレンチレストランらしい華やぎに満ちている。テーブルクロスは淡いベージュ。ブラックのアンダークロスが引き締め役になっている。卓上は赤と金の縁取りをした飾り皿に胡蝶蘭の一輪挿しなど、エレガントなセッティングだ。 このしつらえだと、正統派のカッチリしたサービスをするのかと思いきや、実にリラックスした振る舞いをする。そして客とのコミュニケーションにも積極的だ、ゆえに客もみなリラックスして食事を楽しんでいるように見える。日本のホテルレストランが一番輝いていた頃の雰囲気が、まさに今ここに再現されているようだった。 料理は3種類あるコースのうち11,500円のを選んだ。そして、一度食べてみたかったピアノデザート3,365円を追加した。料理のポーションは控えめで、味付けも軽やか。これなら年配でも安心。タイミングや状態もよく、ホテルレストランの模範となる内容だった。 食事を済ませてフロントに行き、チェックイン。だが、まだ部屋が仕上がらず、ロビーで待つことになった。例の展示物を見ていると、ベルボーイがそっと近づき、部屋の準備が整ったことを知らせてくれた。 今回予約したのは57平米のデラックスルーム。その中でも、和風テイストのタイプをリクエストしてあった。以前、一度だけそこに案内され、気に入らないと替えてもらった部屋だが、このような部屋はよそではお目にかかれないわけだし、もうこれが最後のチャンスならば、一番風変わりな部屋を使ってみたかったので、今回は敢えてそうした。この和風デラックスルームがあるのは3階で、同階には宴会出席者のための更衣室も設けられており、宿泊客以外も多く立ち入るフロアである。 室内に入って最初にガッカリしたのは、ベッドカバーが外された状態で清掃を終わらせていたことだ。この内装に、むき出しのシーツはまったくもって似合わない。客室係を呼んで、カバーを掛けてもらったが、その作業の雑なこと。仕上がりも乱雑だったので、結局自分でやり直した。ちょっとした仕事ぶりで、半世紀近い歴史に泥を塗ることになると意識するべきだが、おそらくパレスホテルを去るであろう係たちには、もうどうでもいいことなのかもしれない。 こうして部屋の状態は整ったが、やはり洋室タイプにすればよかったと、すぐさま後悔した。確かに見た目はユニークだが、高い料金を払って1日過ごすには、洋室の方が快適に違いない。 一番イヤだったのは天井にある蛍光灯の照明だ。それだけを消すことはできず、6つのダウンライトもすべて連動している。ダウンライトだけで十分なのだが、そうもいかないところが歯がゆい。一層のこと、椅子によじのぼって蛍光灯を一本残らず外してしまおうかとも思ったが、天井まで届くような都合のいい椅子がなかった。もしあれば、実際にやっていただろう。この蛍光灯さえなければ、天井は板張りで実に魅力的にできている。 他にも木を多用し、直線的な和のモチーフでまとめられた内装だ。額も家具もどちらかというと和風だが、照明スタンドだけはバリバリの洋風で、これだけがどうも調和してない。室内の家具はすべて置き家具。ソファはどっしりとしており、独立したデスクは窓を背にして室内向きに置かれている。 ベッドは140センチ幅が2台、窓を足にして並ぶ。マットレスは18センチ厚のシーリー製。寝具はデュベだが、シーツ2枚でサンドするスタイルをとっている。TVは26インチの液晶。CS放送はディスカバリー、FOX、シネフィルイマジカが視聴可能だ。室内の印象は、まるで和食堂。これもまた、和室とも洋室とも違う、いかにも中途半端な内装だった。 バスルームは洋室タイプと同等だ。約8平米のスペースに、ベイシン、ドレッサー、トイレ、バスタブ、シャワーブースを配しており、床は大理石、壁はタイル仕上げになっている。シャワーは強力で心地いいが、150センチ長のバスタブは浅くて小さく感じた。タオルは3サイズに加えウォッシュクロスが揃うが、いずれも薄っぺらに使い古され、肌触りは悪い。アメニティは種類こそ豊富でも、シャンプーやソープがビジネスホテル並みの品物にとどまっており、この辺にセンスの足りなさを感じる。 夕食は地階のコーヒーショップ「ハミング」を利用した。昼に引き続き、大混雑かと思いきや、閑古鳥だった。パレスファンは夜は苦手なのか。洋食メニューを得意とするこの店では、メンチカツを注文。デザートにはマロンのクレームブリュレとコーヒーを選んだ。コーヒーはひどく煮詰まり毒水のよう。しかし、女性スタッフの明るくチャーミングなサービスには心癒された。 腹立たしいのは入口に陣取る黒服。客が帰る時ですらレジカウンターの中でボケッと突っ立っているだけで、目が合っても知らぬ振り。挨拶もなしとは許しがたい。とっ捉まえて文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、もうお目にかかることもないだろうとスルーした。 それにしても、館内を埋め尽くす100基以上のシャンデリアや価値のある美術品の数々は何処へいってしまうのだろう。中には廃棄処分となるものも少なくないはず。だったら、チャリティーオークションでもやればいいのに。 チェックアウト時に前日ほどの賑わいはなかった。ひっそりとした車寄せから、誰にも見送られることなく出発。さようなら、パレスホテル。 |
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パレスホテル(公式サイト) | |
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