17時30分。到着時のドアマンの対応は、可もなく不可もなくという印象だが、車の扉を開けても黙ったまま突っ立っているだけで、どうも勘が鈍いよいうにも感じられた。フロントには、前々回の深夜、高熱に悩まされつつもネット接続キットと奮闘した際に、手伝いもせずに気の利かない対応を決め込んだ係が立っていた。「先日は失礼しました。またお越しいただきありがとうございます。」というような言葉を期待して、まっすぐに彼のところへ向かい、にこやかに「こんにちは」と声を掛けたが、「お名前を頂戴できますか」と尋ねられがっかりした。あれから2ヶ月が経ったとはいえ、あの夜の出来事は印象的だったはずだ。深夜に客からこっぴどく苦情を言われたのに、すっかり忘れているとしたら、ぜひそのコツを教えて欲しいものだ。忘れたくても忘れられずに悩んでいる人たちに伝えてあげたい。
しかし、そう思いつつも、彼が性悪でないことは感じ取っていた。むしろ不器用なタイプなのだと思う。世の中には様々なタイプの人がいて、ただそこにいるだけで人に好感を与える人もいれば、気持ちがないわけではないのにそれがうまく伝わらない人もいる。どちらかというと後者のタイプなのかもしれないが、ここで問いたいのは個人の資質ではなく、高級ホテルのサービス人として必要な技能の問題だ。
不器用なら不器用なりに、先天的な才能を持つ人よりも多く努力をして、ゲストの信頼を勝ち取るチャンスを逃さないための準備をしなくてはならないと思う。パレスホテルのスタッフは、そうした客のあしらいが巧いタイプと、基本はしっかり押さえているが応用が利かない堅物タイプにくっきりと二分される。何の問題もない限りは、どちらに接しても不足はないが、管理職がみな堅物なので、トラブルが生じると対処が悪い。ゲストの立場で問題解決に努める気はなく、言い訳に終始するというのがこのホテルの体質だ。
アサインされた客室は、狭いタイプのスーペリアルームだった。スーペリアルームは皇居を望む表側にあるが、広い43平米のタイプと狭い35平米のタイプが交互に並んでいる。つまり奥行きは同じだが、横幅に差があるというわけだ。狭いタイプは、かなり幅が狭い。長身の外国人でも使えるようにと長尺のベッドを用意したことが、かえってこの客室では災いしている。デスクとベッドとの間が極端に狭く、椅子を引いたまま通ろうとすると、硬いベッドの角に足をぶつけて何度も痛い思いをした。また、内扉がないので、廊下の音がかなり筒抜けなのも気になった。
家具は長い奥行きを利用して、レイアウトされている。窓際に3台目のベッドにもなるソファとテレビを収めたアーモアがあり、ベッド2台とデスク、バスルームの壁に面してクローゼットと引き出しが置かれている。照明は他の客室同様に明るいが、デスクのスタンドがまぶしすぎるので、調光ができるといいと思った。ターンダウンはフルサービスで丁寧。キャンディーと翌日の天気予報が置かれる。今回もLANは時折寸断されるし、テレビのリモコンは誤作動をするしで、メカ系とは相性が悪かった。室内はそれなりに広く取られているが、バスルームは狭い。随分と古そうなトイレ、ベイシン、バスタブが並び、分厚いシャワーカーテンが一層窮屈に感じさせる。タイル張りで清潔感はあるが、居心地のよい空間とはいえない。
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