船の周りにはゆりかもめが集まり、何かもらえないかと乗船客に愛想を振りまいている。ちょうど隣に座っていた少年が川に向かってじゃがリこを差し出すと、ゆりかもめも慣れたもので、くちばしで見事にキャッチ。ゆりかもめも間近で見ると案外大きいものだ。船内に流れる解説を聞きながら、次々に通る橋や、すれ違う小さな船を見ていると、あっという間に浅草に到着。

下船後は隅田公園を歩いてみた。ソメイヨシノは散ったが、普賢象桜やイチョウ桜がちょうど見頃を迎えており、それらの木の下には今でも花見の茣蓙が敷かれている。歩いて向かった先のお目当ては「梅むら」のあんみつ。ほどよい固さの寒天と、ふっくらとした豆のシンプルな組み合わせながら、こうも違うものかと思わせてくれる味だ。人気店なのでいつも行列している。並ぶのは大嫌いだが、ここは例外、仕方がない。行儀よく並んで550円のあんみつを食べ、満足したその足で浅草ビューホテルへ向かった。

予約時に禁煙室をリクエストするのを忘れていたので、チェックイン時に尋ねてみた。すると最初は20階の部屋がアサインされていたが、11階の禁煙室を見つけてくれた。だいぶ低層階になってしまったが、タバコ臭いよりはマシである。26平米のスタンダードツインは、どうやらプチ改装をしたようだ。ファブリックはまだ新しく、存在感のあるベッドボードも以前とは違うものだと思われる。

ベッドも妙に高くなっているので、寝心地革新のために高級なマットレスを入れたのかと感心しつつ「どれどれ」と寝具をめくってみたら、マットレスは薄っぺらく、エキストラベッドを収納したスタッキングベッドになっただけのことだった。ソファの後ろの壁に取り付けられた板は何かと思ったら、そのエキストラベッドのためのベッドボードだったわけで、もう3人用として売る気満々のようだ。

それにしても、壁紙を新調するに当たり、このようなグリーン系の花柄をチョイスするとは、なかなか個性的なセンスをしている。このホテルの内装のコンセプトは「インテリアはロマン薫るアールデコ調で統一しています」との言葉通り、浅草が一番輝いてた時代のテイストを大切にしていた。だが、客室もパブリックスペースも含め、新しく導入された家具類は、モダンでカジュアルな印象のものが多く、既存のものとのバランスが悪い。

室内でも、元からある家具は立派なので、大きなベッドボードが軽快な存在感を示すと、それが安っぽさにも通じてしまうようだ。デスクは大理石の天板を使っているが、やや小さめ。アーモアに収まったテレビは21型のブラウン管だが、地デジをわざわざアナログに変換して放送している。そしてコンパクトな客室であるにもかかわらず、独立したドレッサーとイスを設置しているのも今では珍しい。

室内の照明はすべてON/OFFのみで一切の調光は不可。LANはあるはずだが、見当たらなかった。氷はルームサービスで500円掛かる。バスルームは3.2平米で、部分的に柄のあるタイル張り。クローゼットの扉はミラー張りで、中のハンガーは4本だけだった。スリッパもビニール製の使いまわしである。

このように、ホテルのあり方としてはやや時代遅れの感もあるが、それがまた浅草にはマッチしているような気もする。ベッドボードが一見どんなに主張していたとしても、その存在感はたった1泊の間にも薄れ、次第に既存の家具がじわりじわりと貫禄を呈してきた。窓も大きく、たとえ11階でも十分に眺めがいい。「TOKYO」と「EDO」の絶妙なミクソロジーが堪能できるホテルである。