浅草ビューホテルを利用するのは随分と久しぶりだった。浅草にはお参りに出掛けたり、お気に入りの蜜豆店などがあってしばしば出向くのだが、宿泊する機会はまったくなかった。地下鉄田原町駅から国際通りをしばらく歩くと、浅草ビューホテルに到着する。その道のりにも下町の雰囲気が感じられ、天気さえよければ楽しい散策ができるだろう。かっぱ橋商店街にも近い。ホテル正面玄関前では、2005年秋開業予定のつくばエキスプレスの工事が進められている。完成すればホテルの目の前が駅になり、利便性が向上するだろう。しかし、それまで正面玄関側の客室は、昼夜を問わない工事の騒音に耐えなくてはならない。
チェックインはとてもスムーズだった。フロント係の感じもよい。禁煙室を予約していたが、あいにく禁煙室のないタイプだとのこと。係は「念入りに消臭をしてご到着をお待ちしておりました」と笑顔で言葉を添えた。客室への案内は、見習いのベルガールが担当した。ぎこちないながら、一生懸命なのがいい。室内の説明を丁寧にした後、客室の温度設定については、フロントまでどうぞと言い残して退室した。
シングルルームにはいくつかのタイプがあるが、今回利用したタイプが一番条件がいいように思った。もう少し広いタイプもあるようだが、残りの3タイプはすべて正面玄関向きで音が気になるだろう。そして、何よりも気に入ったのが、床まである広い出窓だ。通常は花火と大晦日にしか開閉できない小窓も、鍵の閉め忘れか、自在に開放できた。裏側は下町らしい住宅が広がり、夕方にもなれば、虫の声さえ聞こえる静かさだった。日差しと共に表情を変える景色は、いつまで眺めていても飽きなかった。
窓辺の居心地を一層よくしてくれるのは、赤いアームチェアだ。ゆったりと身を包んでくれ、カーテンを開け放った窓に向きを変えれば、まるで空中に浮かんでいるような気分になる。ソファのそばには、小さいながら独立したデスクがある。デスクというよりドレッサーと言った方が相応しいかもしれないが、無料のLANがあり、枕元の電話機にも十分手が届くレイアウトだ。卓上の小さな観葉植物が和ませてくれる。
ベッドは窓を背にして入口の方を向いているというユニークなレイアウト。160センチの幅があり、一人利用なら十分の広さだ。寝そべっている時に扉を開けると、廊下から丸見えというのが心配だが、最も奥の客室なので、覗かれることはないだろう。テレビは冷蔵庫の上に載っており、その脇には細いクローゼットがあるが引き出しが不足。壁紙がいささか鬱陶しいが、全体のデザインとしては好みはともかくとして、まとまっている。
バスルームはとてもコンパクトだ。2.16平米しかなく、バスタブの長さは120センチと、銀座東急ホテルを思い出す小ささ。だが、その分深さは十分にあり、湯を張れば肩まで浸かることができた。シャワーの水圧も申し分ない。アメニティは標準的な品揃えだが、ディスペンサー式の竹塩入りのシャンプー類はなかなか使い心地がよかった。タオルは3サイズを2枚ずつ揃えるが、バスローブはない。6階にはヒノキ風呂があり、宿泊客は1,050円で利用できるが、都会で温泉宿の気分が味わえていい。
チェックアウトは混雑していたが、係が総動員で手続きに当たり、迅速な対応だった。スタッフは親しみがあり、なんとなくくつろげる。都心のホテルがどんどんモダンテイストに変化する中、こうしたホテルらしいホテルは貴重だ。東京なのに、京都のホテルのような居心地だった。
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