2004.06.12.（土）

客室扉を開けると、一瞬、そのコーディネートのよさに好印象を覚える。照明効果が高く、ハロゲンのダウンライトや三角形に張り出した窓が変化をもたらし、ソファサイドにシンメトリーに置かれたスタンドや格子のカーペットが調和や落ち着きを与えている。しかし、コネクティングドア付きだったので、案内してきたベルにすぐさまルームチェンジを申し出た。

しばらく待って新しい客室に案内されたが、そちらは窓ガラスやミニバー上の鏡部分、バスルームの鏡などが著しく汚れていた。ミニバーのボトルには埃が積もり、ヘッドボードのフェイクレザーには、整髪料でぎらついた頭をそこに置いてくつろいだ形跡が残り、一部分だけがテカテカと光っていた。客室係の責任者を呼び、自らあるべき状態まで整えるよう頼んだところ、結局もう一度ルームチェンジすることになった。

待つ間、極力部屋の現状を変えないように、イスに静かに腰掛けて部屋のインテリアをしみじみと見てみた。気になった部分には直接手で触れて感触を確かめもした。一見すれば、ストリングスホテル東京のような高品質のインテリアにも見えるのだが、実際はたいした品物は使っていない。ファブリックもどうというほどのものではないし、家具も東京ドームホテルのクオリティと大差ない。さぞ写真写りがいいだろうと思いつつ撮影したら実際その通りだった。

熱心に清掃して整えてまいりましたと胸をはる新しい客室もまた、ヘッドボードのアブラ汚れは深刻だった。そもそもこのような素材をヘッドボードに採用するのが間違っている。しかし、客室係からは十分な誠意が感じ取れたので、それを受け入れてこの部屋で過ごすことにした。後にバスタブを使用した際も、内側に垢がびっしりと付着しており、清掃に対する意識は総じて低いと思わざる得ないのが残念だった。

この室内で一番魅力的に見えるのは、壁際に置かれたソファだ。低いテーブルとスツールが添えられ、くつろいだ雰囲気で手招きしているようだった。しかし、身を任せようと楽な姿勢で腰掛けると、背もたれが低すぎて頭が壁や鏡に当たってしまう。このソファに座るには、姿勢を前傾させるなど、行儀よくしなくてはならなず、客室内には不適当だ。ソファを壁から離して前の方にずらしたところ若干座りやすくなったが、企画倒れのソファに変わりはない。

ベッドは110センチ幅が2台ならび、デュベスタイルだが、寝具そのものは羽毛ではなくダクロン風の感触だった。窓際に設置されたデスクは、間口はそれなりでも、奥に向かって狭まっているバームクーヘンの切れ端状をしている。デスクトップはLANの機械や電話などが置かれて、仕事をするには狭すぎる。液晶テレビも、位置やホテルのクラスを考えると小さすぎる。ヒルトンやストリングスでは無料で観られるディスカバリーチャンネルも、このホテルでは有料プログラムのひとつとなっており、1785円支払わないと観られない。ミニバーも安くないしLANも有料と、太っ腹なところはまったくない。

バスルームはバスタブなど一部はかつてのまま残し、ベイシン付近を中心に改めた。以前のベイシントップの石は大変立派で気に入っていたが、安くて薄い石に変わってしまった。棚が新設されたが、木目調シール仕上げ。アメニティは貧弱でシャンプー類は壁掛けディスペンサーだ。バスローブやウォッシュクロスが用意されているのが救い。

この客室デザインは、明らかに見た目重視で、五感全体で感じる心地よさのバランスがまったく計算されていない。まあ、見た目だけでもいいだけマシという見方もあるが、1室3万円以上を支払う客室としては情けない完成度だ。コストパフォーマンスは同じ系列のストリングスと比べたらかなり低いし、ご近所オークラの足元にも及ばない。一部、人間的サービスにも恵まれず、本年にこれまで宿泊した中で最も損をしたと感じる滞在だった。

[東京全日空ホテル] 980103 020216 030817 041102