1998.01.03
時は流れて
東京全日空ホテル Standard Room
哀-3

東京全日空ホテルが開業したころ、ある雑誌に「女性に人気のホテルベスト3」という記事が載っていた。東京の第一位はここ全日空ホテルで、以下、センチュリーハイアット、ヒルトンと続いていた。いつの時代でも女性は新しいホテルがお好きだが、今のようにレディースプランなるものは皆無だった時代、女性がホテルに宿泊するのは男性に伴なわれてというケースがほとんどだった。仮に若い女性が単独でチェックインすると、自殺ではないかと疑うこともあったという。

帝国ホテルのレディスフライデーの大ヒット以来、最近はどこのホテルも女性大歓迎で、女性専用の格安プランがたくさんあり、本当にうらやましい限りだ。新しいホテルは、最新の設備と、外国人デザイナーを起用したハイセンスなインテリアで、多くの女性ファンに支持されているが、次に新しいホテルができたら、そちらにすぐ取られてしまうのを、あまり考えていないように見える。

東京全日空ホテルもまた、開業したころは、当時の最先端を行くホテルとして人気があり、いつも賑わっていた。そのころぼくもこのホテルをよく利用するひとりだった。いつもエグゼクティブフロアかスイート。ロングステイもする。それも割り引きはANAカードの10%だけ。レストランもよく利用する。いいお客だ。

しかし、このホテルを頻繁に利用していた半年ほどの間に、ぼくの名前と顔を覚えてくれた従業員はひとりもいない。人間的なサービスを受けたこともないから、こちらも覚えない。決して無愛想だったり、無礼だったりということはないのだが、特別親しみが湧くこともなかった。どんなに利用しても、一見客と変わらなかったというのが、このホテルから遠ざかった一番の原因かもしれない。

ホテルはなぜ顧客と長い付き合いをしようという努力をもっとしないのか? 上手に深いお付き合いをして、たとえ新しいホテルができ、多少そちらの施設が魅力的でも、今まで通り利用してくれるよう、がっちり顧客のハートをつかむようなサービスをした方が身のためだと思う。

ある日、東京全日空ホテルのインペリアルスイートに滞在している際、部屋を訪れていたゲストが帰るというので、ベルにタクシーを一台用意しておくよう頼んだ。すると、「今タクシーは待ち行列ができているのでこちらに来て並んでください」といわれた。このホテルのサービススタイルがどの程度かというよりも、少なくともこのホテルのぼくに対する答えはこれなんだと思うことにして、これを最後に今日までの9年間一度も宿泊することはなかった。

久しぶりに利用してみても、当時の印象は変わりない。今となっては一見さんのぼくに対してのサービスと、かつてのお得意様に対するサービスにほとんど差はないのだから。

28平米のスタンダードルームは、最近のホテルの水準からすると狭いが、窓のとなりの壁に大きな鏡が張ってある客室だったので、多少は広々感じたのかもしれない。バスルームはタイル張りで、蛍光燈の照明が明るい。全室ターンダウンを行い、寝具も羽毛布団で快適だった。しかし、この面積でこのサービスなら、1泊朝食付き1室2名利用で、1名10,000円から12,000円が妥当だと思う。

冬場のせいか、エレベータのボタンなどに静電気がものすごかった。触わるのにちょっと勇気が要る。

Y.K.