日本のリゾートが成熟しない理由 |
2007.05.14(月)
|
ザ・ブセナテラス Deluxe Natural Garden View | |
The Busena Terrace |
楽-2
|
|
|
「お帰りなさいませ」。ブセナテラスでの滞在は、再訪を歓迎するその一言でスタートした。到着したのは午前11時前。通常のチェックインタイムまでは、まだ3時間以上あった。あいにくの雨だったので、できるだけ早く部屋に入りたかったが、「12時頃までに部屋を用意するので、その頃フロントへお立ち寄り下さい」と言われ、荷物を預け、館内を散策して待つことにした。
ロビーはチェックアウトをした客で賑わっていたが、それ以外の場所にはほとんど誰もいない。雨のビーチリゾートに活気はないが、しっとりとした空気や、やわらかい色の海というのも、それはそれで味わい深いものがある。南国の葉に雨が滴るゆっくりとしたリズムが、梅雨の訪れを感じさせる。 1時間はあっという間に過ぎた。フロントへ行くとルームキーが渡され、荷物はすでに部屋に入れてあるとのことだった。今回は、ビーチリゾートに来て海の見えない部屋に滞在するのがどんなものなのかを味わってみたかったので、あえてガーデンビューを選んでみた。このホテルでオーシャンビューでない部屋を利用するのは初めて。ホテル棟は斜面に建っているので、ガーデンビューサイドの客室は6階から10階までのみに位置しており、デラックスナチュラルとメゾネットの2タイプしかない。 用意されたのはデラックスナチュラル36平米だが、6階のコーナールームなので、サイドにも小さな窓があり、バルコニーが若干広く取られている。それ以外は、デラックスナチュラルオーシャンビューとまったく同等だ。バルコニーの手摺りの外側に植え込みが設けられており、その向うには小高い丘があるので、海こそ見えないが、室内からは緑豊かな景色が楽しめる。ただ、バルコニーに出て周囲を見渡すと、駐車場や道路などが視界に入るので、室内やバルコニーのイスから遠目に眺める方がいい感じだ。 ベッドは123センチ幅で、ハリウッドツインスタイルに密着。3名利用を考慮してか、一方のベッドはスタッキング型で、マットレスが薄く、寝心地が悪い。天井高が3メートルあるので圧迫感はなく、ゆっくりと回るシーリングファンがリゾートの雰囲気を醸す。窓際にはソファセットがあり、テレビやミニバーはキャビネットに収納されている。LANも整い無料で使えるのはありがたいが、ジャックがナイトテーブルの裏側に隠れており、とてもわかりにくいだけでなく、差し込むのに苦労するというのは困ったものだ。 バスルームは約6平米の面積があり、バスタブ脇に窓を設けているのが特長。窓を開け放てば、居室と一体化したような気分が味わえる。だが、湿度が高いからか、天井やシャワーブースの隅などに、黒いカビの斑点が多数見られた。このホテルも10年目になるわけだが、20年以上経つナハテラスと比較しても、こちらの方が設備の状態はよくない。海辺という環境ならではの塩害もあるだろうが、それよりも建材の質がまったく異なることの方が、大きな理由ではないかと思われる。 ブセナテラスは、演出力の点では優れているが、建築としてはコストをギリギリまで節約しているという印象があり、高級感はない。それは客室に限らず、施設全体に言えることであり、開放的な雰囲気に気持ちを奪われている間はなかなか気付かないかもしれないが、建物にちょっと注意を払えば誰にでもわかるレベルだ。 昼食は日本料理「真南風」を利用した。ナハテラスにも同名の店があり素晴らしい料理を出すが、こことの共通点は店名だけである。ホテル棟にありながら唯一海の見えない店だが、それでもリゾートならではの広々とした店内は窓を大きく取っている。ランチメニューの中から「琉球御膳」2,310円をチョイス。沖縄の料理を手っ取り早く味わえる内容だ。サービスも行き届き、快適だった。ちょうど店の前では、氷を彫刻して像を作る石像アートの講習会が行なわれていた。その道のプロがホテルのスタッフを対象に教えているのだが、双方真面目な姿勢が印象的だった。 雨はほぼ上がったが、日中は館内に人が少ないらしく、屋内プールでさえ数人しか利用しておらず、屋外プールやビーチは無人だった。もったいないので思い切って屋外プールで泳いでみた。水は冷たかったが、それでも植物に囲まれた大きなプールを独り占めしながら泳ぐ気分は最高。部屋からは「こんな寒いのに泳いでいるバカがいる」という感じで見下ろされているが、そんなことは気にしない。ウォータースライダーも貸切だ。 夕方になり到着する客が多くなると、館内も次第に賑わいを見せるようになった。せっかくこのホテルに泊まるのに、日中の一番いい時間帯を留守にするのは実にもったいない。だが、人が多くなるにつれ、残念なことに雰囲気が崩れていくようだった。とりわけ男性のファッションがひどい。 何も着飾るまでは必要ないが、「沖縄=短パン&ビーチサンダル」みたいなコーディネートでは、高級リゾートはいつまで経っても成熟しないだろう。利用する側も、その場に相応しい着こなしと振る舞いに気を配って欲しいものだ。また、いいホテルには思わず見惚れてしまうような素敵な客がいるものだが、このリゾートではまったくお目にかかれない。だから、スタッフのサービスもなかなか洗練されないのだと思われる。日本の都市ホテルはだいぶ成熟してきたが、リゾートはまだまだこれからだ。 朝は5時に起きて、敷地内を散策した。まだ暗かったが、鳥たちのさえずりが賑やかになるにしたがって、次第に空が明るくなり、敷地の裏側の入り江に朝日が昇った。この入り江に面してオールスイートの新館を建てるらしいが、完成すれば、ビーチサイドとは違って、しっとりとした雰囲気のある景観が眺められそうだ。 朝食は「ファヌアン」に一番乗り。テラスの席を選び、フルサービスのアメリカンブレックファストを楽しんだ。メインディッシュは数種類からチョイスできるのだが、今回は生ハムとスモークサーモンのエッグベネディクトを注文。月桃ロールや紅芋のデニッシュなど沖縄らしいパンに、パッションフルーツや紅芋のジャムが添えられる。サービスはチョイ悪オヤジ風の明るくフランクな外国人が担当だった。 朝食後は、朝の空気をたっぷり吸い込もうとプールサイドに行った。デッキチェアに座ろうかと思ったが、雨で濡れたまま。この辺が二流以下を感じさせる。一流ならば、どんなに朝早くても、イスはすべて拭き上げ、ビーチタオルもいつでも使えるように用意されているはず。しかも、8時半を過ぎた頃から、どこからともなく電気ドリルの音が響いてきた。ここはいつ来ても騒音ばかりだ。 次第に雲が途切れ、日差しが戻ってきた。するとプールやビーチにも徐々に人が出始めた。ビーチは安全のため囲いが設置されているが、干潮だったのか、その一番沖側まで行ってもまだ膝下までの深さしかなく、とても遊泳という感じではなかった。ロビーではウェディングの最中。シンボリックな正面の大テラスも占拠されていた。パブリックスペースは、常にパブリックスペースとして開放しておくべきだと思うが。 出発は滞りなかったが、特段心のこもった対応を受けることもなかった。到着時の「おかえりなさいませ」という一言も、マニュアルに則って口にされた言葉であったらしい。今ひとつ真実味がなく、そこに「まごころ」を感じることはなかった。 |
|
|
|
ザ・ブセナテラス | 990308 000925 020130 050118 |
公開中リスト
| 1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 |
| ホテル別リスト | レストラン別リスト | 「楽5」「喜5」ベストコレクション |