1999.03.08
大人のスーパーリゾート
ザ・ブセナテラス Club Deluxe Elegant
楽-5到着時の第一印象は正直言ってあまりよくなかった。車で正面玄関に着いたがだれも寄って来てくれない。仕方なく自分たちでドアを開け降り立つと、初めて従業員が近づいてきた。正面玄関付近には10名近い従業員がゲストの到着を待ち構えているが、たくさんいるからかえって「おまえがいけよ」と譲り合いをしているのかもしれない。
「これからチェックインですか?」と声を掛けてくれたが、そのイントネーションには(ちがいますよね)という含みが感じられた。たしかに我々はリゾートに来たというのに、みんなスーツを着ているし、車も大型のセダンだから違和感があったのかもしれない。
「車はどこに停めればいいんですか?」と尋ねると、「あちらの駐車場をご利用ください」といわれたのでその通りにしたが、後で聞いたところでは、このホテルではバレーパーキングを実施しているらしい。少なくとも帰る時には「お車をお回ししましょうか?」と言ってくれた。
このホテルのチェックインはテラスで行う。憎いくらい演出効果抜群だ。正面玄関もチェックインテラスもオープンエア。海を渡る風を感じ、ウェルカムドリンクを片手にソファで手続きをする。ぼくらはそのテラスに案内されてからしばらく待たされた。チェックインが混み合っているんだろう。こんな雰囲気なら少々待たされても苦にならない。10分程してやっと名前を尋ねられた。彼はリストと照らし合わせて、ぼくらは別の場所でチェックインをすることに気付いた。到着時にすぐ名前を確認してくれれば、もう少しスムースにことが運んだだろう。
ぼくらは長い通路を進み、突き当たりにあるクラブラウンジに案内され、そこで手続きをした。シーズンのせいか、ほとんどがツアー客で、直接の予約で泊まるのは珍しいのか、クラブフロアの稼働率は低そうだった。稼働率から察するには十分すぎるほどのGROスタッフがおり、滞在中は彼女たちが世話をしてくれる。クラブラウンジで出されるコーヒーは結構おいしい。カクテルタイムはドリンクだけで、他のホテルでよくあるようなオードブルのサービスはなかった。簡単なカクテルを注文しても、混んでいるでもないのに10分以上掛かっていたところを見ると、あまり慣れていないらしい。
さて、客室はナチュラルとエレガントと名づけられているタイプに大別されるが、エレガントは43uが基本で、同じ広さでも幾つかのバリエーションがあり、客室内の配置が少し違うが設備自体には大差ないようだ。クラブフロアにはエレガントのみで、その中でも窓がカーテンのタイプやブラインド風の引き戸タイプの部屋など、微妙に違いがあるらしい。
今回の部屋は403号室。ラックレートだとオフシーズンで50,000円だそうだ。東京の高級ホテル顔負けの価格だ。第一印象は「高いなぁ」だった。客室内だけで判断すれば、やはり50,000円は高いかもしれない。しかし、この環境と気分を考えると、次第にその価値が十分にあるような気になってくる。帰る頃には安いような気にさえなっていた。
最高で10階まである建物だが、階段状にウイングが広がっている。普通特別階は最上階の方にあることが多いが、ここでは4,5階の一部と10階のスイート、6階のロイヤルスイートという具合に配置されている。建物全体の中でも最も海を近く感じさせるベストポジションにあるようだ。確かに4階の客室のバルコニーからは手の届きそうなところに波打ち際があり、プールやビーチとは違う側にあるので、波の音以外ほとんど何も聞こえない静かなウイングだ。
部屋に入って見ただけの感じでは、あまり高級感はない。客室の床はフローリング、バスルームはシャワーブースと大き目のバスタブに、十分な水圧のシャワーがあるが、タイル張りでシャワーブースはアルミサッシのような安手のつくりだし、トイレは洗浄機能も備えず個室にもなっていない。ベッドは大きく、レースの飾りや厚手のデュベを使っていい感じ。天井高が3,5メートルあって、室内をより広く感じさせる。
引き出しはただでさえ数が少ないのに、ありとあらゆる引き出しに浴衣だの寝間着だのと、すでになにかが入っている。自分の荷物をほどく前に、まず引き出しの整理をしなくてはならないのはあまりよくない。クロゼットも狭く、ロングステイ客のことはあまり考えていないようだ。また、必要ないかもしれないが、ライティングデスクが無いので、直接床にでも座ってコーヒーテーブルに向かって書き物をするしかない。はがき一枚書くにも一苦労だ。
アメニティは沖縄のリゾートでは充実しており、基礎化粧品のほか、オイルやパウダー、入浴剤が用意され、かわいらしいポーチやシューズバッグ、ビーチバッグなども用意されている。ただし、シャンプー類は壁掛けのディスペンサーだ。トイレットペーパーの質もはっきり言ってよくない。痔の人はこのホテルは避けた方がいいかも。
就寝前にはターンダウンサービスがあり、新聞も届けてくれる。それから、特に気になってしまったのは、シーツやタオルが臭いこと。飲食関係のものと一緒にクリーニングしているのか、レストランのバックヤードのような独特の臭いがする。これは快適な睡眠を大きく妨げた。
翌日、客室でくつろいでいると、外から道路を工事する騒音が聞こえてきた。割と近い位置で道を掘っているので、とても気になった。見れば敷地内での工事だ。この部屋代金にはこの波の音だけの静けさも含まれているんだろうし、何もわざわざ沖縄まで工事の音で神経逆なでされに来たわけではない。GROに電話を掛けて「この工事はいつ終わる予定ですか?」と尋ねてみた。
まず、工事をしていることを従業員が認識しているかを知りたかった。様子からすると知らなかったらしい。調べてから折り返し電話をくれたところ、あと数時間はかかるとのことで、ルームチェンジをオファーしてくれた。せっかくだから静かな部屋に移ることにし、荷物をまとめて引っ越し。これは結構面倒だ。レストランで言えば、すでに料理が運ばれて食事をはじめているのに席を移るようなものなのだから。それなのに、多くのホテルは部屋を替えればそれで問題解決だと思っている節があるようだ。
それに、今回のような場合はあらかじめ工事のスケジュールを従業員に伝達し、ゲストに迷惑を掛けないよう、先手を打てるようにするべきだ。ホテルの窓拭きだって案内があるのが当然なのだから、同じように印刷物を部屋に入れることも出来る。突然決まった工事だとしても、たいした稼働率ではないのだから一部屋ずつ電話をいれ、先に一言入れておけば随分と印象がいいだろう。環境がホテルの価値を大きく左右する立地なのだから、こういったことに対する配慮には万全を期した方がいいと思う。
移った先の418号室は、カーテンの無い男性的なイメージの部屋で、隣がクラブスイート、2層上がロイヤルスイートと言うことで、ロケーションとしてはベストなんだろう。実際、ベッド付近からは海以外なにも見えない絶景だ。しかし、昼間わからなかったことだが夕食から戻ってびっくりした。
窓を開けるとニンニクの臭いと鉄板焼レストランのざわめき(真下が鉄板焼)とカフェテラスの賑わい(2層下がカフェテラス)で、まるで街中にいるようだ。どの店もオープンエアで扉を開け放しているから臭いも音も強烈に漏れている。ベストポジションだけあって、レストランも同じ場所に持ってきたのだろうが、これは設計ミスだ。ぼくはともかく、50万も出してスイートに泊まる人はたまらないだろう。まぁ、仕方ない。諦めて窓を密閉して、眠るには早いので館内の探検に出かけた。
さて、いよいよ眠る時間になりベッドに入ると、今度は床を伝ってギーギーガタガタと騒音がする。我慢して眠ることにしたが、1時間経っても騒音が止まずイライラした。くつろぎを大切にするリゾートホテルなら、音に対する配慮はもう少ししっかりして欲しいものだ。
このホテルにはバトラーサービスがあることになっているが、バトラーの何たるかをわかっていないらしい。電話のボタンを一つに集約したという、はやりのサービススタイルをもってバトラーと呼んでいるに過ぎない。タオルの追加を頼んだらお掃除のオバサンが持ってきた。このオバサンがバトラーなのかな?
バトラーというからには滞在中にゲストの情報は絶えず交換し合って、しっかり把握しておかなくてはならない。ジャケットにプレスが必要な時は直ぐにやってくれたり、レストランの予約を頼めば、好みなども合わせて伝えてくれるなど、一歩先を読んだサービスをしてもらいたい。また、このホテルの従業員は、用事を言付かっても自分の名前を名乗らない。ぼくの経験ではバトラーとはいつも名前で呼び合ってきた。相手の名前も分からないでは信頼しきれないし、第一情がわかない。
今回の2泊中に、バニアンビレッジと呼ばれる別棟の施設を除いて、すべてのレストラン・バーを利用した。メインダイニングのファヌアンは「本格フレンチと地中海料理」というふれこみだが、実際はさほど洗練された料理は出てこない。この時は香りのフェアというのをやっていて、ハーブやスパイスが効いた料理が出るのかと期待していたが、全く期待外れだった。5,000円から12,000円のコースのみで、アラカルトはない。12,000円のコースを注文し、コルトンシャルルマーニュをあけたが、ワインの圧勝だった。
特にデザートはティーラウンジで出されるようなケーキひとつにちょっとした飾りがついただけでさみし過ぎる。口直しのミントのグラニテはフレッシュのミントでなくリキュールを使ったもの。せめて、ローズマリーやバジルなどの入手しやすいフレッシュハーブを用いたらいいのに。近くには観光用のハーブ園があるし。しかし、海の風を感じられるテラスで開放感一杯に食事が出来る贅沢はブセナならでは。カフェディアブルやシガーなど、沖縄ヒルトン健在の時代を思わせる大人の雰囲気。メートルは東京のフォーシーズンズにいた人だった。最近沖縄で出会った方と結婚したそうだ。東京を捨てて沖縄での生活っていうのもいいかもしれない。亜門さんもそうしたし。
リビングルーム「マロード」というティーラウンジがあり、英国式アフタヌーンティーや種類の豊富な紅茶やコーヒーが楽しめる。昼下がりにアフタヌーンティーでもと思って入ってみたが、すでに売り切れだと言われた。だったら、入り口のディスプレイは下げておいてほしい。とりあえず紅茶を注文すると、銀のポットで運ばれてきた。真っ黒に変色してしまい、見るのもかわいそうなポット。せっかくシーズンオフで余裕があるんだから、手入れをすればいいのに。銀器は手入れをする必要があるという認識が無いのかもしれない。
店内中央に小型のグランドピアノがあり、ご丁寧にありきたりの黒いカバーが掛けてあって昼間は見えない。夕方になるとピアニストのおねえさんがやってきて、カバーをはずし静々と演奏をはじめる。見れば立派なピアノだ。演奏はともかく、音色が気持ちいいピアノだ。昼間もカバーなんかしなければ素晴らしいアクセントになるのになぜ?
418号室の真下にある鉄板焼レストラン「龍潭」は店内の面積が狭く、カウンターオンリー、デザートコーナーなしのサッパリとした作り。5,000円でお肉食べ放題というのもあったが、9,000円の和牛コースにした。因みに同じような内容のコースがパレスオンザヒルでは5,000円だった。リゾート価格なんだろう。まずつき出しに、オキナワンフードのミミガー(ブタの耳)とゴーヤが出てきた。野菜焼きにもゴーヤや紅芋といった県産品が取り入れられていて、旅行者にとっては楽しい。カウンター内で腕を振るうシェフ?は若いおにいさんでノリがよく、楽しく話しがはずんだ。リゾートにきた時は堅苦しいサービスより、こういったノリの方が心地よい。
カフェテラス「ラティーダ」は朝食で利用しただけだが、ブッフェオンリーでツアーのゲストがごった返すなか、落ち着かない食事になった。食べるものもたちまち無くなってしまうので、補充する方も大変そうだ。サービスはこのホテル内で一番不足があり、無愛想だった。その気持ちも分からないでもない。でも、不潔なユニフォームは着用しないで欲しい。和食も同様、朝食時は流れ作業になっている。朝食はルームサービスをオススメする。クラブフロアのゲストの朝食はメインダイニングで提供すればいいのに。
このように悪い印象の出来事が多かったにもかかわらず、なぜ楽-5か。それは、このリゾートが沖縄の、そして日本のホテルシーンを変えてくれる予感がしたからだ。工事が終わり、サービスが洗練されれば間違いなく大人のスーパーリゾートになるだろう。少なくとも設備は素晴らしく魅力的だった。
館内の随所に大型の鳥篭に入った珍しいオウムがいる。大抵1羽ずつ入っていて、時たまその美しい姿からは想像しがたい下品な鳴き声をあげる。不幸なのか、シアワセなのか、とりあえず、ゲストに愛想を振りまいて、ブセナに暮らし、エサをもらっている。ぼくもここの客室を一つと食事を与えてくれたら、ラウンジでピアノを弾いたり、時におまをおだてたりして暮らしてみたいと思う。オウムがちょっぴりうらやましかった。
Y.K.