改装すれば、値段を高くしても客はやってくる。簡単にそう考えているホテルが多いように思えてならない。ここホテルメトロポリタンもそのひとつだ。開業20周年を迎えるにあたり、順次館内の改装に着手しているが、客室リニューアルの第一弾として、20階のモデレートと21階のプレミアムのふたつのカテゴリーをオープンさせた。
今回の改装では、経験豊富な外国人デザイナーを起用し、モダンで高品質な客室を造り、今後の改装のモデルとしたいらしい。ということは、ある意味、実験的にオープンしたプロトタイプでもあるわけだ。それなら、適当な価格で売って、利用客の意見や感想をモニタリングすればいい。なのに、ほぼラックレートという強気の売り方をするとは、どういう意図なのだろう。実際に高い料金で利用してみたが、その心は理解できなかった。
21階のエレベータホールや廊下もリニューアルされているが、さほど目を引く仕上がりではない。むしろ既存フロアの方が華やかでいいような気がするほどだ。客室扉とその周囲は木目調に仕上げ、入口だけはちょっと立派に見える。今回利用したツインルームは23平米と狭い。入口付近にあるクローゼットは、まるでシングルルームのもの程度しかなく、扉を設けずカーテンを使ったのはデザイン上の工夫のつもりなのだろうが、安っぽいだけだ。
続く居室は、彩度を抑えた渋めの色使いが特徴だ。以前の客室と比べれば非常に垢抜けた印象だが、今となってはどこにでもあるようなインテリアとも言える。デュベカバーを使って仕上げた110センチ幅のベッドには、ブルーのスローケットとクッションを添え、アクセントにしている。窓際にはふたつの椅子と木目のテーブルを置き、レースはブラインド。
デスクと収納キャビネットは一体化しており、角度を変えられる液晶テレビは壁に据え付けられている。デスク部分は、ポップアップするとミラーと小物入れになる。デザイナーの意図だろうか、こまごまとしたものは全て見えないように片付けられている。湯を沸かすための電磁サーバやディレクトリなど、いちいち探すのも面倒に感じる。そのくせ、用意された収納スペースには、すでに何かが入っており、自分の品を片付けるスペースがほとんどない。
さらに気になったのは、電磁サーバを収納している位置だった。それはテレビの下の棚にあり、テレビの下にはちょうどコンセントもあるので、多くの人はそこで使うはずだ。すると、電磁サーバから上がった湯気が液晶テレビを直撃し、テレビの寿命を著しく縮めることになるだろう。他にもコンセントはあちこちに数多く設けられてて便利だったが、客がどのように使うかはあまり考えられていないようだ。
サービスディレクトリはナイトテーブルの引き出しに片付けられており、なかなか見つからなかった。また、その引き出しは両方からベッドや寝具に圧迫されており、非常に使用しにくかった。冷蔵庫は引き抜き式で、スペースにまったく余裕がない。
照明も不便だった。まず、デスクライトとルームライトが連動してしまっているので、照明を抑えた中で、デスクだけ照らすことが不可能だ。照明器具の数も、これ以上、ひとつとして減らすことのできない最低限のもの。ベッドリネンも品質も低く、肌触りは悪かった。用意された便箋は2枚だけで、しかもしわくちゃ。この客室のコンセプトは「ミニマム」なのだろうか。上質や高級を感じさせる要素はまったくない。
バスルームは個性ある改装がなされた。扉は木目プリントと半透明アクリル板製で、内側にも外側にもマッチしており、外側に開くのがいい。バスルーム内はライムストーン風のセラミック仕上げ。バスタブはプラスチック製だが、より深くなった。ボール型ベイシンに間接照明など、狭い空間によく工夫を凝らしてる。カランからの湯には勢いがあって、バスジェルがよく泡立つが、浴槽を一杯にするにはかなり時間が掛かる。
アメニティも一新されたが、特に魅力は感じない。タオルは3サイズ2枚ずつだが、薄っぺらで肌触りは悪い。バスローブすらなかった。浴室金具も清掃が不十分で、せっかくの空間を曇らせていた。また、遮音性の高い扉を採用したとのことだが、扉だけ替えても壁が薄ければ、たいした遮音効果は期待できない。隣室でブラインドを下ろしたり、シャワーを使ったりすれば、こちらの部屋まで轟々と響くし、廊下の音もよく聞こえていた。
この客室と、ほぼ時同じくして誕生した京王プラザのプラザプレミアを比較すると、クオリティもコストパフォーマンスもプラザプレミアの圧勝だ。
さらに、サービスにも落胆させられた。ビジネスセンターのコピー機の読み取り部が非常に汚れていたので、近くにいるベルガールに拭くよう頼んだら、しばらくして雑巾を持ってやってきた。彼女は二本の指で雑巾をつまむような状態に持ち、コピー機の上を軽く払った。そして、これで満足かと言うように、挑むような視線をこちらに向けた。
コピー機の汚れは、雑巾を軽く滑らせただけで落ちる程度ではなかった。なのに、「何で私がこんなことしなきゃいけないの?」という態度のまま、しっかり拭こうとはしなかった。その態度に腹が立ったので、彼女にマネージャーを呼ばせた。しばらくして現れたマネージャーは、明らかに臨戦態勢でビジネスセンターに入ってきた。そして、客の意見に耳を傾ける前に、自分の答えを決めていた。その時点でサービス人としては失格だ。
こちらが状況と、なぜ呼んだのかを説明する途中にも、「ですから〜」と何度も話を遮る。こちらの質問にはろくに答えないくせに、「部屋番号は?」とか「お名前は?」としつこく質問をしてくる。その態度は、明らかに客を見下していた。しばらく険悪なムードが続いたが、粘り強く話し合ううちに、彼の表情は次第にやわらぎ、ホテルマンらしい態度になった。
客の話にすら耳を傾けられないのだから、部下の話などそれ以下の扱いだろう。よく教育すれば必ずや力を発揮する若い人たちに、あのような接客をさせているのは、上司の教育が悪いからだということを伝えたかった。部下の話もよく聞いて、力になってやるのが上司の役目だ。理解されたかどうかはわからないが、黙って去るよりはマシだったと思う。
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