到着時は急に強く降った雨で、荷物もカラダも濡れてしまっていた。エントランスで自分のカバンからタオルを取り出し、まずは荷物をすべて拭き、その後で自分の衣服の水滴をぬぐった。そういえば、以前同じような行動を取ったときに、「神田さんって、やっぱ職人ですよね」と言われたことがある。その訳を尋ねると「フツウは自分の体とか服から拭くじゃないですか。道具を大事にする職人は、持ち物から拭くクセがあるんですよ」と説明され、なるほどと思った。
まだ乾いてはいなかったが、これならホテルに入っても迷惑にならないと思って、チェックインのためにフロントへ向かった。フロントは前回に引き続き、丁寧で感じのよい対応だった。水色のユニフォームを着たベルたちは慌しく働いていたが、手の空いた2名がフロントの後ろで待機していた。
レジストレーションカードを記入するために、荷物をどこかに置きたかった。すぐ脇には、それ用の小さなテーブルがいくつか間隔を置いて並んでいるのだが、前の客がずぶぬれ荷物を置いたのだろう、びしょびしょになっていた。他の同じテーブルも一様に濡れている。仕方なく荷物を片手にまとめて提げて、空いた手でレジカードに記入を始めた。程なくベルの一人が近づいて「よろしければお荷物をこちらに」と濡れたテーブルを勧めたので「せっかくだけど、これじゃ置けないね。たまにはチェックして拭かないとね。」と答えた。小姑みたいだが、仕方がない。これでひとつ仕事を覚えてくれたのならいいのだが。
この日はどうしても高速インターネットが必要だった。高速インターネットと禁煙を同時に満たす客室はないので、インターネットを優先させた。すると、タバコの臭いを気遣って、フロント係自ら部屋に同行して、臭いが大丈夫かをチェックしてくれた。
翌朝は気持ちよく晴れた。庭園の231本14種に及ぶ桜も見事に咲いている。品種によってはまだつぼみのものもあるが、庭園は春の美の競演だった。すがすがしい朝の空気とともに散策する庭園は実に爽快。桜の時期、都心では最高のロケーションだ。
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