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ホテル西洋銀座 Ginza Suite | |
Hotel Seiyo Ginza | 2011.08.27(土) |
東京都中央区 | 哀-5 |
ARCHIVES ・ 1992 |
レジェンド これほどに落ちたホテルが他にあるだろうか。至高の居心地とサービスを誇る真のラグジュアリーホテルが、今や見る影もなく、ホテルを愛する者にとってこんなに悲しいことはないという想いだ。ここに行くなら一番いい服を着ていかなくては。そう身構えた日のことがウソのようである。 この日も、車寄せから嫌な感じがした。西洋銀座の正面玄関を固めるチームは、日本では有数のベテラン揃いだった。今でも腕利きが残っているのかと思っていたが、少なくともこの日の玄関にいたのは、全員素人。荷物の扱いは不慣れで乱雑。名前を何度も尋ねられ、それでもレセプションに名前を間違って伝えられてしまった。 正面玄関を入ると、80室というホテルの規模にしてはスケールの大きな階段がある。この階段とエスカレータは、唯一の宴会場がある3階まで通じている。階段を上がった先には、フラワーアレンジメントの載ったテーブルとシャンデリアがあり、クラシカルでゴージャスな雰囲気を感じさせる。 この時は、正面玄関脇にあるエレベータを使ってレセプションへ向かった。かつては、レセプションルームに直行する専用エレベータがあったが、当時のレセプションルームはティーラウンジの一部となり、専用エレベータは封鎖された。 正面玄関の係が名前を間違って伝えたため、レセプションでは「予約が見つからない」と言われた。「もう一度お名前を」と尋ねられた時には、うんざりした気分に。何しろ、かつての西洋銀座なら、名前など告げるまでもなく「お帰りなさいませ」と迎えられたのだから。今の係は「えーっと、えーっと」と、素人丸出し。 テンポ感も悪く、てこずってばかりのチェックインだったが、予約も見つかり、程なく部屋が用意された。もうこの時点でラグジュアリーホテルとは呼べないレベルにすっかり落胆してしまった。 部屋に案内されると、デスクの上に一枚のプリントが置いてあった。それを読むと、階下の劇場で大音量演出を伴う催しが行われており、その音が響くかもしれないという内容だった。とんでもない話である。西洋銀座の最後の砦は、都内でも比類ない静寂だ。壁は分厚く、隣室の音がほとんど伝わらないよう建てられているというのに、騒々しいかもしれませんがよろしくとは何事か。 これはどういうことかと係に尋ねると、「今日はリハーサルだけなのでたぶん大丈夫」みたいな返事。うるさいのだけは勘弁してほしいので、より詳しい情報を入手して教えてくれるよう頼んで退出してもらった。 約15分の後、ヘッドバトラーが部屋にやって来た。最初は彼の話を黙って聞いていたのだが、口から出るのは言い訳だけ。うるさいのは勘弁してという要望に対するアクションは何もない。それを指摘すると、もしうるさければ別の部屋を用意するとのこと。ならば、今すぐそうしてもらいたい。何しろ、その瞬間にも和太鼓の激しいビートが部屋に響いているのだから。 対応にもガッカリしたが、ホテルルームに影響があることを承知で、このような催しを認めていることからして、もうこの建物全体が終わっている。 ルームチェンジにより部屋は7階から10階へと移った。3フロア上がったことで、響きは幾分緩和されたが、完全に遮られることはない。泊まった部屋は115平米のGINZAスイート。各フロアの最も銀座通りに近い側に位置している。 部屋は動線の長いレイアウトになっており、入口ドアから順に、ホワイエ、リビングダイニング、ベッドルーム、ブードア、バスルームと、一本の動線で結ばれている。ホワイエを抜けると、まず目に入るのは丸いテーブルを中心とした4人用のダイニングセット。こぶりながらも、ティータイムに朝食にと重宝するスペースだ。 その奥には広々としたリビングスペース。じゅうぶんな空間に、ライティングデスク、2人用ソファ、オットマン付き1人用ソファ、ミニバー兼書棚、テレビキャビネット、サイドテーブルというレイアウト。落ち着いているが、飾り気はあまりなく、クラシカルで堅実なレジデンススタイルだ。 2人掛けソファの前にはガラステーブルがあり、46インチテレビの載るキャビネットの方を向いている。ソファの背面には、本来スリット状の窓が設けられているのだが、板をはめて隠している。その理由は不明。 テレビキャビネットの下にはオーディオセットを備えている。脇にサイドテーブル、その前にオットマン付きソファ。書棚の前には、電話の載ったサイドテーブル。見れば見るほど、不思議なレイアウトである。これほど使い勝手に違和感のある部屋も珍しい。家具は置けばいいというものではないのだが。 リビングルームだけで5つのスタンドと9つのダウンライトを設置しているにもかかわらず、まだ暗い。それは壁紙の色が陰気なのが大きな理由だと思われる。 ダイニングテーブルの脇には、エキストラのトイレがある。床やベイシンは天然石製で、ベイシンには小さなタオルが6枚セットされている。 ベッドルームには窓は1面しかない。そのため、昼でも薄暗い。リビング同様、スリット窓は板で塞がれている。天井の低さも圧迫感を生んでいるが、内装の色調が濃すぎるのも要因。開業当時は白を基調としており、明るくて清潔感があったし、今よりずっとセンスがよかった。 ベッドは160センチ幅が2台。シーリー社のマットレスは柔らかめだが、寝心地は抜群。だが、デュベカバーは前の客が使ったまま替えていないのでシワクチャ。ラグジュアリーホテルでデュベカバー使い回しとは驚きだ。 枕は柄や色のついたカバーが掛けられており、通常はターンダウン時に外される。ところが、この日は最初からむき出しでセットされていた。 なぜか聞くと、節電のためターンダウンを中止しているという。ターンダウンが電力とどう関係するのか理解に苦しむ。それは、スタッフを減らしてコストダウンをしているからではないとかと突っ込んでも、決してそんなことはないと言い張る。ターンダウンをしないなんて、ラグジュアリーホテルのプライドは捨てたのかと聞けば、そんなことはないと反論。聞けば聞くほど矛盾だらけだ。 ベッドルームのテレビは40インチ。かつてはアーモアだった家具に載っている。窓は1面しかなく、その前にはリビングと同じオットマン付きソファとテーブルが置いてある。カーテンは電動。 このスイートには、全部合わせて4つの窓があり、大きさはすべて同じ。このホテルは眺めが悪いのが難点だが、銀座通りに近い分、比較的開放感のある眺めを持っている。当然のことながら、高層階ほど眺めは開ける。 ベッドルームとバスルームの間には、外光の入るブードアがある。クローゼットと化粧間の役割を持ち、着替えや身支度もここで行える便利なスペースだ。窓の大きさは、リビングやベッドルームにあるのと同じ。コンパクトな空間に大きな窓があるので、このブードアだけは気持ちいいくらいに明るい。 ブードアの扉は、閉じれはクローゼットがオープンになる一枚二役。クローゼットには、快適なルームウェアやバスローブが入っている。引き出しの類は、ドレッシングカウンターの隣りの扉内にある。 バスルームは大理石造りだが、西洋銀座のバスルームとしてはさほど広くない。金色の浴室金具が華やかで、左右に広いベイシントップの載せられたスタンドライトも効果的。このライトは、改装前には居室で使われていたもの。 バスタブは窪みにすっぽりと収まっている。給湯は極めて強力で、あっという間に満水になる。バスタブ脇の物置台が大きいのも便利。 シャワーブースはベイシンの脇にあり、バスタブとは離れている。トイレはシャワーブースの隣り。バスルーム扉を開け放てば、ブードアの窓からの光がバスルーム内にも届く。 シャワーブースは、固定シャワーとハンドシャワーの他、スチームサウナ機能を備えている。サウナスツールが置いてあるのもいい。シャワーブース内の物置台も大きい。 バスアメニティはパンピューリ。エキゾチックな甘い香りが楽しめる、天然素材の高品質化粧品だ。ブードアとバスルーム内の照明は、明るさを調節することができる。 部屋は広く、それなりに快適だった。だが、東京にはこれ以上に快適な部屋が溢れている。自慢のバトラーサービスは素人向けの親切という域を出ず、ワールドトラベラーを満足させる演出力はない。もう西洋銀座は過去のホテル。そのレジェンドを穢さないためにも、早く閉じた方がいい。 |
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