ザ・ペニンシュラ東京 Deluxe Room |
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The Peninsula Tokyo |
2009.06.20(土)
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東京都千代田区 |
哀-5
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靴も磨けないラグジュアリーホテル | 6月の週末、ペニンシュラ東京の館内はどこも人が多かった。2009年を記念して2009円で部屋を販売するなど、最近のなりふりかまわぬ激安ぶりに引き寄せられて、ドッと人が押し寄せたような印象だ。
開業時に話題を呼んだ際にも賑わいをみせていたが、その時はまだ上品な雰囲気が保たれていた。それが今はラグジュアリーホテルらしからぬ様相である。賑やかというよりは騒がしく、活気があるというより乱れているという感じだ。ロビーや廊下では子供たちが走り回り、大声ではしゃいでいるが、それを咎める者はいない。 フロントでのチェックインは、それなりに好印象だった。落ち着いた振舞いや丁寧な受け答えに終始し、忙しくても客をさばくような素振りは決して見せないのはいい。だが、客を心から歓迎しているニュアンスは、こちらが必死でアンテナを張っていようとも、感知不可能だった。 要するに、ポーカーフェイスなのである。身につけているユニフォームも配給品なら、笑顔やまごころさえ配給品でしかないのだろうか。 用意された部屋は10階のデラックスルーム。おそらく最も眺めの悪い向きとされる側だったが、これといって見る価値のあるものが見えるわけではないし、想像していたよりは視界は開けていた。ビルに囲まれているというより、隣接するビルの汚らしい屋上設備が目に入るという具合だが、レースカーテンを閉めている限りは、明るい日差しが入っていい。 客室は54平米。ペニンシュラ東京では標準客室とされるタイプである。入口から居室までは長い廊下がまっすぐにのびており、その途中、片側にドレッシングルーム、もう片側にバスルームを配置している。突き当りには引き戸式の内扉があり、その先が横広の居室になっている。 居室には大小2面の窓があり、細い窓の方にベッドスペース、広い窓の方にリビングスペースを設けている。ベッドはツインの場合120センチ幅で、睡眠環境としては極めて快適だ。テレビはベッドと反対側の壁に取り付けてあり、ベッドからはリビング越しに遠目で観ることになる。42インチのプラズマディスプレイを設置しているのだが、6メートル近く離れた場所から見ると、いささか小さく感じられた。 部屋の中央にはどっしりとした2人掛けソファをテレビに向くように設置し、前には数種類のマガジンが用意されたガラステーブルが置かれている。テレビの両脇は収納ボードになっており、冷蔵庫、ミニバー、コーヒーマシン、プリンタ機能付きファクシミリなどが収納されている。 このボードの両側にはカウンターがのびており、片側をデスクに、もう片側を茶器置き場に充てているのだが、デスクとして使うには窮屈で気が滅入る環境だ。添えられいる椅子も、ゆったり座るには心地よいが、ワークチェアとしては相応しくない。広い方の窓際には、四角いテーブルとふたつのイスを設置しており、ダイニング的な役割を持たせている。ささやかながらも、こうしてちょっとした飲食に使い勝手のいい場所が設けられているのは便利である。 天井高は260〜290センチとゆとりある高さ。ユニークな意匠を施した天井には間接照明を埋め込み、調光機能でムードを演出できる。他の照明はハロゲンのダウンライト中心で、美しい陰影が室内の落ち着いた雰囲気を作り出しており、テレビを隠すシャッターを下ろすと点灯するライトや、ヘッドボード上の間接照明など、凝った工夫も数々見られる。 だが、居室全体の実質面積は30平米に満たず、配置した家具類で埋め尽くされた感が否めない。華やぎよりも落ち着きを重視したレジデンシャルなインテリアが功をなし、鬱陶しさには至らずに済んでいるが、以前利用したスイートの開放的なゆとり感と比較すると、ここには面積差以上に窮屈な印象を受ける。 一方、ドレッシングルームは約7平米と無駄なほどに広く、天井高も260センチと無駄なほど高い。十分な収納スペースに加え、バレットボックスやネイル用ドライヤー、調光システムまで備えるドレッシングルームは、もはやもうひとつの部屋である。ガラストップのドレッサーカウンターは、居室のデスクよりもずっと広く使い勝手がいいので、こちらをワークスペースとして使った方がいいかもしれない。 バスルームは約8.5平米。総天然石造りで、明るいブラケット、ハロゲンダウンライト、間接照明により、非常に美しい空間に仕上がっている。バスルームの完成度では、他のラグジュアリーホテルより一歩リードしている印象だ。ダブルベイシン、レインシャワー付きの独立シャワーブース、個室トイレ、ムードあふれるバスタブ、15インチの液晶テレビ、ハンズフリー電話機、環境SPAモードなど、窓の有無や多少広さに差がある程度で、スイートのバスルームに準じた造りになっている。 客室を総合的に見ると、質感を落としているような部位は見当たらず、極めてラグジュアリーホテルらしい立派な設備であることがわかる。だが、それは設計上のことであり、メンテナンスの観点では、いくつかの問題が見られた。すでにカーペットがくたびれて劣化を感じさせることや、フレッテ社の高級なベッドリネンもまたボロボロにほつれていることなどである。こうしたほころびはパークハイアットやマンダリンオリエンタルではまったく見ないことから、それよりも新しいホテルがこれでは先が思いやられる。 サービス面ではそれ以上にガッカリした。シューシャインサービスを依頼し、戻って来た靴を見てビックリ。なんと、インスタントのポリッシャーで軽くなでただけで戻して来たのである。第一、インスタントポリッシャーなど、まともな靴を愛用している人間なら、絶対に使わない。靴の呼吸を苦しくさせるだけだからである。 今回はつま先にわずかな傷を付けてしまい、それをシュークリームでメンテナンスして欲しかったのだが、傷にすら気付かず、手入れせずに戻って来た。聞けば、本来の手順ではシュークリームで手入れすることになっているらしいが、それを怠った者がいたのだという。 そればかりか、頼んだプレスのへたくそなこと。東京でもトップクラスの高額なプレス料金を取るくせに、仕上がりは素人の域を出ない。こうした付帯サービスは、ラグジュアリーホテルとして恥ずべきレベルでしかない。 チェックアウト時にも不手際が重なり、マネジャーを呼ばせたが、10分以上も放っておかれ、「チェックアウトで混雑していたので」と言い訳をする始末。見ればフロント前は確かに長蛇の列である。この一点を見ても、シャングリ・ラとは対応の質に大差を感じる。一応苦情は述べたが、真意を汲み取ってくれたようには見えず、今回もまたいやな気分で出発することになった。 翌日、部屋に忘れ物をしたような気がして問い合わせたところ、見当たらないとのこと。ゴミとして処分されてしまったかもしれないので、今一度見てほしいと頼むと、「ゴミは1日で捨ててしまうのでわかりません。」とあっさり言われた。 ペニンシュラが、ここまで「張りぼて」なホテルだとは驚きである。この調子では、今後ますます価格は下がってくるに違いない。立派な部屋を手ごろな料金で使うという点にフォーカスすれば「お買い得」なホテルにはなれるだろう。 |
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ザ・ペニンシュラ東京(公式サイト) | |
以前のレビューはこちら→ | 080104 080427 |
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