Symphony |
2007.11.30(金)
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ホテルニュータナカ Standard Twin Room | |
Hotel New Tanaka |
喜-2
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今回、山口を訪れたのは第九演奏会に参加するためである。第九を歌うことを目的に結成されたアマチュア合唱団「アンディフロイデ」は、山口県を中心に精力的な活動を行なっており、海外も含めて豊富な演奏経験を持っている。ある日、その代表者からエレクトーンとぜひ共演をしたいと声が掛かった。
お誘いは大変光栄だったのだが、一度は丁重にお断りした。なぜなら第九は合唱曲ではなく、ベートーベンが最後に書き残した偉大な交響曲であり、世界中で最も愛されている作品の代表と言っても過言ではない名曲中の名曲である。壮大な構成には観客を楽しませるためのあらゆる工夫が凝らされており、何度聞いても新しい発見に興奮させられ、音楽家の端くれとして畏敬の念が深まるばかりだ。 そんな人類史上屈指の名作だけに、聞くのは楽しいが、演奏するのは苦しいに違いない。まして、ひとりで弾くとなると、スコアの解釈や編曲や稽古に要する時間として、最低1年の準備期間が欲しかった。今回は公演当日まで半年を切ってからの依頼だったので、これは不可能と判断し、お断りせざるを得なかったのである。 だが、合唱団の熱意たるや半端ではなかった。アマチュアの皆さんにこれほどの情熱があるのに、プロが尻込みをしているわけにもいかない。ついには根負けして第4楽章のみの演奏ということでお引き受けした。やるからにはいい加減なことは出来ないが、スケジュールはほぼ埋まっており、新たな準備時間を取るのには随分と苦労した。 交響曲をひとりで演奏する場合、フルオーケストラのスコアを100パーセント再現することはほぼ不可能である。だが、原曲の構成をわずかでも傷つけるわけにはいかないので、工夫に工夫を重ねて、ひとりで弾いても限りなく完全に近いカタチで聞こえるように再構成しなければならない。 この作品には割愛できるセクションがなく、聞こえなくてもいい部分がほとんどない。とりわけ2重フーガの処理には苦労したが、やっとひとり用のスコアが完成し、それから演奏の稽古。オーケストラをピアノの大譜表上に集約して演奏することはしばしば行なわれるが、エレクトーンで演奏する場合は、そう単純にはことが進まない。 例えばオーボエはオーボエ、チェロはチェロとして聞こえなければならないので、音をまとめてガッツリ掴むような弾き方は出来ない。さらにすべてが持続音であり、時間とともに表情を変化させてこそ音楽表現であるため、打鍵してから離鍵するまで、常に鍵盤への圧力を的確にコントロールする必要があるというのが、ピアノとの最大の違いである(ピチカートや打楽器も音質の変化を表現するため持続音として扱う)。 必死の稽古を重ねて、何とか先が見えてきた時には、もう出発前日になっていた。だが、もっともっと弾きたい。弾けば弾くほど、工夫すべきところが増えていく。なんと恐ろしい作品だろうか。だが一方では、この作品のオーケストラ部分をひとりで演奏できるという無上の快感が全身を貫く。やはり第九は偉大だ。 30日に山口に入り、午後にはホテルにチェックイン。とりあえず部屋に入り、お約束の室内撮影を。用意されたのはスタンダードツインだった。最初に利用したシングルルームに通じる古びた内装は、歴史ある土地柄には相応しいかもしれないが、快適さを考えるとそろそろ手入れが必要だ。赤いカーペットには夥しい染みが目立ち、ベッドスプレッドにはあちこち穴が開いているし、マットレスは沈み込んでいる。 ベッドは120×195センチサイズで、高さは40センチと低い。天井高は255センチあって、壁紙はオフホワイトのチェック柄だ。窓際にはテーブルを挟んで対面するようにイスが置かれており、スリット状の窓の上からは、レトロなペンダントライトが下がる。 デスクユニットはシンプルで、サイドにテレビが載り、デスク上にも窓際と同じようなペンダントが下がる。デスクに並んで冷蔵庫が置かれているが、中身は空で、最初は電源もOFFになっている。空調も同じく切られていたが、弱にするだけでも急に暑くなってしまい、室温を調節しにくかった。 バスルームは140×180センチサイズのユニットで、ここも古いままだが、カランだけは交換されている。アメニティはリンスインシャンプー、ボディソープ、ハンドソープがそれぞれディスペンサーで用意され、タオルは緑色で大小が2枚ずつだ。 あまりのんびりとはしていられない。早速リハーサルの迎えが来た。今回の公演には指揮者がいる。エレクトーンでのひとりオーケストラは、演奏者と指揮者両方の醍醐味を味わえるのが魅力だが、今回は指揮者に従って演奏しなければならない。指揮者とはこの日のリハーサルが初対面。第九をこよなく愛し、深い知識も持っている指揮者であることがわかり、ひと安心だった。 本番当日。まずは屋上の温泉で体をほぐして、それから朝食。満室の割に温泉はいつでもガラガラだが、朝食はいつものレストランでは対応し切れずに、2階宴会場に場所を移して提供された。宴会の着席ブッフェのように、壁に沿って料理が用意され、内側に円卓が並んでいる。係の数は多いが、あまりすることがなくて暇そうだった。料理は和食の方が美味しそうに見えたが、サラダとパンとヨーグルトを食べた。やっぱりパンは見た目通りに美味しくなかった。 さて、いよいよ本番。会場はなんと屋外である。天気には恵まれたが、やや風が強く、しかも寒い。楽屋として用意されたテントの中には、いくつもストーブを置いてくれたが、暖を取るより一酸化炭素中毒が怖かった。出番待ちをしている間に、どんどん指が冷たくなって、ほとんど感覚がないまでになっていたが、「マイナス13度の野外ステージでも弾けたじゃん」と自分を鼓舞してみる。あとはなるようにしかならないのだ。 特設のステージに出て行くと、会場となった公園のフィールドには思いのほか多くの観客が集まっている。周囲には祭りのように(実際、祭りの一種のようだが)屋台や出店がでていて賑やか。正直、第九って雰囲気ではないように感じたが、演奏が始まると、皆さん興味深そうに聞いてくれていた。あっという間の30分だが、よい経験をさせてもらうことができた。アンディフロイデの皆さん、山口の皆さん、ありがとう。 |
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ホテルニュータナカ | 060724 070612 |
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