市川でのリハーサルが終わり、電車を使って新浦安に向かった。仕事を終えて家路を急ぐ人の群れに混じりながら駅の改札を抜け、直結したペデストリアンデッキを渡りホテルエントランスへと到着。それまでの喧騒から切り離された、心地よい空気に包まれる。ここはホテルだと感じる瞬間だった。
2階のエントランスから1階ロビーへのエスカレータを降りると、すぐに「神田様ですか?」と声を掛けられた。到着を待っていてくれたような感じがして気分がよかった。車で来ると思っていたらしく、重い荷物を持って駅から歩いてきたことに、少し驚かれてしまったようだ。フロントでサインのみのチェックインを簡単に済ませると、マネージャー自ら客室までアテンドしてくれた。その際、レストランの案内、非常口の案内もきちんと行われた。
客室は広く、何といっても清掃がよく行き届いており、とても快適だった。客室扉を入ると、正面にはピクチャーライトを当てた額があり、廊下から室内が直接見えないようになっている。居室はワイドな窓の近くに、ゆったりとしたソファを配し、大理石のテーブルを挟んでアームチェアと対面させた。デスクは窓に向けて置き、真鍮のライトが思わずペンでも取ってみたくなる気分にさせてくれる。デスク脇の壁に沿って、アーモアとバゲージ台を配置。テレビは大きく、衛星放送が少ない代わりに文字放送が充実している。ソファの背後はものを置けるようになっており、加湿器がセットされていた。カーテンは手動だが、軽やかだった。
ベッドは窓を向いて並んでおり、スプレッドと一体化した寝具を使っている。寝心地はよい。天井には調光自在のシーリングライトがあって明るいが、それを消してスタンド類だけを灯してもいいムードが作れる。バスルーム近くのミニバーには、カップ&ソーサー、ティーポット、ハーブティを備える。また子供を意識してか、駄菓子を詰め合わせたセットを350円で用意しているが、大人でも思わず手にしたくなるだろう。その他ソフトドリンクが150円など、手頃な価格設定がうれしい。家具はいずれもオーセンティックなデザインだが、全体とよく調和しており好印象だった。家具をゆったりと配してもなお床に余裕があるなど、開放感あふれる客室だ。
バスルームは実に快適だった。フローリング部分にベイシンとトイレをレイアウトし、テレビやちょっとしたアート、観葉植物を備え、気持ちよく過ごせる空間になっている。ガラスで仕切られたバスルームには大きなバスタブと広々としたシャワースペースを設けた。アメニティはとても充実しており、今時珍しいハンドメイドのくしを備える。タオルは豊富に用意され、とりわけウォッシュクロスが肌に心地よかった。もちろんバスローブもあった。バスルームでもBGMを聞くことが可能で、調光が自在なのもうれしい。
スムーズだったチェックインと同様に、チェックアウトもまたスムーズだった。しかし、気持ちよく出迎えてくれた到着時とは違い、単に会計を済ませただけのあっけないものだった。出迎えてくれたマネージャーの前を通ったが、こちらに気付くことすらなかった。前夜のパフォーマンスは何だったのか、急に空虚な気分になった。サービスでは見送りが非常に大切だ。思い返せば、素晴らしいホテルだったと感じたところは、総じて見送りが気持ちのよいものだった。初代マネージャーのいたシェラトンタワーズトーキョーベイ、ブセナテラス、ナハテラス、京都ブライトンホテル、リーガロイヤルホテルプレジデンシャルタワーズなど、こうして思い出していくだけで胸が躍る。旅人を立ち去りがたい気持ちにさせてはじめて、ひとつのサービスが完結する。
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