1999.07.16
場違い
浦安ブライトンホテル Deluxe Brighton Twin
哀-2長谷工が経営するブライトンホテルは、京都においてそのサービスが顧客から高い評価を受け、今や京都の名門ホテルとされるに至っている。箱崎のロイヤルパークホテル同様、元来のホテル屋でない業種が始めたホテルとしては、破格の高水準を保っているらしい。しかし、ひとたび名声を得た後で多角的に展開し始めたとたん、段々とボロが出てくることも共通しているようだ。
新浦安駅前という、ディズニーランドがなければ、決してこのような高級ホテルはできなかったであろう立地に、新浦安オリエンタルホテルと浦安ブライトンホテルが肩を並べながら睨み合っているが、どうもどちらもそれぞれに苦戦しているかのように見える。新浦安オリエンタルホテルは館内にコンビニなどを備え、若者やファミリーからかろうじて支持されているようだが、浦安ブライトンホテルは気軽に利用できる雰囲気ではない。
エントランスでは通りかかるたびに従業員が恭しく頭を下げてくれるが、同時に入りにくい雰囲気も作っている。ホテルのクラスを考えると、あまり買い物帰りに軽装でやってこられても困るし、ロビーで喧燥に煩わされるようでも困るから、周囲の生活感丸出しの環境から遮断された別世界を築いてくれていることには感謝しなければならない。
しかし、エントランスで従業員の洗礼を受けてまで、このホテルに足を踏み入れるだけの客層を求めるのは、この立地ではない物ねだりに近い状態だといえるだろう。このホテルは間違いなくこの地に場違いなのだ。サービスは総じて高水準で快適だ。居住性を考え抜いた客室の完成度も極めて高い。都心に出店しても恥じないだけのハードとソフトを携えてオープンしたはずだが、客がそれについていけなかったのかもしれない。
このホテルはシングルルームでさえ32平米、ツインルームは42平米を確保している。今回のツインルームは20階、21階の特別階にある客室で一般階よりも5,000円高い。特別階といってもラウンジやパーソナルサービスを提供してくれるタイプではなく、内装やアメニティで差を付けているタイプだ。客室内の内装の差といってもささやかなもので、壁紙とちょっとした装飾が加わる程度。アメニティとしても、バスローブとバスルームのTVくらいだ。
しかし、廊下とエレベータホールの雰囲気はガラッと変わる。エレベータホールには大理石をふんだんに使いゴージャスな雰囲気が漂い、客室廊下との間に扉がある。客室の扉が開いていたとしても、室内の様子がのぞかれないような設計になっているので、室内に入り最初に目に入るのは廊下の突き当たりに掛かったアートだ。その奥にベッドルームがあって、窓に向かって120センチ幅のベッドが2台置かれている。
客室自体が扇状なので、窓はとてもワイドだ。上層階からだとディズニーランド越しにも海が望め、かなり開けた景観を楽しむことができる。その窓辺には大きなソファセットとライティングセットが用意されている。ドレープの縁に施された刺繍がアクセントになっている。
贅沢に面積を割いたバスルームは、日本人の入浴習慣に沿った洗い場付きのタイプで、ベイシンやトイレ(洗浄式)とはガラスで仕切られているので、より広々とした印象を受ける。洗い桶と腰掛けが用意されているのだが、洗い場にはシャワーのみでカランがないため、桶に湯を溜めるのには適していない。アメニティはオリジナリティが感じられる上になかなか高品質だ。
ミニバーには湯呑みではなくティーカップが置かれ、ハーブティーの用意もある。また、グラス類は結構いいものが使われていて、コースターもしっかりしたものだ。冷蔵庫内は品揃えが少ないながらも低価格で、ソフトドリンクは200円、ビールは350円だ。となりの新浦安オリエンタルホテル内に24時間営業のローソンがあることが影響しているのかもしれない。
ランドリーは午前10時までに出した分が同日仕上げで、正午−同日18時と18時−翌日正午、ならびに日曜日は特別扱いで50パーセント増し。ルームサービスは、当初24時間営業だったが、6:00〜0:00となり、つい最近7:00〜23:00になって、だんだんと短くなってきてしまったことだけでなく、その品揃えの乏しさも残念だ。まぁ、この環境ではルームサービスがあるだけありがたいと思わなくてはいけないかもしれないが。客室清掃は十分に行き届いており、レベルが高い。
ロビーラウンジでは新鮮なフレッシュハーブティーを楽しむことができる。レモンバーム、レモングラス、アップルミント、タイムがブレンドされ、ほんのりと甘味もあって気持ちが安らぐ。天井からの自然光と、やわらかい流れのせせらぎが心地よい。
開業6周年記念で通常10,000円のディナーコースが8,000円で楽しめるというので、それを目当てにみんなで中国料理店へ出向いた。入口まではその気分でいたのだが、店内に入って席につく頃には、みんなの気持ちは変わっていた。
だれかが「この2,000円の冷麺のセット、いけてるじゃない?」というと、みんな賛同。なぜならば、店の雰囲気が10,000円相当の料理を楽しむ環境ではないからだ。思ったより狭いだけならいいのだが、テーブルクロスは布でなく、カフェなどでよく使用しているポリエステルと紙の混ざったディスポーサブルのもので、しかもオレンジ色。更にはランチタイムから換えていないらしく、脂汚れが付いている。
クロスがそのようなのに、箸のケースは立派な紙でできていた。なんだかアンバランスだといぶかしがっていたら、速攻下げていった。きっと次の箸を入れて次の出番に備えるのだろう。このようなしつらえからすると、よい料理が出てくるとは思えないというのが、皆の一致した見解だった。
結局、その冷麺セットと幾つかの一品料理を注文するにとどまり、ひとり当たり4,000円程度で収まってしまった。テーブルクロスをケチった結果がこれである。実際に料理を味わってみての感想も、「このオーダーで正解だったね」と一致してしまった。「デザートどうする?」「う〜ん、いらない」というやり取りからも、想像がつくだろう。
周囲のテーブルを見回しても、ほとんどが軽いオーダーばかりなので、高級なセッティングをしてしまうと、かえって客が敬遠するのかもしれない。当初は高級路線だったが、長くは続かなかったようだ。このあたりにも、この立地での顧客ニーズを見誤っていることがうかがえる。このホテル内のレストランは全店直営で、味やサービスに自信があるはずだが、それを維持するだけの客に恵まれていないのは気の毒だ。
Y.K.