車の扉が開くと溌剌としたドアマンから「いらっしゃいませ!お疲れ様でした」と声が掛かり、そこにすぐマネージャーも駆けつけて明るい笑顔で出迎えられた。なんと気持ちのよい到着だろう。これだけで疲れが吹き飛ぶようだった。すでに22時を回っているが、フロント周辺の係はハキハキと機敏な対応を見せ、要望にも細かく応えている。ロビーの人影もまばらになりつつあるが、サービスの集中力は高いレベルにあり、ロイヤルホテルは煌びやかな活気に満ちていた。この心地よさ、ふと、どこかで感じたことがあると思った。それは、オークラだ。高度なサービスを提供していた絶頂期のオークラにいた女神は、今はここロイヤルホテルに舞っている。
23階のプレジデンシャルタワーズレセプションでは、すでにエントランスから連絡を受けたスタッフが待ち構えており、すぐに客室へ案内してくれた。ウェルカムドリンクを勧められたので、コーヒーを頼むと、クッキーを添えた熱いコーヒーがすぐに運ばれてきた。更に誕生日が近いからとテーブルには冷えたシャンパンが用意されている。我が家に帰るような快適さだった。よくホテルの案内の中に「旅先の我が家」という表現があるが、大抵の場合は理想とは程遠い。しかし、ここだけはそれを強く実感できる。
客室は41平米のデラックスルーム。扉を開けるとまずは広い前室がある。左にバスルーム、右に居室というユニークな構造だ。居室への内扉を進むとパステルカラーでコーディネートされたやさしい空間が広がる。まず目を引くのは特大のベッドだ。ベッドの足を見るとハリウッドツイン仕様であることがわかるが、マットレスやデュベは一枚のものを使っているので、かつてないオーバーカリフォルニアキングサイズのベッドに仕上げてある。ベッドの前の壁には、三面鏡のあるデスク、液晶テレビとDVDプレイヤー、冷蔵庫とミニバーなどを備えている。ベッドサイドの観葉植物も目を楽しませる。リビングコーナーは窓から離れた場所にあって、ラブチェアひとつと丸いテーブルというシンプルな組み合わせ。クローゼットは扉を両方に完全に開放でき、両脇のチェストとあわせて非常に収納力のある造りだ。
照明は蛍光灯の間接照明が加わって非常に明るいが、やや平板。ナイトランプと蛍光灯だけが調光可能になっているが、蛍光灯は調光には適さない。むしろ、オン/オフしかできない白熱灯ダウンライトを調光可能にして欲しかった。また、淡い色が多いだけに、すでに染みになったカーペットの汚れも気になった。せっかく無料のPAY TVは、プログラムが貧弱で興味をそそらない。無料チャンネルのラインナップも退屈なので、もう少し充実させるべき。
インテリアには工夫は見られるものの、ホテルのクラスに対してやや軽快過ぎる感もある。しかも、家具類の質感はセルリアンタワー東急ホテルに毛が生えた程度。これではリッツ・カールトンや阪急インターナショナルにかなり見劣りする。
バスルームはほとんど改装していないが、大理石仕上げでゆったりしている。ベイシン上に新たに取り付けられたハロゲンライトが印象を変えた。バスタブは周囲を石で囲み、余裕のある配置。大型のバスタオルをはじめ、肌触りのよいタオルは豊富に用意される。アメニティも充実。バスルームのBGM音量を上げると、オーディオとテレビの音声が混ざって聞こえてしまうので、オーディオを聞きたい場合は、テレビを音のしないチャンネルにあわせる必要があった。
翌朝のラウンジでの朝食は、いつもながら品質、品揃えともに大満足。盛り付けに工夫がみられ、メンテナンスもこまめに行っている。バトラーがよく気を遣ってくれ、今回はコーヒーも運んでくれた。このホテルの周辺にはコンビニや銀行もなく、館内で調達できないものがある時は、少々不便に思うこともあった。
チェックアウトも極めてスムーズで、人と会うのでレストランを利用するつもりだと言うと、丁寧に最後まで対応してくれた。どの店に行くかは落ち合ってから決めたいと言えば、待ち合わせ場所のロビー付近で係が待機し、声を掛けると連れの希望に合わせてレストランを電話で手配。そのまま店先までアテンドしてくれた。途中、空港までの車の所要時間を尋ねると、的確なアドバイスをした上で車の手配を申し出るスマートさ。一度なにか頼めばとことん面倒を見てくれる。
食事を終えてロビーに行くと、頼んだハイヤーが手配され、すでに荷物は積み込まれていた。スムーズで間違いのないサービスが、終始心地よかった。客室の質感についてはやや好みに合わないが、このサービスはそれを埋めて余りあるもの。大阪のホテルでは風格と洗練で群を抜いている。
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