最後にシェラトングランデをチェックアウトしてから5年。振り返ってみると、もっともっと長い年月が過ぎ去ったようにも感じられる。スケール感、開放感ともに群を抜いており、明るく広い客室も魅力的なのに、長いこと足が向かなかった。40平米の客室に65,000円という値段を、惜しくないと感じさせてくれていた、初代のタワーズマネージャーが去ってから、このホテルは大きく雰囲気を変えてしまった。
たったひとりの存在が、どれだけ大きかったか。あらゆる期待に応えてくれたチームが消えたことも、時間の流れと頭では理解できるが、このホテルに来れば、おそらくあの時はこうだったのに、彼女がいればこうしてくれたのにと、比較をしてしまうのが怖かった。それは、彼らなりに一生懸命サービスしている後継者にも失礼だと考えていた。上村素子。彼女を越えるサービス人には、まだどこでもお目にかかっていない。
5年ぶりにホテルに到着したのは、市川でのコンサートを終えた後、22時を過ぎていた。入口にドアマンの姿は見あたらず、車を降りて館内のベルを呼びに行った。荷物の扱い方は、ふつうのホテルとも、かつてのこのホテルとも随分と違っていた。それはちょうど空港でのチェックインに似ていた。フロントでのチェックインとは別に、荷物だけを扱うカウンターで、荷物の数量やこわれものなどのチェックを受け、あとで客室に届けてもらうというものだった。場所柄、編み出された知恵なのだろうが、スマートなサービスとはいえない。ロビーは遅い時間にも関わらず、これからチェックインするゲストで列ができていた。テーマパークの閉園後から、この賑わいは途切れることなく続いていたにちがいない。
客室は最上階12階のパーク側のクラブルーム。建物の先端に近いインペリアルスイートのコネクティングルームだったので、家具が他の部屋とは異なり、立派な造りになっている。控えの寝室という感じでもあり、ライティングデスクもない。夜遅いので、かろうじてテーマパークのライトアップが見える程度だが、翌朝は右半分が海、左半分がテーマパークという非日常的な景観が楽しめた。バルコニーに出れば、涼しい風を感じることができ、最上階なので上階の出っ張りがなく、一層空が広く見える。ベッドはセミダブルサイズが2台並び、シンプルなベッドメイキングだ。
バスルームはアウトベイシンスタイルで、バスルーム内にはトイレとバスタブが並ぶのみ。内部は石張りでゴージャス。天井に明るいライトが設置され、以前よりも過ごしやすくなった。内部が窮屈な分、ベイシン部分にはゆとりがある。大理石の天板に、3面の鏡、スツールが置かれ、雰囲気もいい。アメニティも充実した品揃えだ。ルームサービスのサービス料は18パーセントと極めて高いが、レストランは手頃な店もある。
クラブラウンジを使う機会はほとんどなかった。チェックアウトに立ち寄った際に、コーヒーを飲んだだけだが、ゲストも少なく、ゆったりとした時間が流れていた。新しいインテリアの中にも、懐かしい調度品が一部残っている。輝く海を見ていると、昔のタワーズの思い出が甦り、立ち去りがたい気持ちになった。
正面玄関で車に乗り込もうとすると、見覚えのある顔がドアマンを務めていた。彼はかつてホテルパンフレットの一面を飾ったこともある優秀なバトラーだった。短い時間しか過ごさなかったが、懐かしい顔に見送られ、忘れがたい滞在になった。スタイルや雰囲気は変わっても、思い出がたくさん詰まったホテルであることに変わりない。
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