非常に心地よい到着だった。スムーズなだけでなく、歓迎されているという空気が感じ取れる。南の島の小さなリゾートなどでは、素朴ながら心のこもった歓迎をしばしば受けられる。また、個人宅で開かれるパーティに招かれ、もてなし上手な主人にそのコツを尋ねると、必ずと言っていいほど「いかにゲストを歓迎する気持ちを伝えるかだ」との返事が返ってくる。そこが南の島であれ、近所の邸宅であれ、ここちよいと感じる空間には、必ず「あなたをお待ちしておりました」「ようこそお越しくださいました」という主人の気持ちが満ち溢れているものだ。
その気持ちを伝えるために、人間はさまざまな具体的行動をとる。それが見えない心のあり様を、くっきりと浮かび上がらせるわけだが、多くのホテルではその具体的行動の指針を、マニュアルに示している。カタチが先行して、ココロが抜けている、そんなホテルサービスが平然と通用してしまうこの国で、自らの瑞々しい感性から湧き上がるホスピタリティでサービスに当たる人と出会うのは、荒野で一輪の花を見つけた感動に匹敵する。
しかし、そんな喜びは長持ちしなかった。以前のまったく同じルームナンバーの客室を用意し、特別なリクエストにも積極的に応えてくれたまではよかったが、マウスウォッシュが欲しい、バスソルトが欲しいとの追加のお願いには、用意はないが金を出すなら買ってきてやるという、前回同様つれなく冷たい返事だった。およそ館内に常備していなくても不思議でないものをリクエストしたのなら、そうした申し出は気の利いたサービスと評価できるが、最高級ホテルなら当然準備しておくべき品物がないのだから恥と思ってもらいたいものだ。
ターンダウンは丁寧に時間を掛けて行われた。日中、ベッドを開いて一眠りしたが、シーツの張替えはせずに整えるに留まった。アメニティの補充はなかったが、使用したコーヒーメーカーは洗浄され、コーヒーも追加されていた。
客室は使うほどに快適に感じてくるから不思議。モダンな内装のホテルが、どこも同じ道をたどり個性が希釈されつつある中、モダン路線の中でも独自のテイストを醸し出している。それは、他のモダン系とは明らかに一線を画く、質感の高いインテリアによるものだ。ところどころ施工上の問題点はあるが、なじむほどにしっくりとくる客室だ。スタッフの心構えや能力には、個人により相当の差がある。平均点のアップと、サービスの原点を見直す努力が必要だろう。
出発時には、キャッシャカウンターで、さばかれるように支払いを済ませて出発。その時点では、到着時の快適さは影が薄くなっていた。
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