フォーシーズンズエグゼクティブスイートは、世界中のフォーシーズンズホテルで、このチェーンのコンセプトを要約したようなスペーシャスで機能的な客室として、積極的に紹介されていることが多い。しかし、椿山荘のエグゼクティブスイートは、「料金が2割アップで、広さは1,5倍」というお得感をうたった宣伝文句にはそぐわないものだった。では丸の内はどうか。確かに面積は標準客室の1.5倍近いが、料金は2割どころの差ではなかった。料金の差が設備に反映されているかというとそうでもない。東京駅前でプライベート空間を確保するには、高い料金が必要なのだということを、静かに物語っている客室だった。
入口を入るとストレートにリビングルームに通じている。プレミアルームのように長く折れ曲がった廊下があるわけでないので、プライバシーは守りにくい。タイミング悪く扉を開ければ、リビングは丸見えだ。エントランス近くには、ゲスト用のトイレがある。リビングルームの手前に室内を向いてデスクがあり、ちょっとしたミニオフィスのような設えになっている。リビングルームには構造上の太い円柱があり、部屋を非常に狭く見せ、かつ、使いにくくしているのが残念。掛け心地のよいソファはL字型に置かれ、ビジネスシーンで使うというよりは、プライベートなくつろぎに適した配置だ。壁面には大型ディスプレイが掛かり、窓からは東京駅と行き交う電車が見える。
ベッドルームは小ぢんまりとしており、クイーンサイズのベッドと、キャビネットに一人掛けのソファのみと、シンプルさを極めた。余計なものを置いていない分、ひとつひとつのものが際立つが、これといって個性を主張するものもなく、レジデンスのような落ち着きが感じられる。リビングもベッドルームも使っている家具は非常に高品質で素晴らしい。あえて主張のない、物静かインテリアにこだわったのは、センスとしては見事だが、演出も必要なホテルルームとしては、いささか真面目すぎるようにも思う。
ベッドルームから引き戸を開けると、横広いバスルームがある。扉のほぼ正面にシングルベイシンがあり、その右手にある鏡張りの引き戸の向こうは、ウォークインクローゼットになっている。ベイシンの左手はシャワーブース、バスタブ、扉で仕切られたトイレの順に並んでおり、使い勝手のよいレイアウトではあるが、標準客室のバスルームの方が、遊び心があって面白いような気がした。アメニティは標準客室のものに、ブルガリの入浴剤が加わるのみ。ひどいハブラシセットも同じ。
全体的に余計な装飾をさけ、シンプルに仕上げた客室だが、セルリアンと違って、こちらは非常に上質だ。だが、眺めがよいわけでもなく、部屋に面白い工夫があるわけでもなく、非日常を求めて泊まりに来る客室ではない。泊まってみたいというより、住んでみたい。そう思わせる客室だった。レストランや付帯設備が少なく、館内で豪華客船の旅のように自由気ままに過ごすにも場所がない。24時間使えるフィットネスルームと、小さいながら雰囲気のいいスパがあり、どちらも無料で利用できるので、ひと汗流しながら、地球儀に「TOKYO」とポイントされた印の、ど真ん中にいるんだという実感を味わうのもおつなもの。
小規模ホテルゆえに、ふれあうスタッフたちの印象は極めて重要だ。5万、6万という客室料金を悪びれもせずに取るホテルが、どんなもてなしを提供すべきなのか。これまで定義されることのなかった新しい領域のスタイルを、知恵を絞り、心を注いで確立してほしい。今のサービスなら、申し訳ないが、誰でもできる。
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