無愛想
2006.11.19(日)
ソフィテル東京 Deluxe Suite
Sofitel Tokyo
怒-3

レストランのバーコーナー 冷たい雨が降る中、ソフィテル東京に到着した。ホテル前の大通りにさえ人通りはまばらだったが、ホテル内はもっと寂しかった。少なくとも、1階のロビーフロアに客の姿はない。だが、フロントには2名の係が立っていたので、どうやらまだ営業はしているらしい。小さなフロントカウンターには、中央にだけ、ひとつのデスクマットとペン立てが置かれていたので、その前に立ってチェックインを頼んだ。

係はニコリともせずにレジカードを取り出すと、自分が立っているところを指し示し「こちらへどうぞ」と言った。数歩どころかわずか一歩の距離とは言え、なぜ、自分が動かずに客を動かすのか。こうしたケースは何もここが始めてではないが、これは些細なことなどではなく、サービス精神の質がよく露呈している出来事であり、見逃すことはできない。だが、ここで説教をする立場でもないし、そんな世話を焼く筋合いでもないので、彼女の「こちらへどうぞ」を2度無視して中央に留まり続けた。

とうとう根負けしたのか、彼女はしぶしぶ中央に一歩動いた。口調そのものは丁寧だが、態度にはふてぶてしさが滲み出ており、チェックインをする数分間にもこうした小さな出来事が重なりあって、不快指数はぐんぐん上昇した。こんな調子では、客が少ないのも無理はない。わざわざ辺鄙な場所まで来て、このような陰気で意地悪なサービスに接したら、再度訪れようなどという気持ちにはなれないだろう。

部屋への案内はしてくれなかった。以前はドアマンもベルアテンダントもいたように記憶しているが、今ではビジネスホテルのような体制に変化している。自ら荷物を抱えて向かった部屋は、最上階のスイート。そう聞けばなんとも魅力的な響きに感じるかもしれないが、最高級の部屋ではなく、46.4平米のジュニアスイートタイプである。幸い、上野公園側がアサインされたので、眺め的には最も恵まれたと言えるかもしれない。

通常は客室外廊下に相当する部分までを部屋に取り込んでいるので、入口部分がとても広くなっている。リビングに至るまでの間に、ウォークインクローゼットの扉があり、クローゼット内には大きなバゲージ台、ハンガー、引き出し、ドレッサーまでもが設けられている。こうなると、クローゼットというよりは、ドレッシングルームと言った方が適切な気がする。

居室はワンルームタイプで、ベッドエリアとリビングエリアの間に、大型の家具を配置して仕切っている。リビングには、どっしりとしたソファセット、壁のくぼみを利用したガラスのライティングデスクがある。デスクにはレザーのマットが敷かれ、直通のFAX機も備えている。デスクスタンドはないが、ハロゲンのダウンライトと、両サイドの自然光色蛍光灯により、十分な明るさが確保されている。ソファは大きくて座り心地がいい。ソファの両脇にはサイドテーブルを置き、両方にスタンドを載せている。ソファの背後にはミラー張りのくぼみがあって、大理石の天板や、ハロゲンのライトが雰囲気をよくしている。

中央の家具は、ミニバーやテレビなどが収納されているが、すべての扉を閉じればすっきりと大きな柱のようにも見える。テレビはぐるりと回転する台に載っているので、リビングからもベッドからも同じテレビを見るような構造だ。この家具の上部は大きな棚になっており、巨大クローゼットと合わせれば、かなりの収納力を持っている。

ベッドは200×200センチで、高さは50センチ。やわらかいベッドだが、寝心地は悪くない。ベッドボードにはベロア風の生地が張ってあり、両脇からのスタンドの他、リビングとシンメトリーになったくぼみにあるハロゲンのダウンライトにより、こちらも十分に明るい。

バスルームは7.2平米の面積があり、床とベイシントップに大理石を使い、壁はクロスとタイルで仕上げている。ガラス扉で仕切られたバスタブのあるウェットエリアは、標準客室でも大理石仕上げなのに、なぜかスイートではタイル張りというのが不思議。ここもやはりシャワーの水圧が弱く、豪快にシャワーを浴びるのは無理だった。アメニティはロクシタンで揃えているが、くたびれきって黒ずんだタオル類が悲しい。

清掃はよく行き届いていたが、電球切れが2箇所あった。また、このホテルの場合、ほとんどの部屋はエレベータにごく近い場所にあるわけだが、今回の部屋は最上階なので、上の機械に近いことが影響し、エレベータが動く度に轟音が響いてきた。今回利用した宿泊プランには、シャンパンのハーフボトル2本とお菓子が付くことになっていたが、実際部屋に運ばれてきたのは、クォーターボトル2本だった。そして、お菓子はマカロン。まぁ、所詮オマケなのだからいいけれど、半分の量とはちょっとガッカリ。

プランに朝食は付いていなかったが、お名残りに朝食を食べることにした。午前8時頃から、ゆっくりと時間を掛けて朝食をとったのだが、先客はフランス語を話す外国人の男女が一組だけ。そして、その後も日本人が一組来ただけだった。この少ない客でも、メインディッシュとコーヒー以外はブッフェスタイルで用意される。

そのブッフェは和洋のアイテムがあるのだが、やや寂しい。サラダの野菜は乾いてしまっているし、かつてフレンチレストランならではの味を感じさせた胡桃のドレッシングは、普通の業務用ドレッシングになってしまった。フルーツも以前の方が充実していたが、シリアルやパンはバラエティ豊かに揃っている。メインディッシュは数種類から選べ、この日はフレンチトーストをチョイスした。シナモンが効いていて、なかなかの味だった。

チェックアウトは午前11時。到着からずっと閑古鳥だったのに、この時ばかりはフロントで待たなければならなかった。前日同様、フロントには2名の係がいたのだが、タイミング悪くふたりとも接客中だった。しかも、ひとりはタクシーを呼ぶのに会社の指定のことでもめている様子。もうひとりは観光案内をしているらしく、どちらもすぐに終わりそうもなかった。であれば、誰かに応援を頼むべきではないか。

結局15分も待たされたが、その間、単に放っておかれたというだけで、目くばせひとつしてくれなかった。その上、「お待たせしました」という言葉さえ聞けず、さすがに腹が立ってきた。不満を言うと、「接客中だったので」と言い訳をする。そんなことは目の前で見ているのだからわかっているが、その間にもできることがあったのに、しなかった係が悪い。一体どういう教育をしているのか。マネジャーの顔が見たくなった。

マネジャーを呼んでもらうと、若い外国人が現れた。彼は副総支配人だと名乗り、明らかに最初から高圧的でトゲのある態度で接してきた。こちらの話にろくに耳を傾けず、目を逸らしながら「申し訳ありません」の一言でかわそうとする。その言葉にまったく気持ちがこもっていないことは誰の目にも明白だった。それを指摘すれば今度は「じゃあ、どうすればいいんですか」と開き直り。そんな態度で客に接しているから、このホテルはダメになったのでは?と言い返せば、「そんなこと関係ないでしょう。失礼じゃないですか!」と逆ギレ。

この人は、これまでずっと客に対してこのような対応をしてきたのだろうか。そうだとしたら、彼は随分と損をしている。若くして重要なポストに就いたのだから、きっと有能な人間なのだろう。話せばわかるに違いないと思いながら、何を求めていたのか、どうして欲しかったのかを、丁寧に説明した。すると、彼の顔も最初の鬼のような形相から、次第にほぐれていった。「最初にあなたがその表情を見せてくれていたら、それでよかったのに。」

そう言ってホテルを出ると、彼も正面玄関の前まで出てずっと見送ってくれた。このホテルはあと1ヶ月で閉館する。閉館後は解体されマンションになるらしく、不忍池のほとりにそびえる摩訶不思議なタワーは姿を消す。外国人にとっては、スカイライナーで来れば上野駅からもそう遠くないし、東洋的な眺めや、文化の薫りが漂う周辺環境など、利点もなかったわけではない。だが、世界最大級のホテルチェーンアコーグループの力を持ってしても、このホテルを繁盛させることはできなかった。東京から「個性」がまたひとつ消滅するのは寂しいことだ。

 
リビングのソファ 壁のくぼみにデスクがある 窓はワイド

中央の家具 200センチ幅のベッド ソファの後ろの鏡に映ったリビング

広いクローゼット内 ベイシンとトイレ ウェットエリアはタイル張り

プランのオマケ 窓の外 ジムは無料だがマシンは古いまま

ロビーから正面玄関を見る ロビーのシッティングコーナー レストラン店内

 
ソフィテル東京 010317 010414 040626


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