集まりは昨年とは違う会場で開催された。上田駅からは散歩がてらにちょうどよい距離。宴の始まりは夕刻からだったが、ずうずうしくも今年も演奏をご披露したいと無理強いしたものだから、会の主人と早めに待ち合わせてリハーサルを行う段取りになっていた。

会場にはすでに楽器が据え付けられ、客席の準備もおおかた済んでいた。音の響きを確かめすっかり安心した後は、ひとときのコーヒータイム。やがて本年の「新種を味わう会」がスタートし、「皆さんがほろ酔いになる前に」との主人の配慮により、宴に先だって演奏させて戴いた。

それが済むと、続いて本年の新種が次々とテーブルに振舞われる。酒もまた作り手に瓜二つ。人情にあふれ生真面目だが、すっきりとしたのど越し。友に持つならこういう男がいいと思った次第である。お開きに続いては、昨年も訪れたレストランで話の続きに花を咲かせ、ホテルに到着したのは午前零時を回ってからだった。

こうなることは織り込み済みだったので、「宿はこちらで」と気遣う主人には安い部屋で十分とお伝えしたのだったが、今年もまた上田の貴賓室である東急インのスイートを用意して戴いた。

昨年も利用したので、室内の様子は記憶通り。エントランスを挟んで、左右にベッドルームとリビングルームが分かれており、宴席の控室や婚礼当日の宿泊に都合よく造られている。実際、そのような目的で使われることが多いのだろう、リビングにはタバコのにおいが強烈に染み付いており、備え付けの空気清浄機では効果が及ばないようだった。

せっかくのリビングだが、結局、様子をうかがっただけで、ゆっくり過ごす時間はなかった。ライティングデスクはリビングルームにあるのだが、デスクトップが狭く、あまり仕事がはかどる雰囲気ではない。それよりは、ベッドルームとバスルームの間に設けられたドレッシングルームの方が、何かと都合がいい。

傍らには洗面ボウルがあるにしても、天面の広さといい、照明の明るさといい、そして居心地といい、デスクよりも優れている。本来は化粧をする時のためであろうスツールに腰掛け、パソコンを広げてちょっとした作業を終えると、すでに午前3時。到着した時に張ったバスタブの湯は、とっくに冷めていた。改めて熱い湯を足し、ほんのり甘いエッセンシャルオイルを数滴たらす。そして、バスタブに足を投げ出し、一日を振り返ってみる。

新酒を味わう会では、このホテルの責任者とも会話することができた。2階、3階はモダンな雰囲気に改装したが、今度はロビーを、その次には客室をと、順次改装を計画しているとのこと。確かに2階や3階は今風になっていた。だが、質感は以前の方がよかったと思うのだが。

現在のロビーも、大理石を多用しており、東急インのロビーとしてはとても立派である。このままでも十分に思えるが、「もっときれいにしたい」と抱負を聞かされた。「もっときれいに」ならば、念入りに清掃をすれば実現できるはずだが、意図するところはそうではなく、雰囲気のよい他のホテルとの競争力を保つだけの内装にしたいということなのだろう。

そこで浮かぶ疑問は、「このクラスのホテルに何が求められているのか」である。東急ホテルズが新たに手掛けるブランド「ビズフォート」は、バスタブを取り払い、シャワーブースのみの客室が特徴だ。

何でも、若い人々にはシャワーブースだけの方が人気があり、「バスタブ付きより高級」というイメージさえあるらしい。シャワーブースだけでも汚れは落ちるだろうが、疲れは流せない。それでも、シャワーブースという一般家庭に馴染みのない設備にホテルらしらを感じる利用客が少なくないのだという。こうなると、もはや感性も価値観も合わないので、このサイト上でビジネスホテルの理想を語っても意味がないようにさえ思えてくる。

だが、東急インは単なる宿泊特化型ビジネスホテルではない。ここ上田や和歌山など、町のランドマークになっている東急インも少なくないのだ。であれば中核ホテルに相応しい風格と設備が必要である。せっかくの大理石に木目シールを張るような愚かなことをせず、照明デザインを見直すなどで、間接的に雰囲気を向上させる手段をとることを願いたい。

昨年感心した朝食だが、今回はどうしたことだろう。品質もサービスも著しく低下したように感じられた。館内の改装よりも、こうした本質的な部分を見直すことの方が、はるかに重要だと思うのだが。