ザ・リッツ・カールトン東京 Deluxe Room
The Ritz-Carlton Tokyo
2009.05.31(日)
東京都港区
怒-3

ダブルベイシンのバスルーム
 
一流の重圧 ザ・リッツ・カールトンという言葉は、単に高級ホテルチェーンの名称を意味するだけでなく、今や「洗練を極めた類稀な世界」の代名詞となり、それを愛用する人々のアイデンティティをも表すまでになっている。この名に出会うたびに、素晴らしいサービス体験と究極の居心地のよさをイメージする人も少なくないだろう。

レジェンダリーサービスと賞賛される質の高いサービスは、文字通り数々の伝説を生みだしてきた。従業員ひとりひとりが自主性を持ち、自らの頭で考え、客に最善のサービスを提供するという精神性は、ザ・リッツ・カールトンでサービスに従事する者たちに深く根ざしており、これぞザ・リッツ・カールトンたる所以である。

だが、逆にいえば、こうした質の高いサービスに触れることなくして、ザ・リッツ・カールトンで過ごしたという実感は残らない。それだけに、従業員に掛かる期待は大きく、常にクリアし続けるのは至難の業であろう。

しかし、そのサービスあってこその高額な価格設定であり、伝説的サービス実現のための優雅な研修費用も、客が支払った料金の中から賄われている。そして、厳しい労働環境の中、誇り高くサービスに従事しているスタッフたちの名誉のために、上質なサービスに期待を寄せればこそ、それを見極める目も厳しくなるのである。

今回は到着からつまずいた。車寄せはやや活気づいており、スタッフたちはキビキビと動き回っているものの、単に客と車をさばくだけの仕事しかしていないその表情は硬く、第一印象は「なんとも感じが悪い」の一言に尽きた。

荷物を受け持った係は、カートを使わない。それがこのホテルの美学なのかもしれないが、無理な姿勢で不安定な運び方をする様子は、傍目にも気が気でないばかりか、それ以上にみっともない。見かねて「精密機器が入っている」と注意を促したら、「ありがとうございます」という返答。係に感謝されるための言葉ではなく、荷物が心配だっただけなので、この返事には違和感があった。

フロントでのチェックインは上品でスムーズだった。そのわずかな時間にベルが交代し、別の係によって部屋まで案内された。用意された客室には、居室に隣室へのコネクティングドアがついていた。この時点で隣室から物音が聞こえていたので、コネクティングドアのない部屋に替えて欲しいと頼んだところ、「この扉は鍵が掛かっているのでご安心ください」などとピントはずれのことを言われ、コネクティングドアの何が気に入らないかを、一から説明しなければならなかった。

「少々お待ち下さい」と言い残して係が去ってから、散々待たされた後、今度は別の若い女性のベルが来て、「それでは新しいお部屋にご案内します」と、荷物を運び出し始めた。「お待たせしました」くらい、なぜ言えないのか。ご大層なクレド以前に、入門編から教育し直す必要があるようだ。しかも、その荷物の扱いの乱暴なこと。傷ひとつないスーツケースをあちこちにぶつけ、大切にしているレザーバッグを床に落とした時には、怒りが込み上げた。今どき、宅配業者でも、もっと丁寧な扱いをするだろう。

新しい客室に着いたところで、若きベルガールに責任者を呼ぶように伝え、下がってもらった。やがて部屋に来たベルキャプテンは、精悍な好青年だった。到着から今しがたまでの出来事を伝え、これがザ・リッツ・カールトンでは普通なのか尋ねると、彼は潔く不行き届きを認めて陳謝した。

ついでに「あなたにとって一流とは何か」と尋ねてみた。彼は少し躊躇したものの、「すべてのお客様に満足していただけるよう、最善を尽くすことです」とよどみなく答えた。だが実際は、ことが高度になればなるほど、すべての客から満足を得るのは難しくなる。また、さまざまいる客がそれぞれ何に満足を感じるかを熟知しない限り、この理念はただ響きのいい念仏で終わってしまうだろう。

少し会話をしたところで、このベルキャプテンには何か非凡なものが潜んでいるのを感じた。おそらくそう遠くない将来、立派な考えを持って洗練されたサービスをする人間になるに違いない。だが、今日はまだ、実力よりも情熱が先走っており、この場においても、目の前にいる客が何に怒っているのか理解できず、打つ手が見つからないといった表情をして立ち尽くすばかりだった。

困らせてばかりでは気の毒なので、到着から今しがたまで、何が欠けていたのかを説明することにした。

荷物に関しては、いかにも大切に丁寧に扱うことが重要なのは基本中の基本だが、それさえ守られていないのはお粗末過ぎる。
ラグジュアリーホテルに期待しているのは、その上にある洗練であって、まさかこのような初歩的なことでガッカリさせられるとは夢にも思わなかった。
一流を目指すなら、なすことすべてが美しくなければならない。
泥まみれで悪戦苦闘するような姿など見たくもなく、清潔なユニフォームで優雅に振舞ってこそ、一流に相応しい雰囲気を醸せるというもの。
実生活がどのようなのか知らないが、ユニフォームに着替えた瞬間からプロに徹し、美しい仕事をしてほしい。

そんな話をしながらも、眼では新しい部屋の清掃状況を見定めていたのだが、あちこち汚れが散見された。ベルキャプテンへの話はそのくらいにして、ベルキャプテンに客室係の責任者を呼びに行ってもらうと、しばらくして責任者を伴って戻ってきたので、室内のどこに清掃不備があるのかを一緒に見てもらった。

デスクトップに載っているガラスの下やデスクの側板に、糖分の多い飲み物がこぼれて乾いたままになっていたり、クローゼット扉に埃がびっしりと付着していたり、ミラーやヘッドボードに、手跡や整髪料の跡が残っているなど、明らかに不十分な仕上がりだった。責任者は、これから念入りに清掃した部屋を改めて用意するので、1時間欲しいと言う。

1時間もこの不潔な部屋で待てというのも「一流の規格外」の発想だが、仕方がない。クラブラウンジやロビーラウンジで茶でも振舞うくらいの配慮があるかと思いきや、結局1時間以上も放っておかれ、「それでは、お部屋の準備ができましたのでご案内します」と軽い口調で言われた時には、再度怒りが込み上げてきた。

この係は客のわがままに振り回されているとでも思っているのか、単に謝り方を知らないだけなのか。到着時に清潔な部屋を用意できず、客の時間をたっぷり無駄にしておき、その反省を示すことすらできないとは情けない。「待つ間、せめて茶くらい出してくれるかと期待したのがバカだった」と不満を述べれば、「今からコーヒーでもいかがでしょうか」と完全な出遅れオファーをする始末。

もう結構。今回は帰ることにしよう。これ以上、ここにとどまっても、お互いにいい思い出にはならない。仕切り直すことが、本来優秀であるはずの彼らに対する、せめてもの思いやりである。ベルキャプテンと客室係責任者に伴われ、正面玄関まで行くと、彼らはタクシーに荷物を積み込み始めた。

これは、二度と来なくてもいい客への対応である。そのくせ、口では「またお越しください」とか「チャンスをいただきたい」と言う。ならば、ロールスロイスでも用意したらどうかと提案してみた。ロールスロイスは予約で埋まっているが、レクサスでよければ希望の場所までベルキャプテン自ら送るとのこと。頼む前にそう言ってくれれば、ずいぶんと印象が違っただろうに。

実は、帰ると決めてから正面玄関に下りる間に、グランドハイアットへの予約を済ませていた。ここからグランドハイアットまでは歩いても行ける距離なので、レクサスで遠慮なく送ってもらうことにした。グランドハイアットの正面玄関では、理想的な出迎えがあった。荷物は丁寧かつ美しい動作で運び込まれ、何ひとつ不安や滞りを感じさせるものはなかった。

ここまで送らせたことの本意は、この様子をザ・リッツ・カールトンのベルキャプテンに見せたかったからである。ザ・リッツ・カールトンにしてみれば、格下のホテルがここまで洗練されたサービスをしていることが、心底恥ずかしかったはずだ。いや、恥ずかしいと感じるセンスを持っていることを願いたい。そして、いつの日か、またザ・リッツ・カールトンを訪れる際には、グランドハイアットに負けない見事な振舞いで出迎えてくれることを期待したい。

 
ゆとりあるスペースの標準客室 心地よいベッド 窓際のリビングスペース

アームチェアとテーブル デスク デスク側面

収納とテレビ 窓際から収納側を見る クローゼットの扉を開いたところ

クローゼット扉の汚れ 雨で景色はよく見えない 斜めになった窓

ディレクトリーのケース テレビ下の収納 ナイトテーブル

ホワイエ バスルーム扉 茶器

冷蔵庫内 ティーセット ミニバーには高価な酒も

バスルーム バスタブ前からバスルーム入口を見る バスルーム入口前にミニバーがある

バスタブとシャワーブース バスタブ シャワーブース内

ベイシン バスアメニティ トイレ

 ザ・リッツ・カールトン東京(公式サイト)
 以前のレビューはこちら→ 070501


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