富士屋ホテル Forest Lodge Deluxe Room |
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Fujiya Hotel |
2008.01.25(金)
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神奈川県足柄下郡 |
哀-2
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アダージョ | 夜の予定がキャンセルになり、にわかに18時間の休暇ができた。そうとなったら即行動だ。ホテル予約サイトを見ると、富士屋ホテルが手ごろな料金で出ていた。宮ノ下というロケーションもいいし、この寒い季節に温泉はとても魅力的。迷うことなく即決した。その時は渋谷にいたので、着の身着のままで品川から新幹線に乗り小田原で下車。タクシーに乗り継ぎ30分で富士屋ホテルに到着した。
思い立ってから、まだわずか1時間程度しか経っていない。正面玄関からフロントまで、係が案内してくれた。金曜日の夜とあって、フロントは今しがた到着した客で賑わっている。チェックインには順番待ちが生じており、ロビーのソファを勧められ、しばらく待つように言われた。 やがて順番が巡ってきて、チェックインはスムーズに行われた。次は客室への案内である。ベルが出払っていたため、やはり待つことに。慣れたホテルなら自分で部屋へ向かうところだが、富士屋ホテルは複雑な構造をしているし、せっかく慌しい都会を抜けてリゾートまで来たのだから、ここはのんびりと待つというのも悪くない。 その間、ロビーのあたりをしみじみと見渡してみると、一見雑然としているようで、あちらこちらに細やかでユニークな意匠が数多く存在し、思わず見入ってしまう箇所も少なくない。フロントカウンターも重厚で立派な造りをしているし、漆喰の壁や木の床、渋い光沢を放つ梁やレトロなデザインのレザーソファ、柱に刻まれた和洋折衷の彫など、興味は尽きない。高い天井から下がる照明器具も、ひとつひとつに個性が光る。 案内を忘れて内装に見入ってると、ベルアテンダントから名前を呼ばれた。ふと我に返って、ベルの後に続いた。ロビーは暖房が効いていたが、部屋まで至る廊下はかなり寒かった。館内の設備や見どころを紹介しながら、ゆったりとした足取りで進むのだが、そのテンポが「アンダンテ」ではなく「アダージョ」だったため、いささかまどろっこしいと感じることもあった。 まどろっこしさの原因は歩調だけではなく、案内した係の思い入れにもあるようだ。このホテルの歴史をこよなく愛し、自らの言葉で語ってくれるのならば、おのずと興味もわくが、マニュアルで定められた通りのことを形式的に口にしているに過ぎないとなると、耳には入るが響きはしないのである。それでも、部屋に着くころには、富士屋ホテルに関する薀蓄のいくつかが頭にすり込まれていた。 部屋に入ったら、いつもならば室内をしみじみと見回すところだが、この時は荷物を置いてすぐにロビーへと引き返した。食事は済んでいたが、せめてコーヒーでも飲みたかったので、閉店時間が迫るティーラウンジ「オーキッド」へと急ぐためだ。ぎりぎりセーフで入店したラウンジには、もう他に客はいなかったが、若い男性の係は快く迎えてくれた。 焼き菓子セット1,000円を注文すると、フィナンシェとマドレーヌがひとつずつに、コーヒーが運ばれてきた。古い館のサンルームのようなロケーションにあって、昼間なら庭園を望むのだが、夜のひっそりと落ち着いた雰囲気も悪くない。音楽もなく、静かに時だけが流れている。都会の喧騒からのがれてからさほど時間が経過していないとなれば、その静寂もまたひとしおだ。 ラウンジを出る頃にはロビーの客も散って静けさを取り戻していた。館内を散策しつつ、室内プールの様子を見に行くと、営業時間は終了していたが、まだ照明が点っていた。このプールは温泉を利用しており、年中利用できるようになっている。更衣室やシャワールーム、ロッカーも備えているが、プールサイドにはねそべってくつろげるようなデッキチェアは見当たらなかった。また、プールに接して設けられたジャクージは修理中で使えないのだが、ビニールシート、ベニヤ板、ロープを使って封鎖してある様は、なんとも痛々しく見えた。 プールの向かいには温泉浴場がある。混雑しているかどうか、ちょっと様子を覗いてみたところ、脱衣カゴが満杯であった。脱衣所も浴室内も、ホテルの規模を考えたらまったくもって小さすぎるために、いつも混雑している印象だ。空いている時を狙って利用することにして部屋へと戻った。 今回用意された客室はフォレストロッジのデラックスルーム。同じカテゴリーでもタイプによって広さが大きく異なるようだが、今回のは41平米ある広いタイプだ。ただ、裏向きだったので、日当たりが悪く、眺めは暗い林。時折登山電車が通り過ぎるのが見える程度であるが、これはこれで悪くはない。表向きならばホテルのガーデンが見えることだろう。 室内のインテリアはとてもクラシカルで日本的。ベッドとカーペットの代わりに畳を敷いたら、そのまま和室としても使えそうだ。入り口からベッドが丸見えになる配置のため、居室の手前に目隠し役の衝立が置いてある。居室は真四角に近い形状で、天井高は270センチ。120×205センチのベッドが2台並び、その上には富士山の絵が掛かる。家具はどれも古く、使い込まれていると同時に傷も多い。ライティングデスクとは別に独立した三面鏡付きドレッサーを備え、それらの間に冷蔵庫とテレビを設置。風情のある家具に挟まれた電化製品が雰囲気を壊しているのが残念だ。 窓際には低いソファが対面してセットされ、レースカバーのクッションが添えられている。窓は2重で、障子窓の他にカーテンが掛かっており、腰板の意匠も面白い。照明は蛍光灯の間接照明の他、フロアスタンド、ペンダントライトなど、数多くの光が室内を照らしている。特にデスク上に置かれたぼんぼり風のスタンドがアクセントになっている。 バスルームはタイル張りで約4.5平米の面積がある。天井高は230センチあるので、圧迫感は少ない。内装はシンプルで、便座には洗浄機能が備わっていない。カランからバスタブに注がれる湯も温泉なので、温泉浴場まで出向かなくとも、いつでも好きな時にプライベートに温泉を満喫できるというのはいい。ただ、ユニットバスでは、情緒に欠けるのが難点だ。やはり一度は温泉浴場を利用したいと思ったが、結局いつ行っても満員のため、ついぞ一度も浸かることがかなわず、ユニットバスでの温泉で我慢するしかなかった。 一夜明けて外を見ると、所々に雪が残っている。特にフォレストロッジの裏手は日陰が多い分だけ残雪も多い。朝食はメインダイニングの「ザ・フジヤ」にて。朝食の提供時間は7:30から9:30と短く、平日に朝食を愉しんでから都内に出勤したいという人には厳しいものがある。店内は富士屋ホテルの象徴的空間にもなっており、なかなかダイナミックだ。寺院や銭湯にも通ずるものがある。スタッフの人数は十分に揃っており、伝統的なサービススタイルを身の上としているようだ。ひしめくように並んだテーブルには真っ白いテーブルクロスが掛かり、布製のナプキンがセットされている。 今回注文したのはカントリーソーセージ。どんなものなのか想像がつかなかったが、運ばれてきたのは「ゆるゆるのハンバーグ」という感じの一皿だった。それだけで味わうには肉のくさみが強く、朝から胸焼けがしそうだったので、焼きたてのパンにサンドして食べてみたところおいしく感じられた。 朝食後は館内と庭を散策してチェックアウト。タクシーを手配してもらい、箱根湯本駅へ向かった。ドアマンは正面玄関で車の整理には熱心だが、客を見送るという姿勢は持っていないらしい。一礼するでもなく、笑顔を向けるでもなく、最後の最後にぞんざいな扱いをされたような気分だった。 |
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